54.【黒羽根さん: 緑なアイツと見えない香り】
ある日の夢はアッチノ世界にある我が家の三階にいた。
リビングは真っ暗。
また黄色いサルとか危険な生物が出てくるだろうか……。
ドキドキしていたら、リビングの隣にある小さな和室から話し声が聞こえてきた。
そっと覗いてみると、和室に姪と甥達がいた。
驚いたけど、アタシは少しホッとした。
「ママは?」
恐る恐る聞いてみた。
「ベランダにいるよ~」
いつも通り姪が元気よく叫んだ。
見に行くとベランダの窓が開いている。
外へ出ると夜のように空が暗い。
でも、何だか変だった。
まるでペイントソフトで描いたような空。
藍色に水色を足したような色をしていて、筆でなぞった跡や点々と筆を置いたような跡もある。
姉も空を見ていて「変な空だね」と二人で話していた。
いつかの夢のように、月が無いのに月明かりを感じる。
それでもきっと、我が家から一歩外へ出ると夕方の風景で止まっているんだと思う。
外から見る我が家の周辺はいつも夕方なのに、家の中から眺める周辺は夜だったり、曇り空だったり気紛れ。
「ここの世界の月はどこにあるんだろう」
姉と二人で空が明るい方を向いた瞬間――
突然、大きな羽音と共に、コウロギやバッタみたいな脚の長い緑色の虫が現れた。
猛スピードで飛んできたので、アタシも姉もパニック状態。
急に羽音が止んだので辺りを見渡してみると、少し離れた手すりの上に止まっていた。
こちらを向いて羽を広げている。
あー。こういう時って絶対、顔とかに飛んでくるんだよね……あっ、こんな風に考えるとそうなるのか。
そう思った途端、確認したかのように巨大な虫が飛んできた。
夢であっても、顔とかにくっ付かれる感触はリアルなのかな……最悪だ。
そんなことを想像していたら、突然フワッとアタシの顔を包むように何かが触れた。
ブンブンしない……。
そのままギューッと抱き締められてアタシの視界はゼロ。
アタシがとんでもなく虫嫌いなのを察して、姉が守ってくれているのね。
姉も黒羽根さんみたいな好い匂いがする……。
なんてスゥーハァーしていたら、虫が飛ぶ音とベランダの金属部分にぶつかるような音がした。
「ギャー! 虫怖い~」
姪の叫び声も聞こえてきた。
どうやらさっきの虫が家の中に入ったらしい。
「大丈夫ー?」
そう叫ぶ姉の声と、慌てて家の中へ入って行くような音聴こえた。
聴こえたはずなのに……
アタシの視界はまだ真っ暗のまま。
「姉は今通過……じゃあアタシを抱き締めてくれているのは一体誰?」
一瞬、前に見た48.【学校 : 被害妄想なオジサン】の悪夢が浮かんだ。
あのオジサンだったら気持ち悪い!
そう思い始めていたら、笑いを堪えるような声が上から聞こえてきた。
この匂い……もしかして黒羽根さん?
確認したくて顔を見ようと必死でもがいたけど、抱きしめてくれている誰かの力が強くて全然動かない。
もう少しで顔が見られそう。
そう思った瞬間、目覚まし時計の音で起きてしまった。
そんな夢でした。