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中編

引き続き、誤字脱字気になる所等ご指摘あったら嬉しいです。

※諸事情で、一部名前の変更等修正があります。

「リリーナの作ったお菓子以外、食べる気がしないのよ」


 銀髪美女は、朝の食卓にてそう宣言した。

 顔色は悪く、とても気だるそうにしている姿ではあるが、美人は何をしても絵になるもんだと納得せっずにはいられない。


「「「!」」」


 驚く家族一同。


「ダイエットなら、気にすることは全くないと思うよ」


 父は満面の笑顔にて、娘を諭そうとする。


「え? でも、母の作る菓子は食べるわよね?」


 当然のように言う母。

 “そうだね、食べ物に“進化”したらね・・・”

 その場にいた誰もが、心の中で同じ言葉をつぶやいた。


「そんな偏った食事は、体に良くないと思うので、考え直して下さい!」


 妹のリリーナは、姉の体調を気遣っている。


「そうですよ、好き嫌いはいけません! だから私の「うーん、でも、他の物って、喉を通ると気持ち悪くなるのよね~」」


 ため息混じりに母の言葉を遮る姉。

 いつもなら、冗談交じりにあしらうのに今日はストレートできたという事は、ものすごく体調不良と見ていいだろう。


 一先ず、調子が良くないと青い顔をする姉を部屋のベッドに寝かしつけ、勤務先の学校に連絡をし、緊急家族会議が催される。

 勿論、姉以外の家族全員、本日は“有給”もぎ取りました。

 1日休んだところで、どうってこと無いでしょう?

 なのに、どうして両親はあんなに必死こいているのか不思議です。

 自分は、“お大事に”という、ねぎらいの言葉までかけて頂いて、あっさり承諾されたというのに・・・。

 水晶に手をかざしながら、自分の仕える主に脅迫めいた言葉をつぶやく両親に、そんなに重要な仕事を任されているんだと、改めて2人を尊敬の眼差しで見つめる末娘。

 暫く激論大会? が行われた後・・・。

 少しお疲れ気味の両親が加わって、話し合いが再開された。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 それぞれに考え中なのか、言葉が出ないのか、沈黙が流れる。

 用意した紅茶が一口もすすられることなく冷めてしまい、4度目を入れ直そうと、メイドがカップに手をかけた時、


「あの筋肉大馬鹿クソ王子に・・・やはり耐えられずに・・・変態プレーが・・・」


 なにやら、耳障りなセリフを言い始めた父。

 顔を紅潮させ、険しい顔をしている。


「どうしたのです? 何か心当たりでも?」


 そんな父親の肩を抱き、母親は表情を覗き見る。

 黄金比で形成された、端正な顔が苦悩に歪む姿もまた、男なのに美しいと言わざるを得ない。

 まあ、家族以外の人が、今の彼を見たらの場合だが・・・。


「リリーナ、少し席を外してくれないかな?」


 目の前で手を組み、額に押し当てる父。

 若干、顔色も悪いような気もする。

 そんな父の体調が気になるところだが、ひとまず部屋の外に出る末娘。

 待つこと約30分・・・。


 バン!


 すごい勢いでドアが開き、鬼の形相の母を父が必死に抱きとめている。


「おのれ~、脳筋外道鬼畜王子~」


 一度は振り切ったが、それでもしがみつく夫を引きずりながらも前へ進む鬼子母神前のような妻。

 そんな妻を、必死に説得しようと試みる夫。


「だから、確認取らないとって! 兎に角落ち着いて! ボクの見解を伝えただけでしょう? 奥さ~ん、聴いてるよね? お願いだから冷静になって! ボクの話聞いて! ね?」


 “ボク”って・・・、55歳のおっさんが、自分の事を・・・。しかも2度も言いやがった!

 まあ、見た目は30代前半とよく言われていますが? 

 国王様の方が年上かとよく言われていますが! 

 ぶっちゃけ国民の皆様はカルテット内で一番若いと思っている様子ですが、最年長ですよ? 

 だからって、それはないでしょう?

 否、今はそれどころではない!

