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64.【侵入者:マキナさんと茶色い塊:夢が残す目印】


ある日の夢は……

気がついたら、我が家の三階に向かう階段の途中にいた。

そのまま三階に行くと、ダイニングテーブルに見知らぬ父と母が座っていた。


あれ……この人達、お父さんとお母さんだっけ。


そう頭の中で考えていると

「何ぼーっと突っ立てるの! 可愛い彼女が待ってるよ」と見知らぬ母がリビングに向かって微笑む。

リビングのソファーには黒髪の若い女の子が座っていた。


「まさかアンタが年下の女の子と付き合うなんてね。

 あら、ちょっと大変! もう零時過ぎているじゃない。

 十六歳未満の子が外に出ると**に捕まるから、見つからないようにマキナちゃんを家に帰してあげなさいよ」と背中をバシバシ叩かれた。


そっか。マキナはまだ十五歳だった。

あれ……零時過ぎたら何に捕まるんだっけ?

とにかく家に帰さなきゃ。

えっと、マキナの住んでいるところは……

思い出せない。


「ごめん。時間とか全く気にしてなかった。次は気をつけるよ。そういえばマキナの家ってどこだっけ?」


「ううん。大丈夫。住んでいるところは**だよ」


そう笑顔で話すマキナさん。


肝心な部分がノイズ音で聞こえない。

気になりつつも二人で階段を下りながら話していると、二階のベランダから外が見えた。

零時と言っていたから外は暗い。

雨が降っているのか窓が濡れていた。


挿絵(By みてみん)


前にもこんな日があったな。いつだっけ?


――なんて考えていたら


「外寒そうだから、上着持っていったら?」とマキナさんが顔を覗き込んできた。


そう言われて服を見ると、半袖のシャツを着ていた。

確かに外は雨だし、冷えるかもしれない。

言われた通り上着を部屋に取りに行くと、ソファーの上に何か服が置いてあった。

それを取った瞬間ーー

これは夢なんだと気がついた。


目の前にあるソファー。

現実の世界では、何年も前に捨ててしまって今は存在しない。

だから、置いてあるのはおかしい。

思い返してみると、アッチノ世界のアタシの部屋にはいつもこのソファーが必ずあった。

まるで何かの目印みたいに。


冷静になって、今の夢の状況を色々と考えてみると……

アッチノ世界の我が家の外や中が暗くて、雨が降っている時に見る夢は怖い夢になる事が多い。

何よりもアタシは女で、マキナという女の子も三階にいた両親も知らない。


そう確信した瞬間、〝バタンッ〟と音がした。

今の音は隣の部屋の引き戸を強く閉めた時の音だと思う。

隣の部屋は、41.【瞬き短編集】の夢でチンパンジーと怖い赤ちゃんに遭遇した部屋。


またあの夢の続き?


そう思って振り返ると、マキナさんがいない。

急いで隣の部屋に入ってみると……

あの部屋はなく、なぜかアタシは外に出ていた。


そこは現実の世界にもある大きな駐輪場の近くだった。

開けた引き戸は駐輪場の前にある金券ショップの扉に変わっていた。

辺りを見渡すと、アッチノ世界の商業ビル地帯にある建物が見える。


我が家の洗面所はマネキンショッピングセンターに繋がっていて、隣の部屋は商業ビル地帯に繋がっている。


それがわかったとしても、目が覚めるまでどうしようかと考えていたら――

豚の鳴き声のような、何か動物の唸り声のようなものが聴こえてきた。

駐輪場は二つあって、その間にある短いトンネルの奥から声がする。


何がいるんだろ?

さっきのマキナさんが叫んでるの?


ドキドキしていたら……


「やっぱりここにもいるかぁ~」と真横で声がした。

見ると、茶色いエレベーターで会った綺麗なお姉さんが立っていた。最近よく出てくる。


「Aちゃん。せっかくまた会えたのに嫌なタイミングだね……今から醜い奴等が来るみたいだから、現れたらこれで攻撃してね!」


そう素敵な笑顔で言うと、お姉さんは何かを渡してきた。

おもちゃのロケットランチャーのような武器だった。

中には、可愛いロケットの形をした弾らしき物がいっぱい詰まっているのが見える。

33.【研究所:白色と黒色の生産工場】の夢で持っていた使えない光線銃を思い出す雰囲気。

不安しかない。


「そろそろ来るよ!」


挿絵(By みてみん)


お姉さんと一緒に武器を構えながら、トンネルの奥をじーっと見ていると……

唸り声が一気に近づいてきた。

同時に奥から巨大な物体がゆっくりと出てくる。

縦横二メートル以上はありそうな何かが三体もいた。


パッと見は大きなゴリラ。

でも、よく見ると、何かで汚れたような茶色い細布を全身に巻いている。

ぐるぐるに巻いているから、顔があるのかもわからない。

肉の塊のようにも見えるけど、かろうじて足首と手首は見えた。


ゴリラとかクマとか、黒くて大きな生き物が苦手なアタシは、ゆっくりと近づいてくる奴等に向かって武器を撃ちまくった!


