55.【上さんの家】
アッチノ世界にある学校の校舎は、いくつもの建物をくっ付けたような巨大な建物。
そんな校舎の他に学校の敷地内には、お嬢様学校みたいなお洒落な校舎もある。
ある日の夢は普通の校舎の昇降口にいた。
「帰ろう?」
友達らしき女の子が声をかけてきた。
そのまま帰ろうと思ったけど、アタシは急にお洒落な校舎を探検してみたくなった。
なぜか今回は探検できるような……そんな気がしていた。
「ちょっと行きたい場所があるから先に帰っていいよ」
女の子にそう言って、アタシはお洒落な校舎のある方へ向った。
手には珍しく学校の鞄を持っている。
何が入ってるんだろう……。
鞄を見ながら、下を向いてダラダラと歩いていた。
ふと顔を上げると、あるはずのお洒落な校舎が無い……。
目の前には赤茶色の地面が広がっていて、道を作るように枯れた木が両サイドに並んでいた。
一番、奥には廃墟のような大きな建物が見える。
曇ったようなセピア色の空。
まるで【廃墟村】にいるみたいだった。
(場所を間違えたのかな? それとも今回の夢はお洒落な校舎には行けない?)
立ち止まって悩むアタシ。
(でも、アタシの夢なんだから行きたい場所を強くイメージすれば行けるはず!)
そう思って、目を閉じて前に見たお洒落な校舎を強くイメージしてみた。
そのまま顔を下に向けながらゆっくり歩いていく。
時々目を開けてみたけれど、見えるのは赤茶色の地面と砂埃に汚れたローファー。
それでも諦め切れなくて何かにぶつかる勢いで目を閉じながら走ってみた。
すると、靴の裏に感じる地面の質が変わった。
そーっと目を開けてみると、夜の住宅街にいた。
赤茶色だった地面は黒いコンクリート、枯れた木があった場所には同じようなデザインの家が並んでいた。
月が見当たらないのに月明かりを感じる夜空。
【屋根のない洋服屋】のある場所に雰囲気が似ていた。
ボロボロの建物があった所には、洋風とも和風とも言えない巨大な家がある。
少し上り坂になった道を歩いて、その巨大な家の前まで近づいてみた。
家の表札が見える。
誰のお家なのか知りたくなって門の前まで近づいた瞬間――
〝ピンポーン!〟
センサーか何かがあるのか、勝手にインターフォンが鳴った。
パニックになりながらも急いで表札を見てみると、『上』と書かれていた。
(上さん? そんな人知らないなぁ……)
――と思っていたら……
「どなたですか?」
インターフォンから女の人の声がした。
知り合いでもないし状況を説明するのが面倒で答えずにいると、突然一階の窓のカーテンが開いた。
慌てて門と塀の隅みたいな所に隠れてみた。
(意外と見つからない? でも、このパターン見つかりそうだよねぇ……)
なんて思っていたら、今度は二階の窓を開ける音がして反射的に見てしまった。
そこにはメガネをかけた家政婦風なオバサンが立っていた。
見つめ合うほどに目が合ってしまったアタシ。
(ヤバい……)
慌てて逃げようとした瞬間――
来た道から大きな白い狼のような動物が猛スピードで走ってきた。
「怖い!」
思わずしゃがみ込んでしまった。
でも――
(この狼、前にも見たことがあるかも……)
そんな気がして考えていたら、狼は突然アタシの首に顔を近づけてきた。
(咬まれる!!)
身構えた瞬間――
狼はアタシの首と顎の間に頭をゴツゴツと埋めてきた。
それは我が家にいる父猫チップがよくやる行動と似ていた。
チップみたいに頭をゴツゴツしてから、狼はアタシの目を見つめる。
鋭いけれど、シベリアンハスキーみたいな綺麗な青い目。
何度もゴツゴツされている途中でアタシは起きてしまった。
目が覚めた後、上さんの家は前にも見たことがあると思った。
何かに追われている夢の時、忍者のように建物の屋根から屋根を飛んで逃げていることがたまにある。
その時に、昼間の時間に上さんの家を高い場所から見たような気がする。
その瞬間の場面が頭に浮かぶけれど、確実にあの家だったかはわからない。
昼も夜もあって、【学校】の近くで【廃墟村】のような場所。
月のない月明かり。
ロールプレイングゲームの地図みたいに【アッチノ世界地図】は繋がっているような気がする。
【アッチノ世界】は本当に小さな世界なのかもしれない。