【Event 8】 ─ ギルドに登録しよう 2 ─
なんで?
※
──ギルドでの登録を終えた後、すぐに。
俺はムカムカする怒りを胸に、手紙を握り締めてギルドを出た。
そのまま真っ直ぐに。
郵便ポストへ向かって足早に歩く。
その俺の後ろをリーリンがとてとてとついてきた。
「あの、アシ様。いったいどうされたのですか?」
……。
無視して。
俺は郵便ポストへと辿り着くと、握り締めていた手紙をポストの中に突っ込んだ。
手紙の内容はもちろん【運営】へのバグ報告のクレーム。
“はい”以外の選択肢ができないなんてクソゲーもいいとこだ。
所用を済ませ、俺はリーリンへと改めて振り返る。
言っておくがリーリン──
「はい、わかっています」
……いや、俺まだ何も言っていないんだが。
意味不明に気合いの入ったリーリンを前にして、俺は目を点にする。
するとリーリンが胸の前で両拳をきゅっと握り締めて気合いを入れると同時、言葉を続けてきた。
「私、頑張ります! 頑張ってアシ様の力になれるように全力で支援します」
俺が頑張ってどうすんだよ。支援するのは俺の方だ。
「じゃぁ二人で支援しましょう」
誰を支援するって言うんだ? 誰を。
途端にリーリンの目がすぃーっと泳ぐ。
考え込むように軽く頬を掻いて、
「えっと……その、あの……もちろん。知らない誰かを、です」
勇者は誰だ?
リーリンがきりりとした顔で挙手をする。
「はい。私です」
だったらお前が頑張れ。支援は俺がする。
「えー。なんでですかー? 私には無理です。私、こう見えて最弱なんですよ?」
どこをどう見ても最弱だ。疑問符をつけるな。
「戦闘なんて私、絶対無理です。どちらかというと前線よりも後方での支援魔法が得意というか──」
支援は任せろ。俺が全力でお前を後方からサポートする。
「そんなの、アシ様が強いんだからアシ様が前線で戦うべきです! 女の子を前線で戦わせてアシ様が後方なんて最低です!」
勇者は誰だ?
即座にリーリンがキリッとした顔で自信満々に挙手をする。
「はい、私です!」
返事だけは良いんだな。
勇者を名乗り出るんだったら、戦闘では前に出ろ。
「それは嫌です」
……返事だけは良いんだな、お前。
※
その後再び、俺とリーリンはギルドへと戻った。
入り口に待たせていたゼルギアと一緒に、二階へと続く階段を上る。
二階は貸し切りの議論場となっていた。
大きな机にたくさんの椅子が並べられており、奥の壁には黒板とチョークがある。
おそらくここで討伐の作戦会議が行われてから出発するのだろう。
フロアは狭くもないが広くもない感じだった。
ちょうど一階のスペースを半分にした広さか。
ゼルギアが傍の椅子に腰掛け、俺たちに勧めてくる。
「どこでもいい。座ってくれ」
言われて俺たちは無言でゼルギアの向かいの椅子に腰を下ろした。
場が整い、ゼルギアがさっそく説明を始めてくる。
「そんじゃ、まぁ軽く説明を始める。
下に居る連中を見れば分かる通り、お前たちをいきなり討伐メンバーに加えたら不平不満の苦情が起きる。
──俺が言いたいこと、わかるな?」
→ はい。
「よし。じゃぁさっそく採用試験内容を発表する。
この街の近くに【試練の洞窟】という場所がある。
まぁ、つまりはこのギルドの馴染みの試験場ってわけだ。
その洞窟からアイテムを一つ持ち帰ってきてほしい。
持ち帰るアイテムに特に指定はない。
とにかくなんでもいいから一つだ」
→ はい。
「説明は以上だ。他に何か聞いておきたい質問等はあるか?」
→ ……。
ゼルギアが鼻で笑う。
やはりな、と言わんばかりの表情でお手上げして。
「見た目通り、お前は物分りの良い奴だ。期待している」
→ ……。
差し出されるゼルギアの右手。
それを俺は無言で掴み、握手を交わした。
握手を交わしながら、俺は思う。
本当の事情なんて言えない。
“はい”と無言以外に選択肢がないなんて。




