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50.【マネキンショッピングセンター:探検】

挿絵(By みてみん)


眠る時。

横になって目を閉じると、ラジオのような色んな音や声が頭の中に聴こえてきて眠れないことがある。

そのままどうにか眠ると、アッチノ世界にいたりする。


マネキンショッピングセンターの中も同じような不思議な音がざわついている。


人ごみの中にいるようで、何か違う。

マネキン人形が動く音と、話し声のような音。

近くにいるマネキン人形に耳を傾けると、音は全く聴こえなくなる。


お店に流れている音楽もそう。

何の音楽なのかわからない。

聴こうとすればするほど聴こえなくなる。


そんなマネキンショッピングセンターにいると、何かに追いかけられて逃げることが多い。

でも、ある日の夢は何だか違った雰囲気だった。


夢の始まりはカフェにいた。


挿絵(By みてみん)


そこは別の夢で見たことがあるカフェだった。

店内には、スケルトン素材のカラフルなイスとテーブルが置かれている。


アタシは一人で席に座っていた。

赤いストローが入った空っぽのコップと、白い紙ナプキンが乗った茶色いスケルトンのお皿がテーブルの上にあった。

周りを見ると、カップルみたいなマネキン人形達と、一人で本を読んでいるマネキン人形がいる。


今回はすぐに夢だと気づけてしまった。

なので、行ける範囲で探検してみたくなった。

そっと席を立つと、いきなり何かが背中を引っ張った。

慌てて振り返ると、珍しくリュックサックを背負っていた。

網みたいなリュックサックのポケットが観葉植物の葉に引っ掛かっている。

観葉植物と言っても、これも本物の植物ではなかった。

イスや食器と同じように、葉っぱがスケルトン素材の綺麗な置物だった。


前の夢では、カフェの隣にオシャレな本屋さんがあったはず……。


そう思ってお店を出ると、やっぱりあった。

たくさんのマネキン人形が立ち読みをしている。

現実の世界で、お店にディスプレイされているマネキン人形を人間は気にしない。

それと同じように、ここのマネキン人形達もアタシのことは気にならないらしい。


ただ一つだけ不安なことがある。

マネキンショッピングセンターの中で男の人に追いかけられた時、逃げる勢いでマネキン人形に激突してしまった。


挿絵(By みてみん)


崩れるようにマネキン人形が倒れた瞬間、アタシに無関心だったマネキン人形達が一斉に振り向いて、男の人と一緒に追いかけてきた。

逆の立場だったら、ディスプレイされているマネキン人形が突然人に襲い掛かった……。

そんな感じなのだろうか。


それを思い出して、アタシはマネキン人形に触れないように慎重にお店の中に入った。


最初に見えたのは雑誌専門のようなコーナーだった。

一冊手にとって見ると――

マネキン人形と風景のページ。

洋服を着たマネキン人形のページ。


どれも載っているのは写真のみ。

文字という文字が一切無い。

気になって他の棚のハードカバーの本を見てみると、表紙はあってもタイトルが無い。

絵や写真、マークとかラインとか……

デザインのみというか。

中も数字と線が少しあるだけで、白紙に近いページばかり。

レシピ本も分量らしき数字は書いてあるけど、作る過程や完成した料理の写真があるだけだった。


何だかモヤモヤした気分で本屋さんを出ると、隣にCDショップがあった。

CDのジャケットも流れているミュージックビデオもマネキン人形しかいない。

視聴コーナーがあったので試しに聴いてみると、色んな音楽が混ざったような音が聴こえてくるだけだった。


ここには文字とか声、言葉が存在しない?

でも、数字はある。


うーん……変なの。


なんて考えながら、本屋さんとCDショップをブラブラしていると喉が渇いてきた。


お金なんて持ってないだろうな。


そう思いつつ持っていたリュックの中を見てみると、財布が三つも入っていた。

長財布と二つ折りの財布、それとガマ口の小銭入れ。

実際に持っている物と同じ小銭入れの中には、穴の開いた平たいエメラルド色の石が何個か入っていた。

44.【ゆらゆら : 仮面道路】(後編)の夢で、古びた改札にいたお婆さんが持っていた物と同じ気がする。


二つ折りの財布を見てみると、カード入れの中に銀色のカードが一枚あるだけで、お金らしきものは全く入っていなかった。

カードには「CASH CARD」と書いてある。


マネキンショッピングセンターで使えるのかしら……。


諦めかけながら長財布を開けてみると、なんとお金が入っていた。

でも、良く見ると福沢さんではなく、顔の無い福沢さんらしき絵が描いてあった。

それに何だか小さい。

小銭入れを見ると、入っていたのはプラスチックの小銭だった。


これって……おもちゃのお金?

