94.【ピラミッド型のビル・他の彼等と夢の再確認】
ある日の夢は……
アッチノ世界にある宿泊施設のような場所から始まった。
部屋の周りには襖がたくさんあった。
どれも猫一匹分開いている。
布団から起き上がると、なぜかアタシはデニムのショートパンツを穿いていたけど、夢だからか恥ずかしくなるような短さ。
他に服は無いか探しながら襖の奥を見てみると、全部同じような和室になっていた。
誰かが寝ていたのか、グチャグチャになった布団がいくつも敷いてある。
けれど、どの部屋にも人は見当たらない。
窓の外を見みると反対側に白い建物が建っていて、同じような部屋がたくさん見える。
窓の外は陽の光が上から降り注いでいて明るいけど、何だか少し青白い。
建物の中にいるみたいに不自然な光に思えた。
窓にへばりつくように下を覗いてみると、白いタイルが張られた地面が見える。
人がいそうなのに誰もいない。
そう思った瞬間、前に見た夢の映像が頭に流れて、自分が今夢の中にいるんだと気がついた。
流れてきたのは62.【三つの別れ道】の夢。
この下にあの時の場所があるんだ……。
そう思ったら確認したくなって部屋を出てみた。
部屋の前の廊下を歩いて行くと、広い場所に繋がっていた。
そこは床も壁も真っ白な空間で、入院病棟のような部屋と廊下が見える。
窓から見えた場所に行こうとウロウロ歩いてみたけど、どうしても同じ場所に戻ってしまう。
気になったのは、戻る度に廊下や部屋に人が増えていること。
いや、人のようで人じゃない何か。
人の形をしているのに体がブレたように見える。
まるでテレビの砂嵐を早送りしたみたいに落ち着かない。
部屋の中を見るとベッドがたくさん並んでいて、何かが横になっている。
建物内は明るいけど、43.【ゆらゆら : チキンスーツ】の夢の時に見た未来ビルの中と似ていると思った。
よく見てみると、何かが着ている服に番号が書かれていた。
それを見た瞬間、82.【実験と不気味なパレード】の夢も思い出す。
このままここにいたら捕まっちゃう……。
そんな気がして早く逃げようと思った。
廊下に視線を戻すと、所々に立っているブレた人達が目に留まった。
その中に一人だけブレていない人がいる。
普段メガネをかけなきゃ歩けないほど悪い視力なのに、夢だからか廊下の一番奥に立っているのがハッキリ見える。
髪をアップにして、上下白色の看護師みたいな服を着た中年の女性だった。
瞬きもせずアタシのことをじーっと見ている……と思ったら走ってきた!
やばいっ……!
あたふたしていたら
「早くしないと遅刻しちゃうよ」
背後から声がした。
振り返ると、紫色の髪をした男の人が真っ黒なドレスを着た女の人の手を引いて、白い床に沈むように消えていった。
追いかけると、白い床の中に黒い階段があった。
「足元、気をつけて」
気にかけてもらいながら慎重に階段を下りる女の人。
その横顔は、前に81.【アパレルガール:双子と金髪の欠陥品】の夢で会ったゴシックロリータな双子だった。
でも、一人しかいない。
一緒にいる男の人も、あの時の金髪ハーフと同じ顔。
でも、なんとなく雰囲気が違う。
あれが他の彼等なのかな……。
そう思った。
二人から目が話せなくて、アタシも一緒に階段を下りてみた。
ひんやりとする暗い階段。
二人は扉を開けて外へ出てしまった。
なぜか看護師みたいな人は追いかけてこない。
アタシも階段の一番下まで下りると、改めて周りをよく見てみた。
白い空間からの光と、二人が出ていった扉の隙間から漏れる光のおかげで階段は薄っすらと明るい。
壁も床も扉も石のような素材でできていた。
扉に近づいてみると、灰色と青色を混ぜたような色をしていて迷路のような四角い模様が一面に彫られている。
触れてみると、ボコボコだけどツルツルしていて冷たい。
やっぱり現実と同じようにちゃんと触れられる……。
そう思いながら扉を押し開いてみた。
すると、すぐ目の前に同じ石の壁があった。
生温い風が吹いて、現実の世界と同じように外の匂いがする。
行き止まりかと思ったら、壁に沿うように右にも左にも細長い通路が続いていた。
人が二人並んで通れるか通れないかぐらいの細い通路。
姿は見えないけど、さっきの二人の足音が聴こえる。
通路には人一人分ぐらいの柱のような薄い壁が左右に点々と見える。
右へ左へと避けながら歩いていると、迷路の中にいるような気分になった。
そのまま進んでいくと通路を抜けて開けた場所に出た。
目の前にピラミッドみたいな形をした大きなビルが建っていて驚いた。
今までの夢で見たことがない。
夕日のような光に照らされて山吹色にキラキラと光っている。
やっぱりちゃんと目の前にある。
こんなにハッキリ見えるのに、どうして他の人に見せられないんだろう……。
悲しいような、苛立つような。
そんなもどかしい気持ちになりながらピラミッド型のビルの方をよく見てみると、斜め奥に灰色のビルがいくつも建っているのに気がついた。
そのビルを目指すように、さっきの二人が急ぎ足で歩いているのが小さく見える。
あっちは商業ビル地帯かもしれない。
確かめたい。
そう思って、アタシも追いかけようとしたら目が覚めてしまった。
夢が繋がっていて、夢の世界があって、
ちゃんと自分でも夢だってわかるのに伝えられない。
こんなにも夢の中で悔しくなったのは初めてかもしれない。
前に見た夢を意識しているから、また繋がりのあるような夢を見るのかもしれないけど……。
でも、誰かにアタシの夢の世界をちゃんと見てもらいたい。
その気持ちが段々と強くなる。
そう思った夢でした。