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【Event 9】─《試練の洞窟》にチャレンジしてみよう7 ─

これの最終更新が今から5年前とか……

もはや更新再開そのものがホラーだな。




 ティニアとリーリンを双方に連れ、俺は地下の最奥にあるボス戦を目指す。

 相変わらず、敵が人影(プレイヤー)の猛者どもに狩り尽くされて全く出てこない。

 宝箱は荒らされて空っぽの状態が続く。

 人影(プレイヤー)の猛者が一人、また一人とログアウトしていった。


 幽霊の出ないお化け屋敷ほど無駄なモノはない。

 ただの徘徊。暗闇の散歩道。

 そういった感じだった。

 俺はふと足を止める。

 その両脇ではティニアとリーリンが互いに睨み合いながらもぴったりと俺の腕にくっついてきて離れようとしない。

 怯えているというよりも、ただ張り付いているだけだ。

 そう。

 カブト虫がそこら辺にあった樹にしがみつくような。

 俺は張り付く二人を引き離した。

 別に美少女二人に密着されることが嫌いというわけじゃない。

 ただアテにされているような気がして、それはちょっと違うと思った。

 俺は二人に言う。


「勇者は誰だ?」


 すると二人して睨み合いながら答えてくる。


「私が勇者です、アシ様」


 ティニアが髪を払いながら言ってくる。


「私こそが勇者ですわ、アシ様」


 その言葉にリーリンの表情に怒りが走る。

 ティニアを睨みつけて両拳をぐっと握りしめ、


「アシ様は私だけのアシ様です! アシ様と呼んでいいのは私だけです!」


 負けじとティニアも言い返す。


「彼の職業は勇者のアシスタント。ならば私にも彼をそう呼ぶ資格があるはず。違うくて?」


「いいえ、アシ様は私専属のアシ様です!」


 以下、同々。

 言い合う二人をそのままに、俺は静かに溜め息を吐いてお手上げすると黙ってその場を立ち去った。




 ※




 しばらく地下を歩いていると。

 俺が居ないことに気付いたのか、二人がようやく追い付いてきた。

 リーリンが俺に喚く。


「置いていくなんて酷過ぎです、アシ様!」


 ティニアも同じく俺に喚いてくる。


「勇者のアシスタントのくせに勇者を放置するなんて酷過ぎですわ!」


 そこは息ぴったりなんだな。

 俺はそう思った。

 足を止めて振り返り、俺は二人に問う。


「勇者がアシスタントに頼りきりってどうなんだ? 二人とも勇者を名乗るなら俺より前に出て道を進めばいいだろ」


「す……」


 リーリンが何かを言いかける。

 俺は言葉を待った。

 リーリンの目は泳いでいるものの、その勝気な心だけは伝わってくる。


「す、進みます! 私は勇者ですから、もちろんアシ様より前に進みます!」


「わた、私もですわ! もちろん前を行きますわよ!」


 ようやく二人が仲良く腕組みして俺の前を進み始め──

 いや、遅ぇな。歩く速度がナマケモノより鈍足だ。

 恐る恐る、二人は震えながらもお互いに抱き合ってゆっくりと前に進む。

 そろりそろりと。

 気持ちは分からないでもない。

 俺だってレベルがカンストしていなければこんな感じだったかもしれない。

 しかもこの先の敵が狩り尽くされていることも電子地図で知っている。

 だからこそ二人を前に進めたのだが……。

 

(敵が居ないことを言うべきか否か)


 俺は判断に迷う。

 しかしここは試練の洞窟。

 二人を立派な勇者にさせる為にもここは静かに見守ろう。

 そういうわけで、俺は黙って後方から二人を見守ることにした。




 ※




 やがて。

 俺たちは地下の最奥にある怪しげな扉の前に辿り着いた。


 見た目がいかにもボス戦を彷彿とさせる。

 その雰囲気に呑まれてか、リーリンとティニアがお互いに譲り合いを始める。

 しばらく黙って様子を見ていたが。


「……」


 なんだかだんだんと喧嘩腰の勢いになってきたので、俺は静かに二人を横に退けた。

 二人に見守られる中。

 俺はボス戦となるであろうその扉を押し開いた。

 見た目はクソ重そうな石の扉。

 けど、実際にはそこまで重くなかった。

 俺は扉を開いていき──


「……」


 中を見て。


「……」


 俺は再び扉を閉めた。

 二人へ振り返り、そして何事もなかったかのように手を叩く。


「さぁ、帰ろう。俺たちの試練はここまでだ」


 二人がオロオロとする。


「い、いったいどうされたのですか? アシ様」


「この先にいったいどんな試練があったのですの?」


 俺は二人に向け、爽やかな笑顔で言う。


「お疲れ様でしたー」


 方向転換したところで、がしっと。

 俺は二人に肩を掴まれた。


「どこへ行こうとしているんですか? アシ様」


「試練はこれからですわ、アシ様」


 そう言うのであれば実際にその目で見てきてほしい。

 俺は二人に扉の先を見てくるよう指示した。

 二人は互いに目を見合わせた後。

 小首を傾げながら扉へと向かった。

 そして二人して何事なく扉を開けていく。


「アシ様、何もないですよ?」


「ボス戦って感じはしますけども肝心の敵がどこにも居ませんわ」


(いや、そんなはずはない!)


 俺はたしかにこの目で見た。

 現実を確かめるように、俺は二人の間を割り入ってボス戦の広間へと踏み込んだ。


「……」


 二人の言う通り、広間には何も居なかった。

 俺が見たのはいったい何だったのか?

 あれがボスではなかったのか?

 巡るめく混乱が俺の頭の中を反芻する。

 混乱のままに。

 俺は二人を連れて広間の奥へと踏み込んでいった。


「……」


 辺りを見回せど。

 あれが夢であったかのように何もない。

 愕然とする俺に、リーリンが不思議そうに問いかけてくる。


「アシ様? いったい何を見たのですか?」


「リーリン落ち着け」


「落ち着いてください、アシ様」


 ティニアが俺を見て、呆れるように頬に手を当て溜め息を吐く。


「何を見たのか知りませんが、私、幽霊類ごときに怯える弱い男は嫌いですの」


 リーリンがムッとして言い返す。


「アシ様はそんな人じゃありません! 魔王を一撃でワンパンする程の力を持った最強の人なんです!」


「どこの勇者だ、俺は」


 ティニアが疑わしい目を向けてくる。


「どうかしら? それは言い過ぎではなくて?」


「本当です! ねぇ? アシ様」


「何の同意だ?」


 俺が頷かずにいると、ティニアが増々俺を疑ってくる。


「だったらこのボス戦を怖がる必要なんて無きに等しいでしょう。それなのに、なぜそんなに怖がっているのかしら?」


 いや、怖いとか怖くないとか、そういう次元の話じゃないんだ。

 俺がそう言いかけた時。

 そいつは音もなく天井から落ちてきて、ティニアの背後に降り立った。


2020/06/13 19:00


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