 何やらすごい事言いながら、出て来た両親に唖然とする末娘。

 そんな中、


「お取り込み中申し訳ありません」


 外から見れば“家族崩壊?”な修羅場的現場に、母の腹心の部下であるメイドが、部屋の入り口前で恭しく控えている。

 ハッと我に返る母親。


「どうしたのかしら?」


 父親から離れ、衣服と髪の乱れを直し始めた。


「はい、ケイト様がお見えにございます。なにやら、アニタ様から急な呼び出しがあったとのことですが、如何なさいますか?」


 何も見ていないと言わんばかりに、いつもの姿勢を貫き通すメイド。


「それはちょうどいいわ! ケイトォォォォォォ~!」


 客人の名を大声で叫びながら、玄関に急ぎ足で向かう母。


「オハヨウゴザイマス、オバサマ。イッタイ、ドウサレタノデスカ?」


 玄関先には、今から葬式にでも行くかのような漆黒のドレスを身に纏った美女が立っていて、まるでロボットのような棒読み返事を返してきた。

 肩下までの長さの、絹のような光沢を醸し出すストレートな黒髪に、切れ長の大きな目と、生きているのか確認したくなるほどの白い肌をした女性。

 ほんのり紅を差したような唇で、着物を着ていたらまんま日本人形のようである。 


「アニタから連絡があってこちらに来たと聞いたわ。何か聞いていないかしら? あの子、どうしちゃったのかしら、もしかして・・・」


 ハンカチを目に当て、その場でよよよ~と泣き崩れる母親。 


「イエ、タダ、“ソウダンガアル”トシカ・・・」


 コテン! 頭を左に傾ける。

 相変わらず、なんの変化もない単一口調な返事である。

 表情の変化もないので、全くもって考えが読めない。


「そうよね、貴女達は小さい頃からの大親友ですものね?」


 母は、涙を拭いつつも、目の前の女性の考えを理解しかねている様子。


「じゃあ、早速アニタの部屋に行って話をしてもらおう、まずはそれからだよ」


 助かったと言わんばかりに、話に割って入る父親。


「そうですよ、お母様。お茶でもして少し落ち着きましょう」


 複雑な表情の母を起こして、先程の部屋に戻る一同。

 それから小一時間後・・・・。


「失礼致します、今度はリカルデント騎士団長様がいらっしゃいました」


「「「?」」」


 メイドの言葉に驚く一同。


「? “お大事に”って、言ってくれたはずなのですが・・・」 


 今日は普段着なので、いつもの鎧姿と違い、可愛さ倍増の赤毛少女が、首を傾げる。

 そういえば今朝話をした時に、とても詳しく姉の病状を聞いてきた事を思い出す。

 姉と第二王子、そして自分の直属の上司(ヨナサン=リカルデント)とその姉ケイトはいわゆる幼馴染というやつで、年も近いのでとても仲がいい。

 だから、心配できたのかな? という考えに至り、ひと安心する。


「いえ、リリーナ様にではなく、“連絡があったので、姉上様を引き取りに来た”と、仰せです。なにやら、嫁ぎ先の伯爵邸のメイド様方が皆限界だとか・・・」


「「「ああ~」」」


 一同は、納得した。


 リリーナの姉アニタと同じ年のケイトは、18歳の時に大恋愛の末、3大貴族の一つであるアルセイド伯爵の一人息子と結婚、今年3歳になる3つ子を設けている。

 3人共、抜けるように白い肌をしたまるで天使のような愛らしくも整った顔立ちで、夜泣きも一切なく、ぐずったりしない事から、手がかからないと家族内では評判である。

 そう。

 感情の起伏も表情筋の変化さえも全くない、無口無表情でいつでも一緒な3つ子なのであった。

 特に、子供には“顔が怖い”と泣かれる、ヨナサンの父や、アルセイド伯爵からは、自分たちが抱っこしても懐いてくる? 我が孫達を、とても可愛がっていた。

 対して、アルセイド家の使用人達からは、


『人形みたい(もしくは作り物のよう)で怖い』

『生きている感じがしない』

『たまに脈や吐息しているか確認している』

『集団で、1点をジッと見つめる目が怖い』

『こちらを見る目の焦点があっていない感じが半端なく怖い』

『全く動かないから不安』


 と、いつしか使用人の不安と恐怖を仰ぐ存在となった。

 そんな使用人達に1時間以上も3つ子を任せていたので、彼等の精神状態が限界に来ているのだろうとこの場にいる全員が理解したのである。

 その時!


