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65.【カップラーメン島】

ある日の夢は……

学校の廊下を歩いていた。

奥に続く教室には誰もいない。


なんだか一人置いて行かれたような気分になって、無性に寂しくなった。

そんな時。


「次の授業、教室移動してテストだって。最悪だね」


アタシの横を小走りで通り過ぎていく誰かが言った。


「何のテスト?」


振り返った彼女は「数学……」と小さく呟いて、嫌そうな顔で笑うと行ってしまった。


何だ。また夢か……


数メートル先を走る彼女は、前の夢に出てきたマキナさんだった。


アタシも走ろうかと思ったけど、急がなくていいとわかって少しホッとした。

その瞬間、口の中に違和感。

喉の奥から前歯の後ろまで、ぎっちり粘土を詰め込んだみたいに口の中に何かがあった。

前にも夢だと気づいた時、口の中に謎の異物が詰まっていたことがある。

夢だから苦しくはないけど、気持ちが悪くて早く吐き出したくなった。

すぐ近くのトイレに駆け込んで一番手前の扉を開けてみると、なぜか我が家のトイレだった。


何で?


気になりつつ、便座の蓋を開けてみると蜘蛛の巣が張っていた。

アタシの精神状態の表れなのか何なのか、アッチノ世界に出てくるトイレは必ずと言っていいほど、汚物でめちゃくちゃに汚れていることが多い。

でも、今回は水が少し濁っていて、ホコリだらけ。

ずっと使われていなかったような……

いつもとは違う汚さだった。


それでも汚れたトイレに顔を近づけるのは抵抗があって、中腰の状態で口の中の物を吐き出そうとした。

でも、異物は餅やガムのように貼り付いていて、上手く吐き出せない。

仕方なく手で取れるだけ取ってみた。

まだ口の中に違和感は残るけど、気分は少し良くなった。


手を洗ってポケットを見ると、制服ではなく着慣れたジーパンを穿いていた。

上の服装は覚えていないけど、ジーパンの左ポケットには、いつもと同じようにハンカチがちゃんと入っている。

それが何だか嬉しくて、機嫌よく廊下を歩いていると、ふと目に入った教室がおかしかった。


さっき通り過ぎた教室の中には、見慣れた学校用の机とイスが並べられていた。

でも、今見える教室には、クッションのようなロータイプのソファーとテーブルが置いてある。

気になって通り過ぎたばかりの教室も確認してみると、いつの間にか同じように全ての机とイスがソファーとテーブルに変わっていた。


何だか高級仕様な教室になってるなぁ……なんて思いながら歩いていたら、廊下の突き当たりまで来てしまった。


一番奥にある教室を覗くと、白い紙が置かれたテーブルとソファーに座る生徒達が見える。

扉の近くにはマキナさんがいた。


あー、さっき言ってたテストね。


何にも気にせず、ボーっと教室を覗いていたら――


「突っ立ってないで、早く教室に入りなさい!」


教室の中から大きな声がした。

前を見ると、メガネをかけた先生がこちらを見ていた。


夢でも数学のテストなんて受けたくないな。


そう思ったアタシは急いでその場から離れた。


すぐ先にあった部屋に入ると保健室だった。

部屋の中がやたらと明るい。

眩しさに目を細めながら前を見ると、外に通じる引き戸が開いていた。

引き寄せられるように外へ出てみると、何か見覚えのある場所に感じた。

どこだったかな……と考えていたら、フワッと前に見た夢の映像が浮かぶ。

ここは多分、アッチノ世界の校舎裏。

左に行けば校庭、右に行けばお嬢様風の校舎か競技場に繋がっているはず。


どちらかに行けばいいのに、アタシは目の前に見える細長い門が気になった。

背の高いつる草だらけの錆び付いた鉄の門。

三、四メートル以上はありそうだった。


挿絵(By みてみん)


