【Event 9】 ─ 《試練の洞窟》にチャレンジしてみよう 6 ─
しばらく、道なりに。
俺とリーリンは地下通路を歩いていた。
「敵、現れないですね……」
「そうだな」
この層の敵はすでに青の点滅に滅ぼされている。
どんだけ狩りに飢えてるんだ?
たまに時間で出現する敵すら集団で群がり、追いかけ、瞬殺している。
いや、仕事してくれ運営。
どんだけ放置するつもりなんだ、この状況。
ふと。
リーリンが俺に訊ねてくる。
「まだこの辺うろうろするんですか?」
「いや、もっと地下へ降りる階段を探している」
「まだ下るのですか?」
「あぁ。このまま最下層まで行くつもりだ」
ちょうど目の前のT字路に差し掛かった時だった。
そこを右に曲がろうとして、いきなり右通路の向こうから一人の少女が姿を現す。
「あら。誰かと思えばまたあなた達……。
こんなところで何をしているのかしら?」
以前ギルドの出入り口ドア付近で出会ったあの少女だった。
俺は思わず彼女に指を向ける。
「あ。お前、あの時の……えっと」
「ティニアよ」
彼女──ティニアは俺とリーリンを冷たく見下しながら言ってくる。
「ここはレベル二桁の場所よ。
最弱なお二人がこんなところでウロウロしていたら敵に瞬殺されるわよ。
もしかして、道に迷ったのかしら? 引き返すのだったら私も一緒についていってあげても──」
俺は言い返す。
「いや、俺達は別に。なぁ? リーリン」
リーリンは無言でこくりと頷く。
するとティニアが怒ったようにまくしたててくる。
「いいから退き返しなさいよ。一緒に地上までついていってあげるって言ってるでしょ!」
その言葉で俺は気付いた。
もしかしてこの様子──
「道に迷った、とか?」
俺の問いかけに、ティニアが急に赤面ながらに慌てふためき、言い訳をまくし立ててくる。
「べ、別に……! 道に迷ったわけではありませんわ!
レベルの低いあなた達と一緒にされるなんて大変不愉快!
こんなダンジョンくらい、私一人でも……一人でも充分ですわ!」
どうやら図星だったようだ。
プライドも高そうだし、そっとしておこう。
俺は気持ちを切り替えて優しくティニアに声をかける。
「俺達と一緒に行かないか? 俺達も試練の最奥を目指している。良かったら一緒に──」
「さ、最弱な男と道中を一緒なんてお断りですわ!」
リーリンが俺を押し退けてムッとした表情で言い返す。
「アシ様は最弱なんかじゃありません!」
「……」
ティニアが無言で俺たちを睨み付けてくる。
そのままぷいっと顔を背けて、一人で元来た道──角の向こうへと引き返していった。
リーリンがぽつりと俺に言う。
「行っちゃいましたね……」
「あぁ。そうだな」
ま、いっか。と、俺は肩をすくめる。
──そんな時だった。
角の向こうからティニアの悲鳴が聞こえる。
俺とリーリンは互いに顔を合わせて頷いた。
「行こう、リーリン」
「はい!」
そして俺たちはティニアの居る方へと駆け出していった。
※
「だ、誰か……助けて!」
ティニアが泣きそうな顔で周囲に助けを求めている。
敵が現れたのだ。
しかも複数。
やっと仕事してくれたんだな、運営!
俺は感謝の言葉を胸に、迷わず攻撃魔法を解き放った。
敵のレベルは二桁。
俺はカンスト。
最高レベルの攻撃魔法を食らい、敵を一撃で一掃する。
やっぱり最強魔法が使えるって最高だ。
遅れてきた人影の群れが止まり、やがて方向を変えて別の場所に湧いた敵に突撃していった。
(……もうどっちが敵か分からないくらい猛者と化してるな)
せっかく敵が増えてもこの有り様。
いつか過疎りそうだな、このゲーム。
気を取り直して俺は、ティニアを気遣い、手を差し伸べた。
そして改めてティニアにもう一度、先ほどの言葉を告げる。
「俺たちと一緒に行かないか?」
彼女一人ではきっとこんなところは心細いだろうし、それに一緒の方がリーリンも女友達ができて嬉しいはずだ。
「……」
やがてティニアは素直にこくりと頷き、俺の手を掴んだ。
この時、俺はまだ背後の恐ろしさ気付いていなかった。
リーリンの憎悪に満ちた嫉妬心に……。