「ケイトォォォォォー、大丈夫ぅぅぅぅぅ~?」


 アニタの叫び声が聞こえた。

 声からすると、アニタの部屋で間違いない。

 慌てて部屋を訪れる一同。

 そこには・・・。


「姉さん、驚き方が半端ないけど、大丈夫?」


 慌てているのかどうなのか、相変わらず読めない、いつもと同じ無表情で姉に近づくヨナサン。

 そのケイトは、顔色を変えることなく、普通に椅子に座っているように見る。

 いつもと違うのは、首振り人形のように、コクコクと弟の問いに対し、大きく縦に頭を振っている事だけ。


「「「?」」」


 無表情に座っているだけの人の何処が? どのあたりに驚きがあるのか、教えてくれませんか? 

 てか、全く動かないし、目の焦点あって無いような黒目がブラックホールのようで、半端ない不安を感じますね! なんかコワッ!

 少し背筋が寒くなってきた、コールドウェル夫妻とその末娘。


「兎に角落ち着いて。こんなに動揺しているなんて珍しいね」


 はい? 普通に話聞いているだけじゃないの?

 否、その前に、聞こえてますか?

 淡々と話す弟も怖いが、その言葉の内容に全くそぐわない表情をしている姉も怖い!


「ごめんなさい、私もこんなに動揺するとは思わなくて・・・」


 部屋の主は、親友の態度にオロオロしている。

 が!

 コールドウェル家の者は、姉を除いて誰一人、客人の心境が理解できずにいた。

 よって、どう対処していいのか分からない。


「申し訳ございません! ひとまず、姉を連れて帰ります」


 弟は、深々と一礼すると、姉をお姫様抱っこして部屋を去っていった。


「家族の力って、やっぱり偉大よね?」


「うん、親友もね・・・」


 としか、言うことはできなかった・・・。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「と、いうことがあったのよ」


 赤毛の少女は、目の前でマスクをして、澱んだ紫と堆肥のような黒ずんだ茶色の液体の入った2種類の試験管から、スポイドで慎重に配合中のお団子頭の茶髪少女に、先程の出来事を話していた。