シュッポーン!と間の抜けた音と共に、小さなロケットは放たれた。

追跡型みたいな動きをしたので、確実に当てられるのかと思ったら、見事に奴等を避けていく……。


「あの光線銃と同じでやっぱり使えないじゃんか!」


イラッとしていたら、二つのロケットがぶつかり合って、三体のうち一体に軽く当たった。

すると、当てられた一体が物凄い叫び声をあげ始めた。

――と思ったら、三体が一斉に突進してくる。


隣にいたお姉さんがアタシの腕を掴んで、引き寄せるように助けてくれた。

そのまま三体は止まらずに、金券ショップに突っ込んでしまった。

金券ショップはボロボロ……。


「今のうち。こっちに来て!」


お姉さんはアタシの腕を掴んで駐輪場の中に入った。

ここの駐輪場の出口は一箇所しかない。


「だめだめ。ここに入ったら逃げ場が無くなっちゃうよ」と慌てて訴えていると


「なぜかね、奴等は道路の上しか移動できないみたいなの。だから、ここには入って来られないと思う。

 でも、奴等は頭が良いからまた戻ってくるはず。

 その前に急いで作戦を練り直しましょう」とお姉さんは笑いながら言った。


ここは金網フェンスに囲まれた二階建ての駐輪場。

中には自転車が一台もなかった。

現実の世界の駐輪場とは、形も少し違っているらしい。

コンクリートでできた広い空き地みたいになっていて、

その中には、膝下ぐらいの高さの円形の白い物体が駐輪場いっぱいに広がっていた。

巨大なビニールプールのように見える。


円形の物体の中には、一回り小さい円があって、その中に更に小さい円があった。


中心の円に人が立っていると思ったら……

そこにいたのは黒羽根さんだった。

こんな所で会えたのが嬉しくて、転がりそうになりながら円の中へ入ってみると、雨が降った後のように薄く水が張っていた。


なんで水が入っているんだろ……。


そう思いながら、近くまで行ってみた。

黒羽根さんもニコッと笑ってくれた。


「また怖い思いをさせちゃったね……」


困ったような顔で黒羽根さんが言った瞬間――

パンッと銃声のような音がした。

黒羽根さんはアタシを庇うように、音がした方へ背中を向けた。

同時に連続的な銃声音が聴こえて、アタシの左ふくらはぎに激痛が走る。

そのままアタシは黒羽根さんと一緒に倒れてしまった。

激痛と言っても、夢の中の痛みは少し違う。

氷とか冷たい物をずーっと当てている時の冷たいような熱いような感じに似ている。



もう怖い。

夢から覚めるまで、このまま死んだふりしてやり過ごせないかな……。


倒れたままずるいことを思うアタシ。


顔には水が触れていた。

本当に死んじゃったのなら、なんてことない薄い水たまりなんだと思う。

でも、死んだふりをしているアタシにとってはとても深い水たまりだった。

息を止めたり、静かに呼吸をしたり、溺れかけながら耐える。

夢だけど、あまりに苦しくて顔の向きを変えると黒羽根さんの白いシャツが見えた。


黒羽根さん死んじゃったのかな……。


悲しくなって白いシャツに触れようとした瞬間、ムクリと黒羽根さんが起き上がった。

慌ててアタシも起き上がると突然、キスをされた。

トキメキよりも、なぜかしょっぱくて驚いた。


「しんどいだろうけど、そのままキミはここで横になってて」


そう言いながら黒羽根さんは立ち上がった。


「もうすぐ目が覚めるよ」


アタシの方を見てニヤッと笑うと、お姉さんと一緒に駐輪場の二階へ走って行ってしまった。


挿絵(By みてみん)


駐車場の上はどこにも繋がっていないはずなのに……。


そう思いながら走っていく姿を見ていたら

どこからか「元気! 桃の木! モモンガの木!」と叫ぶ声が聞こえて目が覚めた。

「元気! 桃の木! モモンガの木!」と家の前で子ども達が何度も叫んでいた。

黒羽根さんはこれで目が覚めると分かっていたのか、

ただの偶然なのかわからないけど。

あの二人は無事なのか気になって仕方がない。






そんな夢でした。

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