【Event 9】 ─ 《試練の洞窟》にチャレンジしてみよう 4 ─
歩いていて、ふと。
俺の背の服をリーリンが引っ張ってくる。
「あの、アシ様?」
「ん?」
振り返ると。
リーリンが俺の顔を見つめて心配そうに問いかけてきた。
「道……分かるのですか?」
「いや、分かんね」
「もしかして適当に進まれているのですか?」
「もしかもしなくても適当に進むしかないだろう。攻略サイトも見れないし」
「“こぉりゃくさいと”ってなんですか?」
「そのままの意味だ」
「あの、アシ様?」
「ん?」
「目の前の道がいくつか枝分かれていますが、どちらに進まれるつもりですか?」
「とりあえず真っ直ぐ進もう」
「とりあえず、ですか……」
「とりあえず」
俺はリーリンを連れて、とりあえず真っ直ぐに道を進んだ。
「ん?」
俺はふと気付く。
「どうしたのですか? アシ様」
「なんかあの道の向こうから声が聞こえてくる」
「幻聴ですか? ならばこのお薬を」
「いや、そうじゃなくて。聞こえてこないか?」
「何がですか?」
もしかして俺にしか聞こえていないのか?
たしかに声は聞こえている。
しかも複数の話し声。
俺は訝った。
なぜ?
だが、リーリンは嘘ついているわけでもなく、ボケをぶっこんできているわけでもなく、本気で首を傾げている。
俺はリーリンの手を掴み、真相を確かめてみることにした。
(本当に俺の耳が幻聴を聞いてなければ、この道の向こうに人が居るはずだ)
「アシ様、どこへ?」
「確かめるんだ」
「確かめる、ですか?」
「そうだ。きっとこの道の向こうに誰か居る」
俺はリーリンを連れて真っ直ぐに道を進んだ。
そして導かれるようにして進んだ道の果てに、部屋の明かりを見つける。
どうやら話し声もそこから聞こえてきているようだ。
部屋の明かりを目指して、俺はリーリンを連れて足早に歩いた。
※
道を抜けて、部屋の中へ。
大きな広間にも似た、神聖的な儀礼の場所だった。
石床の中央には巨大な魔法陣が描かれており、そこから次々と人影みたいなものが出現してくる。
そう、人影──。
実体のないたくさんの人影が、幽霊みたいにぽつぽつと現れたり消えたり、その場に留まっていたり、動いたりと忙しくしていた。
話し声はどうやらその影から聞こえてきていた。
まとまった話はなく、皆それぞれ自由に会話をしているようだった。
集会場。
オンラインゲームでよく見かける風景だ。
リーリンがおろおろと辺りを見回す。
「アシ様、あの、誰も──」
「行こうリーリン」
俺はリーリンの手を引き、部屋の中へと踏み込んだ。
ざわざわと公衆で聞くような話し声をよそに、俺は雑踏をすり抜けていく。
どうせ話しかけたところで誰も答えてはくれない。
コミュニティに入らない奴は余所者同然でシカトをくらうだけだ。
それが分かってるだけに俺は、あえて話しかけず、あくまでソロ・プレーヤーを貫いた。
「あの、あの、アシ様……いったいどこに?」
リーリンが不安の声で訊ねてきたが、無視した。
行く場所なんて決まっている。
集会場があるということは、その先に待つのが本格的なダンジョン攻略。
だからこそ一ヶ所に集い、仲間を一旦揃えてから先に進むのだ。
俺は、ある程度の集団になった人影を見つけると、リーリンを連れてそいつらの後を追うようについていった。




