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【Event 6】 ─ 装備力 ─


 俺は一人で道具屋に来ていた。

 リーリンには503Gを手渡して好きな服を買って来いとだけ伝えた。

 さすがに子供じゃないんだから一人で買い物くらいはできるだろう。

 リーリンは喜んで一人で買い物に行った。

 その間、俺は別行動で道具屋に来ている。

 俺は商品棚から【回復草】を手に取ると、カウンターへと歩み寄り、店主に尋ねる。


 回復草って一ついくらだ?


 店主は笑顔で答える。


「一つ5Gだよ」


 ふーん。じゃぁ10買おう。


「毎度あり。他に何か買うかい?」


 復活の薬っていくら?


「一つ150Gだよ」


 んー。じゃぁ1買おう。


「毎度あり。他に何か買うかい?」


 このくらいでもういいかな。あとはいらない。


「そうかい。またおいで」


 ありがとう。


 俺は回復草10個と回復の薬1個をアイテム袋の中に入れた。

 それだけですでにアイテム袋の中はいっぱいになった。


 ──って、早ぇーな。オイ。


 すると道具屋の店主が言ってくる。


「アイテム袋を追加するには課金が必要だよ」


 課金ってどうやるんだよ。


「まずはこのゲームをダウンロードした最初の画面から【Gマネー交換】のページに飛び、キャッシュを電子マネーに交換して、そこからさらにゲームマネーを──」


 最初の時点ですでに無理じゃねぇか。ログアウトしないと絶対無理だろ、課金なんて。ここの原住民はどうやってアイテム袋を増やしているんだ?


「じゃぁ仕方ないね」


 仕方ないじゃなくて、ここの原住民はいったいどうやって──


「じゃぁ仕方ないね」


 原住民はいったいどうやって──


「じゃぁ仕方ないね」


 もういいよ。諦めるよ。増やす必要なんてないんだろ、ここの原住民は。


 ようやくそこに気付いたところで、俺は道具屋をあとにした。





 ◆





 道具屋を出て、街中を歩く。

 俺は手に持っていた所持金に視線へと落とした。

 残る所持金は300G。

 特に買いたい物とかは……。


 ふと、目に止まる武器屋。

 そういえば俺は何も装備していない。

 必要ないといえば必要ないのだが、使えるのが魔法だけっていうのもなんだか頼りないし、弱そうな気がする。

 それにもし、また運営のミッションに【※ただし魔力2】なんてやられた日には全滅確実だ。

 一応簡単な武器だけでも手に入れておいた方がいい。

 そう思った俺は、武器屋へと足を向けた。






「いらっしゃい」


 武器屋に入り。

 俺はそこの店主に声をかける。


 安くて使い方簡単で軽い剣ってあるか?


「いらっしゃい。どんな用事だい?」


 いや、だから。安くて使い方簡単で軽い剣ってあるか?


「買う・売る・出る」


 買う。買うから。

 買いたいから、安くて使い方簡単で軽い剣ってあるか? ってさっきから聞いてんだよ。


 すると店主は二つの剣をカウンターに並べた。


「右が【旅人の剣】で値段は130G。

 攻撃力は+10、使用回数は2だ。ちなみにこの剣はこの街を出て、ほどよく進んだ森の中の宝箱に高確率で入っている。どうせなら直接取りに行った方がいい」


 いや、『ちなみに』以降のアドバイスは正直聞きたくなかった。


「左が【なまくらの剣】で値段は150G。

 攻撃力は+15、使用回数は2だ。ちなみにこの剣はすぐに折れやすい。大事な戦闘の時は使わないことをおすすめするよ。どうせなら別の物を買った方がいい」


 ……。

 売る気あるのか? 店主。


「買う・売る・出る」


 買う。【なまくらの剣】を一つ。


「ありがとよ。またおいで」


 ……。


 店主のありがたくないアドバイスも添えられていたが、パンツ売れない事件のこともあり、俺は【なまくらの剣】を買うことにした。

 【なまくらの剣】を手に入れ、俺は腰の部分に装備する。

 これで基礎的な準備は万全だ。





 ──武器屋を出て。

 俺はリーリンの行方を目で捜す。

 すると、道の向こうからリーリンが大きく手を振って駆け寄ってくる。


「アシ様ぁー!」


 ……。


 俺はリーリンの姿を見て思わず絶句した。

 リーリンが俺の前へと辿り着く。

 それと同時に花弁のようにふわりとスカートを風になびかせながら、くるりと一度俺の前でかわいく回って見せ、次いでスカートの裾をちょいと掴んで辞儀をし、とびっきりの笑顔で言ってくる。


「どうですか? アシ様。すごくかわいいでしょう?」


 ……。


 俺は無言で眉間に指を当てた。


「あれ? アシ様? どうしたのですか? やっぱりこの服じゃダメですか? 好みに合いませんか?」


 ……なぁリーリン。


「はい」


 お前って、勇者だったよな?


 リーリンは笑顔で頷く。


「はい」


 なんでそんなひらひらした格好なんか──


「だって魔法使いの服の方がかわいかったんです。戦士の服なんて地味だし野蛮っぽくて、なんか嫌なんです」


 もう一度聞く。

 ──お前って、勇者だったよな?


「はい。でも魔法使いの服の方がすごくかわいかったんです。アシ様も、私がかわいい服を着ていた方が嬉しいでしょ?」


 そういう問題か?


「ダメですか? アシ様ならきっと喜んでくれると思って──」


 ちょっと待て。その前に、お前のその手に持っている物はなんだ?


「魔法の杖ですけど」


 それ必要ないだろ。お前は勇者だろ? 持つべき物は杖じゃなくて剣のはずだろ?


「剣なんて血生臭すぎます! そんな野蛮なこと、私出来ません! 女の子なら魔法使いになるべきなんです! 遠くから『えいっ』って魔法を使って細々とコンパクトに戦うべきなんです! かわいければ何でも許されるんです!」


 もういい。わかった。戦闘はとりあえず俺がやる。

 そもそもお前、杖がなくても魔法は使えたはずだよな? その杖は無駄な装備だよな?


「ファッションです。杖は飾りなんです。でもいざという時はこれで殴れるんです。ちなみに杖の上部分には収納式のスパイクついてます」


 もうそれ棍棒の域だろ。殴打率100%的な。


「それよりもアシ様だって剣を買っているじゃないですか。魔法使えるのに。それこそ無駄な装備じゃないですか」


 俺のは護身用だよ、割と本気で。


 安物だけどとは言えなかった。

 俺も言ってしまえば衝動買いだ。

 リーリンのことを強く言える立場じゃない。

 買い物のことはこの際水に流そう。


 咳払いして。

 俺はリーリンに尋ねる。


 なぁリーリン。


「はい」


 お前、あといくら残ってる?


「ゼロですけど」


 は?


「ゼロ、ですけど」


 ゼロ?


「はい」


 503Gを全部使ったのか?


「あ。3Gは残っています」


 ……。


 俺は眉間にシワを刻んで、そこに人差し指を当てる。


「どうしたのですか? アシ様」


 どうしたもこうしたもなかった。

 よく考えてみればこの先、お金が必要となってくる。

 宿代にしても飯代にしても何を買うにしても、だ。

 いつログアウトできるかも分からないこの世界。

 普通に眠いし腹も減る。


「アシ様?」


 ……。


 運営は何もしてはくれない。

 所持金は減る一方。

 ならばどうすべきか。


「アシ様?」


 なぁリーリン。


 俺は思いつく。


「はい」


 ギルドに登録してみないか?



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