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【Event 4】 ─ ささやかなプレゼント ─


 ──あれから。

 ゼルギアと別れた俺とリーリンは【アデルの街】を歩いていた。

 別れた、といっても誘いをハッキリ断ったわけではない。

 断ろうと思ったのだが、向こうが『考えてみてくれ』と俺たちに告げて、答えも聞かずに去っていったのだ。

 つまり、ギルドに入るかどうかは俺たちの選択次第というわけだ。

 

 ふと。

 リーリンが俺の後ろをついて歩きながらぽつりと言ってくる。


「あの……」


 ん?


「これからどうするのですか?」


 んー……。


 俺は歩きながら顎に手をやり考え込んだ。

 するとリーリンが心配と不安を浮かべた顔で、俺の前へと周り込んでくる。

 俺は仕方なしに足を止めた。

 リーリンも足を止めて必死に言ってくる。


「もしかして、さきほどのゼルギアさんの誘いを受けられるつもりなのですか? ギルドに入れという、あの言葉を」


 んー……。


 俺は思った。

 ギルドに入ったからと、俺たちにいったい何のメリットがあるだろう。


「絶対ダメです!」


 流すように視線をリーリンへと向ける。


 え? なんで?


 その言葉にリーリンが、ぐっと拳を握って憤怒の形相で言ってくる。


「何を言っているんですか、断ってください! 私たちには魔王を倒すという大切な義務が──」


 魔王退治って、それお前の義務だよな? 俺関係ねぇーし。


「関係なくありません! あなたは【勇者のアシスタント】なのですよ? 【勇者のアシスタント】たる者、けして勇者の傍を離れてはいけないのです!」


 いや、なんかすげー説得力ある感じに言ってきているが、裏を返せば『勇者の傍を離れず俺に魔王退治しろ』と丸投げしているだけだからな、それ。


「そんなことありません! 私とあなたは常にセットです。"私の成長があなたのお仕事なのです"」


 なんだよ、その社畜的フレーズ。一応断っておくが、魔王を退治するのはお前なんだからな。俺はあくまでお前のサポートであって、魔王退治には一切関係ないからな。


「もちろんそれは任せてください。私が魔王を倒してみせます。その言葉に偽りはありません」


 お前がそれ言うと説得力のかけらもないな。


「口先なんかじゃありません! 私は魔王を倒す勇者です! 私が絶対に魔王を倒してみせます! けれど、魔王のところまで行くにはサポートが必要不可欠なんです!」


 いや、そりゃ分かってはいるが……


 リーリンは不機嫌に頬を膨らませると、腕を組んでぷんぷんと怒った。

 その隣で俺は疲れたようにため息を吐くと、内心で愚痴る。


 こんな調子で魔王に立ち向かわれたんじゃぁ結果エンディングは見えたも同然なんだよなぁ。


 敗北。

 その言葉が俺の脳裏に浮かぶ。

 このままでは全部負担が俺に来てしまう。

 そこはなんとかしないと……


 仲間からの脱退。

 それも考えたが、俺もそこまで鬼畜じゃない。

 俺はうんざり気味に再度ため息を吐くと、現実逃避するように空を見上げた。


 そうすることで、ようやく。

 俺はあることに気付いた。

 虚空に浮かぶ、半透明なメールのイラスト。

 そのメールがぴかぴかと光っていた。


 ん?


 俺はそのメールイラストに手を伸ばす。

 手を伸ばせば掴めそうな気がしたからだ。

 しかし、

 空気を掴む感じにスカスカと。

 俺の手はあっさりとメールイラストをすり抜けた。


 ……。


 リーリンが不思議そうに俺の顔を覗き込んで問いかけてくる。


「あの……何をされているのですか?」


 俺は答える。


 取れるかなと思って。


「何がですか?」


 運営からのメールが来ているんだが取れそうにない。


「メール? ……あの、いったい、何がどこに──?」


 いやこれマジ、どうやって受け取るんだ?


 そういえばゲームをプレイしていた時はキャラの頭上に浮かんだメールをマウスでポチッと押していたが、こういう場合はどうすればいいのだろう。


 しばらくするとメールのイラストがパッと消えて、虚空に【運営】からのメッセージが表示された。









『 ※郵便受けに【運営】からメールが届いています。

 この度は緊急のメンテナンスにより、お客様にご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。

 ささやかではございますが、お金とプレゼントを送らせていただきました。

 三日までに郵便ポストにてお受け取りください。』










 ……郵便ポストぉ?


 俺は思い出す。


 そういえばこのゲームをプレイしていた時にコミュニティー仲間や運営から連絡が来た時、郵便ポストにメールを読みに行っていたなぁ。


 ……え。


 ちょっ、いや、マジで?

 マジで俺、プレイキャラのごとくポストまでメールを取りに行かなければならないのか?


