大災害に巻き込まれたとある夫婦ゲーマの旦那の日記
●月●日 ×曜日
嫁と一緒にエルダーテイルの世界に取り込まれた。
●月●日 ×曜日
いまだに状況が飲み込ずに混乱している嫁が落ち着けるようにとりあえず部屋を確保した。
ゲーム歴は細く長い嫁だが、今の状況を受け入れるまでは時間がかかりそうだ。
嫁が動けるようになるまで俺が先に街を見ておこう。
●月●日 ×曜日
嫁はゲームの体は動きにくいと言う。
性別こそ同じだがキャラクターと嫁本体は身長も(体重も)随分違う。
元の嫁はちんまるこいが今はすらっと背の高いエルフだもんな。
距離感がつかめないらしく、何もないところでよくこけたりぶつかったりしてる。
外見変更ポーションとかあればいいのだが、そんなレアアイテム手に入る筈もないとしょげている。
慣れるしかないんだろうが本人にはストレスだろう。
飯が不味いのも良くないようだ。
●月●日 ×曜日
ゲームの体が使い辛いと引きこもりがちな嫁を引っ張ってアキバの街に出た。
足元もおぼつかないのに嫁はゲーム時代のイベントでもらったカボチャ頭を被っている。
お気に入りらしいが、肩幅を越える巨大カボチャ頭で歩く嫁は変さ加減がゲームの時と比較にならない。
ともあれ、カボチャ嫁は毎日街中を散歩して環境に慣れていかせよう。
●月●日 ×曜日
何も食べる気にならない。
空腹は過ぎると感覚がなくなるし、腹減って死ぬ体ではなさそうだから食べなくてもいいと思う。
リアルでは俺は人並みに(嫁に言わせると人並み以上に)美味い飯が好きだった。
旨いベーコン目指して豚ばら肉の燻製を作り、自分で挽いた豆でゆっくり淹れたコーヒーを飲むのが週末の楽しみだった。
今はコーヒーと呼ばれるものもただの黒い色の水道水だ。料理は自分で作ると産業廃棄物になる。
嫁はそんな俺を心配してか市場で見かければ果物を買っている。
●月●日 ×曜日
だんだんカボチャ頭込みで嫁と認識するようになってきた。
●月●日 ×曜日
嫁とアキバの外に行ってみることにした。
金銭に関してはしっかりものの嫁は、外出前に銀行で色々預けていたようだ。
戦闘があるかもしれない(というか俺はする気満々)ということで、カボチャ頭は取らせて出発。
初心者エリアのゴブリンの迫力に二人でビビりまくる。が、全然痛くないのがわかって一安心。
ここじゃ経験値は入らないけど、ドロップは出る。
ゲームの時にはなかった現実感たっぷりのドロップに俺のコレクター魂が燃え上がる。
アイテムコンプリートするまで狩る気でしょ、という嫁のつぶやきは聞こえなかったことにした。
●月●日 ×曜日
嫁と毎日狩りに出かけるようになった。
少しずつ連携もできるようになってきた。
●月●日 ×曜日
PKに襲われた。
2人とも殺されて大神殿で復活した。
狩りのドロップは半分くらいなくなっていた。
おっかなびっくり2人で殺害現場に戻ったけど、アイテムは残ってなかった。
その日は嫁とくっついて寝た。
●月●日 ×曜日
めげずに狩りに出る。
道中、お互いの職とスキルの話をした。
ゲームの時のスキルとは似ても違うものだと言うことで一致した。
普段使っていないスキルも全部使って狩りをしてみて、いくつかわかったことがあった。
色々と収穫あり。今日はPKに遭わなかった。
●月●日 ×曜日
もう一つ先のゾーンに足を延ばすも、ドロップは大して変わらず。
嫁はドロップ品を売りさばこうと最近市場の相場を熱心に見ている。
●月●日 ×曜日
アキバの街のすぐ外でPKに襲われた。
俺は殺されたけど嫁は無事にアキバに逃げ込む。
逃げ込んだものの安全圏で気が大きくなったのか、そこで反撃してしまった嫁はNPC警備兵に殺されたらしい。
不幸中の幸いはNPCに殺された嫁はアイテムをばらまかずに済んだことか。
反省中なのか嫁が横で神妙な顔をしている。
●月●日 ×曜日
大事件発生。
軽食販売クレセントムーン出現。
狩りに行こうと移動中にその美味そうな匂いに二人揃って全力で釣られる。
全種類一つずつ頼んで家に飛んで帰って食った。
嫁が貪り食いながら美味しいねえ、美味しいねえを連呼する。俺、食うのに夢中で無言。
食べつくしても足りなくてもう一回行ったら売り切れていた。やはり二つずつ買うべきだったと激しく後悔。
店で二つ買うことに躊躇した嫁にやっぱりあの時…と零したら、プチ喧嘩になった。
●月●日 ×曜日
今日も朝からクレセントムーンへ行く。
行列は昨日より長くなっていた。並ぶのは嫌いだけど並んで食えるなら並んでやる!
何食べる?何食べる?と興奮した嫁が騒いでいる。
●月●日 ×曜日
アキバに円卓会議ができた。
そして美味い飯の作り方が判明。俺、即座に料理人にサブを変更する。
嫁がインベントリから使えそうな食材を漁り出す。
円卓会議の発表を聞いた後、すぐに家に帰ってコーヒーを淹れた。嫁にはカフェオレな。
舌に乗せた時に感じる懐かしい苦みと酸味、鼻腔に広がるコーヒーの芳香。
PKされても泣かなかった嫁が泣いた。
●月●日 ×曜日
漫然とドロップを得ていた狩りが食材探しの狩りに変わる。
美味い屋台も増えたけど、嫁は家で俺の飯を美味そうに食う。
最近、量産型外見変更ポーションが売り出されたので嫁が一つ買った。
ゲーム内の体にもだいぶ慣れてはいたけれど、やはり本来の自分に近い方がいいからとポーションで嫁はちんまるこいエルフになった。
ぷにぷに感を増した嫁の手を握って歩いていると、変更前のモデル体型の嫁なんてすぐにどうでもよくなった。
●月●日 ×曜日
ノウアスフィアの開墾のアップデートの時、嫁と一緒にログインしてて良かった。
大型アップデートにはしゃぐ嫁を一人でログインさせなくてよかった。
もしかしたらリアルでは二人で植物状態で入院してるのかもだけど。実家の両親には迷惑かけてんのかなと思うけど。
でも一人でこの世界に嫁を行かせなくてよかった。
一人で意識の戻らない嫁を病室で待つことにならなくてよかっ
「夫ちゃーん。妻ちゃん準備できたよ」
「今いくー」
「マイハマを救うぞ、ゴブリン退治だ。おーおー」
「おー」