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【Event 7】 ─ 決められた選択 ─


 ゼルギアの居る酒場──ギルドまでは、あともう少しの距離というところだった。

 俺は歯を食いしばって踏ん張り、前に進み続ける。


 ゆっくり。

 ゆっくり、と。

 

 一歩、また一歩と。

 確実に前へ──。


 その後ろではリーリンが俺の背中の服を懸命に引っ張りながら駄々を言う。


「ダメです、アシ様! 私は反対です! 行ってはいけません!」


 な・ん・で・だ・よ!


「アシ様はあのゼルギアって人に騙されているだけなんです!」


 いったい、俺が、誰に、どうやって、何を、騙されるって、言うんだ?


「ギルドは悪いところなんです! 私知ってます! 色んな噂を聞きました! ギルドなんて登録したら、アシ様はきっとそのままどこかに売られちゃうんです! ゼルギアって人はきっと悪い人なんです! 騙されてはダメです、アシ様! ゼルギアって人は、絶対アシ様のことを狙っています!」


 ……。


 俺はため息を吐いて、足を止めた。

 その瞬間、リーリンが俺を離すまいとしがみつくようにして抱きついてくる。


「アシ様は私専用だけのアシ様なんです! アシ様を絶対ギルドなんかに行かせません!」


 ……なぁ、リーリン。


 俺は声を落として静かにリーリンに言った。


 お前、ギルドを何か勘違いしてないか?


「……?」


 リーリンは不思議そうに小首を傾げて目を二、三度瞬かせる。


「勘違い、ですか?」


 頷いて俺はぽつりと答える。


 あぁ。ギルドには【冒険者クエスト】というものがある。

 そのクエストをクリアすればお金がもらえるんだ。

 その為に俺はギルドに行く。


「で、でも……でもでもアシ様。ギルドに行ってクエストを受けたきり、帰ってこない冒険者もいると聞きます。それでも本当に行かれるのですか?」


 いや、そりゃお前──


「私は反対です。絶対にダメです。アシ様が居なくなったら私はこの先、一人でどうすればいいのですか?」


 何他人事みたいに言ってんだ、さっきから。

 ちなみに言っておくが、お前も一緒にギルドに登録するんだからな。


「え。……私も一緒に、ですか?」


 そうだ。お金のこともそうだが、何よりまずはお前のレベルを上げていかなければならない。

 お前は魔王を倒す勇者なんだろ?


「大丈夫です。アシ様さえ傍に居てくれれば魔王なんて楽勝です!」


 よし。俺は今お前の言葉を聞いて確信した。絶対ギルドに登録してお前のレベルを上げてやる。


 その言葉を聞いて、リーリンの表情が輝いていく。

 すぐに俺から離れて拝むように胸の前で両手を組む。


「なんだかアシ様のその言葉を聞いただけでも魔王を倒せそうな気がしてきました。私はアシ様を信じてどこまでもついていきます!」


 いや、頑張るのはお前だからな。言っとくけど。

 あと魔王を倒すのもお前の役目だからな。


 俺は半眼でそう釘を差した。






 ※







 そして。

 俺たちはギルド前──酒場へと到着する。


 行くぞ、リーリン。


「はい」


 そう明るく元気に返事して、リーリンは何も分かってない風に俺のあとをとてとてと追ってくる。

 ふと──。

 ギルドの出入り口付近のドア前へ行った時だった。

 俺たちは一人の少女とすれ違う。


 見た感じ、リーリンとは同じ歳のように思えた。

 その腰には女性にも扱いやすそうな高級感漂う立派な細剣。

 身なりはリーリンとは対照的に騎士っぽい格好をしている。

 見た目的にも腕は立ちそうだ。

 長いストレートの金髪をさらりと優雅に揺らし、どこぞのご令嬢とも思える上品な振る舞いで、少女は俺たちに気付いて──正確には俺をガン無視してリーリンに対し──振り向いてきた。

 視線をリーリンに向けたまま、どこか澄ましたような声で言ってくる。


「あら、誰かと思えば」


「……?」


 リーリンがきょとんとした顔で小首を傾げる。

 俺はリーリンに尋ねた。


 知り合いか?