 前回のつなぎ服とは変わって、本日は大きめの白衣を着用している。

 あの後。

 ヨンサンが、王子様の如くケイトをお姫様抱っこして去っていった後、両親はアニタを質問攻めにした。

 何故か末娘に聞こえ無いように、隅に密集して小声でそこそとしゃべっている。

 “鬼畜”だの“拷問のような”だの物騒な単語が時々聞こえ、その度にアニタが青筋を立てていた。

 よって、リリーナには今だに話の内容が、全く見えない。


『お父様やお母様のおっしゃるお話がよく理解できませんが、気持ちの整理をしてきたいと思いますので、今から出かけますね』


 顔は笑ってたが、明らかに腹を立てている様子のアニタは、素早く身支度すると心配する両親を振り切るようにして家を出てしまった。

 昼食をとり、午後から時間を持て余す事となったので、親友の所に遊びに来た、という訳である。


「なんって、刺激的な・・・そして、新境地開拓か!」


 パリン・・・と、持っていたはずの試験管とスポイドが床に落ちて割れ、中身が絨毯に染み込んでいく。

 ブルブルと体を震えさせたお団子頭は、顔が真っ赤に高揚し、苦しいのか前屈みになったかと思うと、胸をギュッと掴んで、ヘナヘナと力なく床にしゃがみこんだ。


「だ・・・大丈夫? テトラ・・・」


 具合の悪そう? な親友に駆け寄り、様子を伺う。


「ああ、エクスタシー! もうイっちゃいそうではないか・・」


 訳の分からない事を口走りながら、鼻血を出す始末。

 視線があさっての方向を向いている。

 親友の変わり果てた姿にまたかと思いつつも、テイッシュを渡しながら床の掃除までも始めた、若干引き気味の赤毛美少女。

 今の話のどこで興奮するんだ? とやっぱりポイントが掴めない。

 暫くして、フラフラと頼りなさげに立ち上がったお団子頭は、息を荒くして机まで移動し、


「ご・・ごごに、ごどのじょうざいをがいでおいでぐれだまへ!」


 すぐ様、ユリの花をあしらった一冊のノートを渡される。


「がみざま! わだじをごのよにづがわぜでぐれで、ありがとうなのだよ!」


 またしても、協会のある方向に目をキラキラさせ、両手を握り締めて祈りを掲げ始めた。

 対して、赤毛美少女は、掃除道具を片付けると、ノートに字を書き始める。


「ごうじでいる場合でばない! ざっぞく、あいでがだにれんらぐをづげねば!」


 30分後・・・。

 鼻血が止まったのか、フン! と鼻に詰めたテイッシュを取り出して瞬時に体を起こし、通信用の水晶を手にし始めた。

 2~3分後、そこには女性が映し出される。

 細くてつり上がった茶色い目の、白髪に尖った獣耳があり、全身にモフモフの毛を生やしているのが特徴的なこれまた美女。


『私に用なんて珍しいわね?』


  相手は、意外そうな顔をしている。


『何をほざいている? 貴殿も立派に我々とは親密な関係ではないか! 秘密の嗜好仲間! 秘密の同士だ! そんな事より、貴殿向きのいいネタがあるのだが・・』


 お団子頭は、気にすることなく用件を伝える。


『実は今、女性同士にその弟カップルが乱入という内容なのだ。しかも、弟カップルとは、あの東の国で有名な2人なんだが・・・・・・』

 

 この時、赤毛の少女には、親友が悪徳代官のように見えたのだとか・・・。


『キ、キターーーーーーーーーーーーーー! 最新の萌え~~~~~~~~~~~~!』


 大・興・奮!

 白髪の美女は、鼻息荒く、目を見開いて興奮していた。

 その証拠に、モフモフの大きな白い尻尾が千切れんばかりに、左右に激しく揺れている。

 そう。

 フサフサケモ耳尻尾の彼女は、西の国“ギミック共和国”の住人である。

 もちろん、お団子頭も負けないくらいのテンションだ!

 東の国と仲が良く、小さい事は気にしない大雑把な風習のある西の国でも、同性同士は全く気にならなく、その手の話は密かに大人気らしい。

 既に同性婚もOKとなっている。

そんなテンションMAX状態の親友を無視し、一通り事の詳細を書き終えたノートを左横に置く。

 そして立ち上がると、リリーナは机の上に開いてある、別の分厚いノートに目を向けた。


「ねえ、この研究進んでいるの?」


 ノートの内容にご不満な様子。


「ああ、問題が発生してね・・・」


 一通りの話を終えた親友が、腕組みをし、何やら考え込むように答える。


「男女の営みでは問題ないのだが、同性となるとどうにも難しくて、中々上手くいかないものなのだよ・・・」


 やはり、研究は困難を極めているようだ。


「そこでだ!」


 しかし、表情と声は諦めていないと言わんばかりに、明るかった。


「見方を変えて、“なら女性同士では?”という考えに至り、秘密の嗜好仲間ネットワークで交流のある先程の彼女から、いろいろ資料を提供してもらっている。まだ手探りだが、もう少し待ってくれないだろうか? これは、一世一代の大発見の予感がしてならんのだ!」


 手を強く握り締め、力説を始める始末。


「? う・・・うん・・・。言っていることはよく分からないけど、実現可能なら、ぜひぜひお願いします!」


 深々と頭を下げて、再度依頼する。


「それにしてもだな、リリーナよ・・・」


 顎に手をやり、


「君の話を聞いていると、私はどうしても姉上は、本当にあの脳筋王子と結婚したいのであろうか・・・と、思ってしまうのだが・・・」


予想だにしない事を言い始める親友。


「え? どうして?」


 親友の言葉に、納得できないリリーナ。


「今までの話の内容に、何処をどうやったら姉上が第一王子を好きという要素が出てくるのか、理解し難いのだ・・・」


 どうやら、お団子頭は2人の愛に疑問が大アリの様子。

 自分の話し方が悪かったのではないかと、不安になるリリーナ。


「でも、仲良くやっているって、うちの両親も国王様御夫妻もとても喜んでいらっしゃるけど?」


 確かに、そういった話しか耳にしない。

 愛し合っているほど激しい喧嘩もするものだと、以前夫婦喧嘩で瀕死の重傷を負った父が、そう言っていた。

 それに、国王様御夫妻もお似合いだと、いつも嬉しそうにお褒めのお言葉をくださる。


「そうか? 私には姉上はとても嫌がっているように見えるし、第一王子は彼なりにとても気を使っているように思えるぞ?」


 それは姉上が、ドSだからでしょう? と言おうとして、ハタと気がつく。

 果たしてそれだけなのか? と・・・。

 

