第1話:始まり
心臓の鼓動と共に、僕の足は速まって行った。
心の中では
「早く結果を知りたい」という気持ちと、
「結果を知るのが恐ろしい」という気持ちとが絡まりあっていた。
そうこうしているうちに、
「早明大学高等学院入学試験合格発表会場」という看板が見えてきた。
「いよいよかぁ…」
思わず独り言がもれた。中学校生活三年間を勉強に費やしてきたとはいえ、やはり100%の自信は持ち合わせていない。
「ハァ、あぁ1038番なぁ」
さて、掲示板の前まできた。1008,1013,1018,1022,1026,1029,1032,1036,1038,1042………
「ヨッシャァァァ!」
僕は周りを気にせず叫んでいた。そして、そのままのテンションで入学手続き書類を受け取るために事務所へ向かった。
「受験番号1038の中井夏斗です!」
「1038番、中井夏斗さんですね。合格おめでとうございます。」
まだ信じられないような気持ちの僕は半信半疑で書類を受け取った。
書類について少し説明を受けたあと、僕は事務所を出た。
「世界が変わって見えた…」使い古された表現だけど、今の僕の気持ちにはぴったりの言葉だった。
「合格おめでとう!」
そんな有頂天の僕はその言葉が自分に向けてのものだと、最初は気付かなかった。もう一度声をかけられ、僕は振り返った。そこには、早明学院の制服を来た学生が立っていた。まるでゴリラの様なガッシリとした人だった。
「あっ、ありがとうございます。あの、この学校の方ですよね?」
「当たり前だろ、どうみたってここの制服着てるじゃん。」
「あぁ、そうですよね。あの、これからよろしくお願いします。」
「あぁ。頑張れよ。この学校自由だけど、勉強は大変なんだぜ」
こんな短い会話だったが、僕は頼りになりそうな先輩だなぁと思った。
歩いて行くその人の肩には、とても大きなエナメルバッグがかかっていて、
「LIONS」と書かれていた。何部だろう?僕は、そう疑問に思った。
これが、僕が最初に釜田先輩と出会ったときである。
そしてこれが悪夢の始まりであった。