門に近づいていくと――


「そっちへ行ったらダメだ!」


後ろから声がした。

振り返ると、さっきの数学の先生が保健室の引き戸から出てこようとしていた。

行くなと言われたら行きたくなる。


鉄の門をグーっと押してみると、鍵は掛かっていないのか少しずつ動かせた。

そのままブチブチとつる草を切りながら、アタシは中へ入ってみた。


奥は上さんの家の周辺みたいに普通の住宅街だった。

そう思えたけれど……よく見ると、どの家も大きい。

玄関の扉だけでも鉄の門以上の大きさがありそうだった。

なぜか家の周りや道の至る所に、森とか渓谷にありそうな巨大な岩がそびえ立っていた。

雨に降られたのか岩も家も道も濡れて湿っている。


岩や家を眺めながら奥へ進むと、少しずつ霧のようなモヤが濃くなっていった。

何だか進むのが怖くなって、アタシは立ち止まった。

近くにはサボテンのような細長い岩が上へと伸びていた。


この霧の先はどうなっているんだろう……


知りたくなって、また忍者のように屋根を使って上へ跳んでみた。


跳ぶのにもだいぶ小慣れてきたのか、どうにか屋根より高い岩の天辺に到着。

岩は少しヌルヌルしていた。

滑り落ちないか不安になりながら辺りを見渡してみると、信じられない光景が目に飛び込んできた。


アタシが迷い込んだ住宅街のような場所は、小さな島になっていた。

この島の周りには他にも島がたくさんあるようだった。


挿絵(By みてみん)


辺りは薄い霧で覆われていて、空は曇っている。

鉄の門の先にあるはずの学校は消えていて崖になっていた。

下を見ると、島を囲むように冷たそうな海が広がっている。


挿絵(By みてみん)


学校がない……?

あの鉄の門から先は別の世界?


目の前のことが信じられなくて、アタシはその場でクルクルと回りながら見渡してしまった。


見えてる島は全部で六個。

今立っている島のすぐ横には、巨大な岩山が聳え立つ島があって、正面に見える島には大きな石像のような岩が二つある。

石像は口を開いて向き合うワニのような形をしていた。


二つの島の間には、繁華街のような建物が建ち並ぶ島もあった。

行き来しているのか、船のように島がゆっくりと動いている。


挿絵(By みてみん)


学校があったはずの場所にも、霧に包まれた島があった。

よく見ると空に浮いている。

もしかするとアタシのいる島も浮いているのかもしれない。

この島も住宅街なのか、霧の中から家のような建物が少しだけ見えていた。


もう一度下を見てみると、ポツンと海に浮かぶ島があった。

他の島よりかなり小さい島……というより船みたいに見える。

綺麗な丸い形をしていて、テントのようにピンッと張られた屋根には、広告なのかラーメンらしき食品が写っている。

何か書いてあるけど、漢字っぽく見える複雑な文字で読めない。

まるで巨大なカップラーメンが海に浮いているようだった。


じーっと眺めていたら、カップラーメンの屋根の隙間から人が見えた。

巨人と言えるぐらい大きな人。

かなり高い場所から見下ろしているのに、なぜかそう思った。


あんな雰囲気の人、どこかで見たことあるなぁ……。


そう思った瞬間、フワッと夢の映像が浮かんだ。


51.【マネキンショッピングセンター:巨大な人達】の夢に出てきた巨大な人達に似ている。


彼等がいるかもしれないと思って、大きく息を吸って力いっぱい叫んでみた。


「おーい!」


全く聞こえていないのか変化がない。

近くの家からも誰も出てこない。

どうにかあのカップラーメンのような島に行きたいけど、海は物凄く冷たそうに見える。


できるだけ海には入りたくないけど、どうしようか悩んでいたら……


アクション映画みたいに、あの屋根に着地する?

なんて思った。

跳んだって絶対に届かない距離だけど、夢だから案外行けるような気がしてしまった。


これで海に落ちたら、この間の水たまりみたいに溺れて苦しいのかな……。


夢を思い出したら不安になったけど、やらずに後悔よりやって後悔の精神で船を目指して海へ飛び込んでみた。


ジャンプした瞬間、下からブワッと突風が吹いてムササビみたいな気分になった。

夢だからか、そのまま上手くカップラーメン島に近づいて行って……

カカト落としをするかのように足から突っ込むと、綺麗に屋根が破れた。


その瞬間――


あーっ、ここで目が覚めそうだな。


そう思ったら、本当に目が覚めてしまった。

上手く中に入れたのに……。

あの中はどうなっていたんだろうか。




気になる夢でした。

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