「……」


 リーリンが無言で首を横に振る。

 途端に、少女が急にムカついたように顔を曇らせ突っかかってくる。


「あら、そう。他の勇者なんて眼中にないってことね。

 いつまでもそうやって浮かれているといいわ。

 【白の巫女】様に選ばれた勇者はあなただけじゃないの。私にだって勇者になる権利はあるのよ。

 あとは最強のアシスタント様さえ私についてくだされば、私はいつだって魔王を倒す勇者になることができるのだから」


 あの……


 俺は口を挟む。

 少女が鋭い目つきで俺を睨んでくる。


「気軽に話しかけてこないで。私に話しかけていいのは最強のアシスタント様だけ。

 ──弱い男は私、嫌いなの」


 つん、とそっぽを向いて。

 少女は俺たちの前から去っていった。


 ……。


 無言で、俺は考え込むように顎に手を置く。

 すると隣から。

 リーリンが俺の服をちょいちょいと引いて、機嫌をうかがうように恐る恐る尋ねてくる。


「あの、アシ様?」


 ……。


 リーリンの言葉を無視して、俺はしばらくの間無言で記憶を探し続ける。


 なぜだろう。

 俺はあの少女を知っている気がする。

 どこかで見た事がある気がするんだ。

 しかし一体どこで?


「アシ様?」


 ……。


 しばし考えた後。

 ようやく、俺は少女の記憶を見つけた。

 ポンと手を打つ。


 ──そっか、思い出した!


「何をですか?」


 尋ねてくるリーリンに俺は「なんでもない」と首を横に振った。

 言えない。

 この世界に引き込まれる前、このゲームで最初にやった選択肢。

 選ばなければならない二人の勇者。

 どちらかの勇者を選び、育てて、魔王を倒させる。

 それがこのゲームの全体的な内容だった。

 一人は──リーリンではなかったが──別の少女勇者。

 そしてもう一人は……。

 それがさきほどの彼女だった。


 結局俺は、このゲームで彼女を選ばなかった。

 別に容姿や性格がどうこうといった故意ではない。

 あくまでただのゲームだったし、俺からしてみれば画面上のキャラだ。

 そんなの適当に選ぶに決まっている。

 なんとなく。

 そうなんとなく、選んだつもりだったのだが……。

 でもそのなんとなくが、今になって俺の心に深く突き刺さ──


 すると突然、運営の指示が虚空に現れる。






【 Mission 5 : 少女のことを思いだ──あ。

【Mission 5 クリア!】

 はい、おめでとー。






 ──『あ』じゃねぇよ! 

 なんだよ、その【出遅れた感】のある、やる気ない『おめでとう』は!

 しかもミッション遅ぇーだろ!

 どんだけ気を抜いてんだ、運営! うっかりタイミングにも程があるだろ!



 すぐに。

 運営は冷静に、何事無く次のミッションを指示してくる。







【 Mission 6 : ギルドに登録してみよう 】


 ※ ただし、『はい』以外に選択肢はない。








 だから、ミッション出し遅ぇって。

 通信上のトラブルか?

 しかも『はい』以外に選択肢はないってなんだよ。

 なんつー難易度ミッションの仕方してくんだ、運営は。


 俺にしか見えない運営の指示。

 それをずっと見つめていると、隣からリーリンが何も無い空中にオロオロと視線をさまよわせながら不思議そうな顔で尋ねてくる。


「あ、あの、アシ様? さきほどから一体どこを見て、誰と話しているのですか?」


 いや、別に。


 俺は冷めた気分で視線を下ろし、リーリンを見つめる。


 ……。


「あの、いったいどうされたのですか? アシさ──きゃぁ。」


 リーリンがふいに短い悲鳴を上げて驚く。

 俺が急にリーリンと手をつないできたからだ。

 別に好意とかそういうのじゃなく、決意的な思いを込めて、俺はリーリンに言う。


 んじゃ、行こうかリーリン。


 そう言うと、リーリンが真っ赤に染めた笑顔でこくりと嬉しそうに頷いてきた。


「はい」


 ……。

 俺は内心で思う。


 今更だ。

 ほんと今更だ。

 彼女を選ばなかったとかそんなこと気にする必要なんてない。

 ──これが、俺の決めた選択肢。

 俺は彼女リーリンをサポートすると決めたんだ。

 

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