「え?じゃあ、もしかして第一王子の一方通行・・・・」


 言われてみれば、そんな気がしなくもない状況に何度も出くわしている事に気付く。

 今更だが、度を越している態度が多いような気が・・・。


「かもしれぬ。4年も婚約者のままで、現実的に結婚へと一向に進まないものだから、もしかして姉上は愛想を尽かされたのではないだろうか?」


 ズバッと、結論を投げかけてくる親友。


「・・・。言われてみれば、そんな気が・・・・・・」


 いろんな回想シーンを思いめぐらせ、青ざめるリリーナ。


「テトラ、貴重な意見ありがとう。今から両親に相談してみるわ!」


 頭の中の整理がつかず、急ぎ足で部屋を出ていく。

 お礼にと言わんばかりに、焼きたてのガトーショコラを机に置いて・・・。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「・・・・・・・・・・」


 家に帰ろうと、中庭を横切る廊下に出た時、何やら男性の話し声が聞こえた。

 聞き覚えのある声である。


「今日も散々だった・・・」


 鎧を脱いで横に置き、上半身裸の男性が2名いる。

 1人は、芝生に寝転んで、顔にバスタオルを被せている、金髪青目の青年。


「そうだよなあ、何やら変な誤解をしているとかで、いつにも増してご機嫌斜めだったし・・・」


 もう1人は、自分の体を水に浸けて絞ったタオルで拭いている、黒髪黒目の青年。

 どちらも対照的な美形であるが、裸の見える部分は、両方とも無駄な肉は一片もなく、痩せすぎず引き締まった綺麗な体つきをしている。


「それより、早く汗を拭いてくれないか。葉っぱや土がついて、余計に汚れれているぞ!」


 文句を言いながら、金髪の体についた汚れを手で払う黒髪。

 それに対し、くすぐったいのか、金髪は体を引いている。


「そうだな、風邪引いたら洒落にならないし・・・ツッたあ~!」


 そう言って、上半身を起こそうとした金髪は、悲鳴を上げた。


「どうした? どこか怪我でも?」


 心配そうに、金髪の体をすみずみチェックし始める黒髪。


「いや、腰がグキッと・・・」


 痛そうに、腰をさすっている。


「今日はハードだったからなぁ~。俺も全身の筋肉がギシギシ言ってるし・・・・・・」


 金髪のタオルを目の前にある水の張った桶の中で、洗って絞る黒髪。

 それをそのまま『どうぞ』と、渡している。


「ああ、全くだ! いつもよりかなりなモノだったぞ!あまりの激しさに、一瞬意識が飛んだわ!」


 金髪が、タオルを握り締め、怒りを込めながら賛同する。

 よほど腹立たしいのか、声が大きくなっていた。


「大声を上ないでくれるか、目立つだろう?」


 困っている口ぶりだが、如何せん表情がない為によく分からない黒髪。

確認の為に周りを見渡した時、初めて目の前に人がいることを認識したイケメン2人。


「リリーナ、今日は休みだったのでは?」


 直属の上司は、何故ここに居るのか不思議そうだ。


「それより大変だったね、姉上は大丈夫かい?」


 金髪にねぎらいの言葉を掛けられ、そこで意識が戻るリリーナ。

 どうやら、暫く放心状態であったようだ。


「はい、昼から時間が空きましたので友人の所に。姉は気分が良くなったと出かけました。それと、ケイト様のご様子は如何ですか? あの後、大丈夫でしたか?」


 いつもと様子が違うらしい(弟談)、姉の親友を気遣うリリーナ。


「うーん、何やら女同士の友情の絆は魔王の皮膚よりも硬いとかで、全く話そうとしないんだ。あの後、3つ子の世話に追われていて聞ける状態じゃなかったのもあるんだけれどね・・・」


 本当に困っている様子で、今回は表情筋が感情通りに動いている。


「そうでしたか。それは大変でしたね」


 “女の友情”については良く分かると、力強く頷くリリーナ。

 自分も、親友と秘密をたくさん共有している。

 