 考え込んでいる間に、虚空のメッセージが消えていく。


 ……。


 奇妙な気分だったが。

 俺は半信半疑のまま、とりあえずポストの場所へと足を向けた。

 リーリンがおろおろと俺のあとをついてくる。


「急にどうしたのですか? 何かあったのですか? ──というか、どこへ向かわれているのですか?」






 ◆







 突然も突然だった。

 郵便ポストに辿り着くと同時、リーリンがふと俺に尋ねてくる。


「あの、アシ様」


 誰だ? アシ様って。


 リーリンが俺を見て言ってくる。


「あなたのことです。私、あなたの名前をまだ教えてもらっていません」


 あーそうだな。そういえば言ってない。


 俺は虚空を見上げながらそう答えた。

 たしかにリーリンには一言も、俺のことについて明かしていない。

 だけどどうやって今の俺のこの状況を説明すべきか。

 きっと何を言っても信じてもらえないだろう。


 ……。


 しばし考え込んでいる間に、リーリンがそのことにさほど気にする様子も無く会話を続けてくる。


「あなたは私のアシスタントとなる御方です。だから、これからは略して【アシ様】とお呼びしたいと思っているんですが……。

 あなたのことを【アシ様】って、そう呼んでもいいですか?」


 好きにしてくれ。


 俺のその言葉を聞いたリーリンが急に頬を染めて、俺の服の裾をちょっと掴んでくる。

 気恥ずかしそうに身をくねりながらぼそぼそと、


「好きに……してくれ、ですか。

 あの……好きに……」


 そこだけ抜き出すな。


「そ、そそそ、それじゃぁ……あ、あの……あ、あし、アシ様──」


 なに?


「きゃっ。なんだかこういうのって、こう、照れちゃいますね。ふふ」


 なんでだよ。ってか、お前が言い出したんだよな?


 言って、リーリンがぎゅっと俺の服に顔を埋めてくる。


「だってだって、アシ様って言って振り向いてくれると、なんだかくすぐったいっていうか、照れちゃうんです。私」


 俺はうんざりとリーリンを引き離した。


 羽毛か、俺は。

 普通に呼んでくれないか? 別に俺、そういうつもりで──


 すると、ショックを受けた顔でリーリンが俺を見てくる。


「どうしてですか? そういうつもりじゃなかったら、いったいどういうつもりで許可してくれたんですか?

 私ってそんなに女としての魅力がないですか?」


 普通に呼んでくれって頼んでいるんだ、俺は。


 そう言って、俺はリーリンを無視するように目前の──【家庭向け郵便受け】の形の郵便ポストへと向き直った。

 そのポストへと手を伸ばし、触れようとしたところで。

 リーリンが俺の服を掴んでクイクイと引いてくる。

 俺は不機嫌に振り向く。


 なんだよ。


 リーリンが小首を傾げつつ、目の前のポストを指差して俺に尋ねてくる。


「これ、なんですか?」


 ポストだよ。


「ぽすと、ですか……」


 そう、ポスト。郵便ポスト。色んな人たちとの通信のやりとりをここでするんだ。


 言って。俺はそのポストの蓋を開けて一通の手紙を取り出した。

 すぐさまリーリンがその手紙をのぞきこむようにして顔を近づけ尋ねてくる。


「手紙って誰からですか? 女からの手紙ですか?」


 運営からだよ。


「うんえい……? うんえいってなんですか? 誰なんですか? 美人なんですか?」


 ……。


 俺は無視して手紙を開く。







【メンテナンスのお詫びとプレゼントのお知らせ】


 この度はお客様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

 ささやかながら1000Gとちょっとしたプレゼントを送らせていただきました。

 今後とも【運営】をよろしくお願いいたします。










 ──って、『よろしく』じゃねぇよ! いいかげん俺を元の世界に戻してくれ!


 苛立ちに頬を引きつらせる俺をよそに、俺の情報ステータスに新たなモノが追加されていく。








 職業 :勇者のアシスタンス

 レベル:カンスト

 状態異常:なし

 所持金 :1000G

 さくせん:まだ決めていません。

 現在地:アデルの街

 アイテム袋:ひまわりの種、元気の種、未来の梅干、ステレコのパンツ(使用済み)

 武器:ありません

 装備:旅立ちの服

 仲間:最弱勇者 

                                        』

 







 ──って、ちょっと待て!

 明らかに不必要な物が一つアイテム袋に入ってるぞ!


 俺はすぐさま腰に装着していた巾着袋を手に取ると、それを開いて中を覗きこんで確認した。

 アイテム袋の中にぐしゃぐしゃに入れられた男物トランクスが一丁。


 ステレコって誰だよ! 誰の男物トランクスだよ、これ! しかも使用済みじゃねぇか!


 すると突如、俺の頭上に運営の指示が現れ、そして消える。










【 Mission 4 : ステレコのパンツ(使用済み)の換金 】

 ※ やれるもんならやってみろ。













 → ※ やれるもんならやってみろ。


 ──マジぶっ飛ばすぞ、運営!


 俺は怒りを込めてアイテム袋の口紐をギュッと絞めた。

 リーリンがびくりと身を震わせて俺から少し離れる。


「き、急にどうされたのですか!? アシ様!」


 リーリンの腕を俺はガシリと掴む。

 血走った目で、


 行くぞ、リーリン!


 リーリンがおろおろとする。


「え、え、え? 行くってどこに? どこに向かわれるのですか? アシ様」



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