【Event 9】 ─ 《試練の洞窟》にチャレンジしてみよう 1 ─
【アデルの街】から旅立って──。
俺とリーリンは人里離れた森の中にある、古い洞窟の前に来ていた。
鬱蒼とした森の中。
洞窟の入り口には受付所となる場所が設けられていて、そこに戦歴のある冒険者たちがたくさん集り、中に入る順番待ちをしていた。
俺の居るすぐ横に立てかけられた看板には『最後尾。待ち時間240分』と書いてある。
いったいどこのアトラクションだ、ここは。
ふと。
リーリンが俺の服の袖をついつい引いて言ってくる。
「なんだかすごくたくさん並んで居ますね」
そうだな。
「この洞窟ってけっこう人気だったんですね」
そうみたいだな。
すると、俺の前に並んでいた屈強そうな戦士が振り返ってきて俺に告げる。
「お前等、もしかして初心者か?」
俺は胸を張って言い返す。
だったらなんだ?
戦士は小馬鹿にするように鼻で笑うと、顎先で前を示した。
「だったら先に行け」
なに?
「俺たちのことは気にするな。先に行け」
どういう意味だ?
俺の問いかけに、戦士は意味深な笑みを浮かべ、そして前方に並ぶ240分待ちの列に向けて声を張り上げた。
「前に居る奴等は全員、道を開けて退いてやれ。【試練の洞窟】へ挑戦する初心者様のお通りだ」
戦士の声に従い、みんな素直に道を退いていく。
そして俺とリーリンの前には、洞窟へと導く素晴らしいくらいの一本道が出来上がった。
戦士が俺に言う。
「さぁ行けよ」
……。
戦士は言葉を続ける。
「あんな看板は気にするな」
……。
正直、240分待ちの看板なんてどうでもよかった。
喧嘩を売られている。
俺の心はそんな苛立ちでいっぱいだった。
リーリンが心配そうに俺の顔を見てくる。
「アシ様……」
行こう、リーリン。
俺はリーリンの手を引いて、そこから歩き出す。
戦士が俺たちを見送る。
その場に居る全員の嘲笑じみた視線を受けながら、俺はリーリンを連れて洞窟の受付所へと向かう。
しかし──
俺はすぐに足を止めた。
「アシ様?」
リーリンの問いかけを無視し、さきほどの戦士へと振り返る。
煮えたぎるような苛立ちを胸に。
俺は冷静に戦士を睨みつけた。
戦士がお手上げながらに答えてくる。
「何か気に障ったようだな。
誤解しているようだから言っておく。ここに居る俺たちは皆、【試練の洞窟】なんかに興味はない」
じゃぁいったい何の為に並んでいたんだ?
「並ぶ? 別に俺たちはここに並んでいたわけじゃない」
だったら何の為に──
戦士は急にニカッと笑うと、白い歯をキラリと光らせてグッジョブしてくる。
「いいから俺たちのことは気にするな。
ここに居る奴等は皆、チャットする為だけにここに集まっていただけだ。
なぁーに、240分後にはガッツリ消えて居なくなるから──」
チャットは別の場所でやれぇぇぇッッ!!!
とりあえず。
俺は挨拶代わりとしてエリアボス級の敵──【巨大マウンテンゴリラ】を召喚し、置き土産に残して洞窟受付所に向かった。