「リリーナ、困った事があったら、なんでも相談してくれよ!」


 爽やかな笑顔で、励ますイケメン王子。

 彼女の元へ行こうと、立ち上がろうとしたその時、


「ツッゥテーーーーーーーーーーーーーイ!」


 今度はお尻をさすりながら、奇妙な声を上げ、立ち上がった。


『こ・・これは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


 そんな金髪イケメンを見て、驚きを隠せないリリーナ。


「変な声上げるから、リリーナが驚いてますよ?」


 フラつきながら立ち上がる王子に、手を差し伸べる黒髪側近。


「ああ、悪い悪い! いやー今回は本当に参ったよ~、もっと強くならないとなあ~」


 なんとか立ち上がり、申し訳なさそうに謝る王子。


「い、いえ。それより私、軟膏と湿布をお持ちしますので、それまでこれでも食べていて下さい!」


 そう言うと、薔薇の花をあしらった包を王子に渡す。

 中には、チョコバナナマフィンが6つ入っていた。


「あ、ありがとうリリーナ、嬉しいよ! でも、回復薬だけでいいと思うけど、何で軟膏と湿布?」


 甘い差し入れに、とても喜んでいる王子。


「え? そ、それは・・・、こういう時はそういうものなんです!」


 そう言って両手で顔を覆うと、少女は足早に走り去っていった。


「え? そうなの?」


 首を傾げる王子。

 が。

 そんなに気にする事ではないのか、走り去った少女に『転ぶなよー』と声をかけて姿が見えなくなるまで見送りをした後、差し入れを嬉しそうに頬張り始めた。


「さあ? リリーナが言うのなら、そうなんじゃないか?」


 特に気にする様子もなく、マフィンにぱくつく黒髪上司。


「ああ~、リリーナの作るお菓子は本当に美味しい!」


「同感です!」


 心が癒される一時を送る、2人のイケメンであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・。


「もうもうもう~、わかっていたけどーーーーーーーーーーーーーーー」


 走りながら、瞳に涙が溢れてきた少女。


「わかっているもん! でも・・・、でも私は応援するって決めたから!」


 こぼれ落ちそうな涙を手でゴシゴシと拭い、走り続ける少女であった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「もしかして、原因が分かったかもしれません!」


 家に着くなり、両親がいるであろう部屋の戸を開ける、額に汗をかいている姿も可愛らしい赤髪少女。


「そ! そうか! でかしたぞ! リリーナ!」


 父はとても嬉しそうだ!

 目に涙を浮かべている。


「では、落ち着いてお話をしたいので、お母様、一先ずその国王様への献上品をお下げください」


 テーブルには、炭と化した黒い物体があった。


「え? これは、お父様に焼いた「え? ですがお父様はそういったゲテ「わああああああああああああああああああああああああああああああ~」」」


 意外だと言わんばかりの母に、その上をいく疑問符のついた娘、そしてその娘の口を塞ぐ父。


「アナタ、どうされましたの? 頭でも湧きましたの?」


 妻は心配そうに、父を見つめる。


「いや~、なんだか心が重いから、気分転換に声でも出してみようかなって・・・」


 大粒の汗を流しながら、必死に言い訳をする父。


「そういえば、国王陛下はいつもお后様のとセットで私のを召し上がるのが娯楽の一つだと聞き及んでおりますが・・・、仕方ありませんね」


 フーっと深いため息をつき、さも残念そうに、ボコボコと泡立っている黒い物体を持ち上げる母。

 泡立ち具合から、どうやら出来たてのようだ。

 何かを諦め気味に去っていった母の姿が消えた後、


「リリーナ、国王のゲテモノ好きという嗜好を、お母様に教えてはいけないよ?」


 塞いだ手を人差し指を立てた形に変え、口に押し当てて娘にウィンクする父。


「え? お母様は知らないで、あんな奇天烈な物を作成しているのですか?」


 衝撃の事実を知ってしまったと言わんばかりに、驚いている娘。


「そうなんだよ。お后様といい奥さんといい、2人は愛情が高まると、ああいった世にも不思議なモノを作り出す呪いに掛かっているんだ。 うん、きっとそうだ! そうに違いない!」