まぁ、これがマネキンショッピングセンターで使えそうなお金かな。


入っていた小銭を手に持ちながら歩いていると、自販機があった。

数字だけはあって、やっぱり文字は無い。

恐る恐るプラスチックの百円と五十円を投入。


軽い音がした。

ホットのミルクティーのような缶があったので、押してみると出てきた。

先におつりを取ると、プラスチックの十円が三枚あった。

出てきたミルクティーは異様に軽い。

でも、温かい。

どうなっているのか気になって開けてみると、中身は空っぽだった。


飲めないとなると益々飲みたくなる。

早歩きで最初のカフェに戻ってみた。



列に並びながら待っていると、ドリンクを受け取ったマネキン人形がいた。

横を通り過ぎた時に手元を見ると、持っていたのは空っぽのコーヒーカップだった。


また飲めない……。


店を出て考える。

マネキンショッピングセンターの中には出入り口が数カ所ある。

その一つに大きなエスカレーターがあって、そこを上りきった所に今さっき出たカフェがある。


挿絵(By みてみん)


天井までガラス張りで凄く明るい入り口。

エスカレーターの側から見下ろすと、下の階にマネキン人形達がたくさんいた。

みんな〝ガタガタ〟と音をたてながら、ぎこちない歩き方をしている。


下の階には何があるんだろう。


気になって探索してみることにした。

エスカレーターを降りてすぐ横に、コックさんの帽子のイラストが描かれたお店を発見。


挿絵(By みてみん)


中に入るとマネキン人形のスタッフが案内をしてくれた。

お昼時ではないのか、そんなに混んではいなかった。

時計が無いから時間がわからない。


席に座ると、ちゃんとメニューと空っぽのお冷を出してくれた。

やっぱりメニューも写真と数字が載っているだけ。

パスタセットみたいなのを注文しようとマネキン人形のスタッフを呼ぼうと思ったけど……

「郷に入れば郷に従え」を思い出す。


周りにいるマネキン人形達は会話をしていないし、現実でマネキン人形が喋りだしたら怖いよね。


そう思って、無言でマネキン人形のスタッフに向かって手をあげてみた。

ちゃんと近づいてきてくれた。

パスタセットを指差すと、頷いたような仕草をして戻っていったので一安心。

待っている間、アタシは窓越しからエントラスホームをボーッと眺めていた。


挿絵(By みてみん)


色んなマネキン人形が出入りしているように見える。

外国人のような顔があるやつ、のっぺら坊みたいなやつ……

木の素材だったり。スケルトンだったり。

大きさも様々。


こんなに何事も無く、この世界をのんびり探検できたのは初めてかも……。


なんて思っていたらパスタセットが来た。

トレイにはパスタと小さなサラダが乗っていた。

やたらテカテカしている。

置かれたフォークでパスタを刺してみると硬い。


サンプルじゃんか。


近くにいた親子の席を覗いてみると――

お母さんの前にはオムライス、子供の前にはオシャレなお子様ランチらしきお皿が置いてある。

どちらも同じくテカテカしたサンプルだった。

でも、食べているような仕草はしている。

それを見たら余計にモヤッとして、伝票を持ってレジへ向った。


数字しか書かれていない伝票を見て、マネキン人形のスタッフは何かを打ち込む。

レジには「800」という数字が出た。


パスタセットは八百円……。


頭の中で唱えながらお財布の中を見ると、お札は一万円もどきしか入っていなかった。

小銭入れの中にも八百円も無さそう。

仕方がないので一万円もどきを出すと、ちゃんとおつりを渡してくれた。

長財布にお札を入れようとしたら、内ポケットに厚紙が入っているのに気がついた。

取り出してみると「¥」マークが書いてある。


これもキャッシュカード?

じゃあ、さっきのカードは、もしかしてマネキンショッピングセンター以外の場所で使うのかな。

そうなら、迷路街とかで使えるお金が引き出せるのかもしれない。


夢の記憶と照らし合わせながら、ATMがないか辺りを見渡してみたけど見当たらなかった。

その変わりに食料品売り場とドラッグストアを発見。


挿絵(By みてみん)


(期待は薄いけれど、食料品売り場なら何か口に入れられる物があるかも……)


恐る恐る中に入ってみたけれど、やっぱり野菜もサンプルだった。

缶詰も飲み物も中身は空っぽ。

原寸大のおままごとをしている気分になった。

ドラッグストアに入ってみると、そこは普通に見える。

でも、風邪薬の箱を取ってみると軽い。

中を開けたら錠剤の入っていないアルミだけが入っていた。

でも、入浴剤やシャンプー、化粧品の中身は入っている。

食べ物でも薬でも何でも、体内に入るものはサンプルか、または中身が無いらしい。


ちょっと面白くなって風邪薬の他にも開けてみようと色々物色している途中で目が覚めてしまった……。

今回は本当に大きなトラブルも無く、穏やかな夢だった。

今度違う場所でまた財布を持っている夢を見たら、マネキンショッピングセンターで出来なかったことに挑戦してみたくなりました。





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