 最後の方は、自分に言い聞かせている父。


「これも奥さんの“愛の形”なんだよ? だから、リリーナも温かい目で見てあげて欲しい」


 “愛って、想像以上のモノを作り出す偉大な行為なんですね”と、理解し、深く頷くリリーナ。


『よし! 説得完了! リリーナが素直ないい子で本当に良かった!』


 心の中でガッツポーズをする父。

 母が献上品用に包装をしている最中、メイドにお願いして、残ったチョコバナナマフィンと紅茶を用意してもらう。


「お待たせしました!」


 母が戻ってきたので、リリーナはお茶をしながら、テトラとの会話を両親に話す。


「そうね、言われてみればそうかも・・・」


 頬に手を当て、納得した様な素振りを見せる母。

 しかし、父は合点がいかない様子である。


「どうかされました、お父様? なにか異論でも?」


 父の様子が気になる娘は、意見を求めた。


「えっと、リリーナ。少し私達2人で話をさせてくれないかな? ここからは大人の話なんだ」


 とても意味深なことを言われ、素直に従い部屋を出るリリーナ。

 戸が閉まり、隣の部屋に移動した音を確かめる。


「で、大人の話とは?」


 興味津々に夫を覗き込む妻。


「ああ、実はね・・・」


 そこで朝、奥さんがブチ切れたので中途半端になってしまった情報を伝える。

 内容は、前回のとはまた違った、ある意味興味深いものである。

 国王は、最近長男とその婚約者の事がとても気になって仕方ないらしく、とうとう部屋付きメイドまで巻き込んで、情報収集を行った。

 内容はこうだ。


『どうやら前々から我が息子は興奮すると、赤ちゃん言葉になるらしいのだ』


 どうでもいい、痛い情報がやってきた。

 あのムキムキマッチョな体格からすると、気持ちが悪い。

 なるべく想像しないよう、ここは聞き流すことにした。


『しかも、西の国と東の国から、何やら如何わしい道具などを密かに取り寄せているらしい』


 ここがとても気になった。

 よりによって、もう普通では満足できない体になっているのか?

 否、きっとコイツの悪趣味に無理やり付き合わされているに違いないと、心が痛んだ。

 父としては、今すぐ婚約破棄を宣言せねばと心に決め、国王に進言しようとした。

 が!


『それによって、さらに艶かしい+イチャイチャ感満載の声まで聞こえるとか聞こえないとか・・・』


 ここで決心が揺らぐ。

 合意の上なの?

 娘、親の知らないうちに随分と斜めに上に、大人の階段登っちゃったのね? 


「まあ、それは・・・」


 夫の話を聞き、妻が何かを悟ったような表情で、体をプルプルと震わせている。


「それぞまさしく“愛!”ですわ! アナタ! アニタは真の愛に目覚めているのですよ!」


 目が爛々として、息が上がり、痺れるような陶酔を味うが如く、な有り様となっている。

 はっきり言って、何かを新しく悟ったような、そんな嬉々とした表情であった。


「愛する者の為なら、どんな性癖でも受けるれる懐の広さ。さすがは私の娘です!」


 妻は自分の考えに酔っているが、どうしても納得の行かない父。


“テトラちゃんの言い分も最もなんだよなあ・・・”


 と・・・。

 2つの情報があまりにもかけ離れすぎて、どう整理していいのか考えあぐねる父。


「あの~、お母様。如何なされました?」


 一方、あまりにも母が大声を出すので、心配になって顔を出す末娘。

 

「お話があります、リリーナ。そこにお掛けなさい」


 娘の顔を見て落ち着きを取り戻し、“コホン”と咳払いをして、ソファーに座るよう促す。


「実は、「改めてお話があります!」」


 さっきとは打って変わって真面目な表情の母が、末娘に話をしようとしたその時、もうひとつの声が重なった。

 バン! という、戸を思いっきり開ける音と共に・・・。

 視線を向ければ、そこには、銀髪青目のちょっとやつれた感じの美人が立っていた。

 そして、意を決したように、大きく深呼吸をしたかと思うと、爆弾を投下する。


「私、妊娠したようですわ」


 と・・・・・・・・・。













 
































次で終わりになる予定です。

楽しんでいただけたら、嬉しいです。

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