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43.【ゆらゆら : チキンスーツ】(前編)


ある日の夢は窓の無い部屋から始まった。

そこは初めて見る場所だった。

全体がクリーム色……というか黄ばんだ白色。

アッチノ世界にある宿泊施設の地下に雰囲気が似ていた。

部屋にあるのはパイプベッドと洗面台だけ。


挿絵(By みてみん)


扉を開けて出てみると廊下になっていた。

同じような扉が廊下の奥の方までたくさん並んでいる。


挿絵(By みてみん)


窓が無いせいか、建物の中は地下や夜の時間帯みたいに少し薄暗い。

扉にある窓から違う部屋も覗いてみたら、他にも人がいた。

声をかけてみたけど、みんな背中を向けている。

まるでテレビで見た精神病棟のような雰囲気だった。


そのまま廊下をとぼとぼ歩いていたら、奥の方の部屋の扉が一つ開いて、中から白色の服を着た看護師みたいな人が出てきた。

アタシのことは気にもせず、その人も背中を向けてスタスタと歩いて行ってしまう。

急いで後をついて行くと、さっきの部屋とは違う雰囲気の部屋に入っていった。

そこは青いカーペットが敷かれた大部屋で、看護師みたいな人や個室にいたような人達が何人かいた。


よく見ると、みんな全身がブレている。

モザイクをかけたように顔も体もはっきり見えない。

何か話もしているけど、人混みの雑音をスローモーションしたような話し声が溢れていて、聴こえるのに聞こえない。

床に座っている人、机に向かって何かを書いている人、窓の外を見ている人。

それぞれみんな違うことをしていた。


やばそうだなぁ……。


そう思いながら部屋を見渡していたら、床に座っている人の隣にスーツを着た男の人がカバンを抱えて体育座りしていた。

その人だけブレていない。


「すみません……」


思わず声を掛けてみると〝ガバッ!〟と音が聴こえてきそうなほど勢いよく顔を上げてこちらを見た。


「あなた普通の人? ほんとに? やっと出られる……!」と詰め寄ってきた。


「いやいや、アタシもわからないんです。ここはどこなんですか?」


そう返しながら、念のために少し距離をとった。


「俺も気付いたらここにいて……訳がわからない。ここは病院みたいだけど」と言ってスーツの人は俯いた。


病院? 違う。


ここがアッチノ世界なら、ここにある病院は停電病院のはず。

あの病院は電気なんて点いていないし、人もほとんどいない。

それを説明するとスーツの人は早口で色々と話し始めた。


「ここは窓が無いから地下だと思う。俺は早く帰りたくてあちこち出口を探し回った。

 でも、下りの階段が一つあるだけで、どんなに探しても上に行く階段が見当たらない。

 仕方がないから下の階へ行くと、なぜかまた同じ階に戻ってしまう。何回下りてもダメ。

 繰り返しているうちに疲れて諦めてかけていた。

 キミも一緒に出口を探してくれないか?」


そんな風なことを話してくれた。

話を聞きながら、もう一度部屋を見渡すと窓がある。


「あそこに窓があるから地下ではないんじゃ?」


「俺もそう思って出口を探したんだ。

 でも、『 B 』と書かれた下りの階段ばかりで、外へ出る扉を見つけられない」


そう言うとスーツの人は不安そうな顔をした。


アッチノ世界には変な存在もたくさんいる。

スーツの人が安全な人なのかわからないけど、どちらにしてもここから出る方法を見つけなきゃいけない。

話を聞いて、アタシはどうしたものかと窓の外を見た。


見たことある景色だなぁ……と思ったら、正面に見えるのは夕日に照らされた我が家だった。

左側を見ると大草原が見える。

やっぱりここはアッチノ世界。

そして今いる場所は、前に夢で見た未来ビルの一室なんだと思った。



あの建物だったら確かに出入り口は無い。

でも、出入り口は無かったとしても、目の前に窓はあるのだから出られるじゃんか。


そう思って開けてみると、窓の外が黒い。

暗いとかじゃなくて、不自然なほど真っ黒。

思わず窓を閉めると、さっき見た景色がちゃんとある。

それなのに窓を開けると、ここは異次元?って思ってしまうぐらい黒い空間があるだけだった。


黒い空間を暫く見つめながら考えてみたけど……

何もいい案が浮かばないから、とにかく階段へ行ってみることにした。

スーツの人が案内してくれた階段は想像していた病院の階段とは違って、鉄棒みたいな素材でできた鉄臭い螺旋状の階段だった。


挿絵(By みてみん)


下りていくと〝カンカン〟と音が響く。

手すりに添えた手が冬の鉄棒を触った時のように冷たくなった。


下の階の廊下に出てみると、確かに同じ階のような気がする。

でも、病院ならみんな同じような造りだから、階が違うだけかもしれない。

そう思って少し歩いてみると、また青いカーペットの部屋があった。

さっきまでいた部屋だと示すように窓が開いている。

スーツの人が『ほらね?』と言いたそうにアタシの顔を見た。


前にも学校や宿泊施設の階段で同じようなことが何度かあった。

学校の夢では何度も階段を下りてみて、下りてきた階段を何の気なしに上ってみたら違う場所に出し、

それを応用して宿泊施設の階段でもやってみたら、突然エレベーターが現れた。

恐る恐るエレベーターに乗ってみたら、その時は結局降りたい階では扉が開かなくて、目が覚めるまでエレベーターに閉じ込められていた。





今回も似たような事態になるかもしれない。

でも、何もしないより動いた方がいいと思った。


スーツの人に目印をつけられる物を何か持っていないかと聞くと、付箋を持っていたので『 B 』の字に貼って階段を下りてみた。

見えてきた『 B 』の字には付箋が貼ってあった。

めげずに何度も何度も下りてみると、ついに目印無しの『 B 』の字が現れた。


「やった! これで帰れる!」とスーツの人は大喜び。


でも、ネガティブ思考なアタシは

「まだわからないですよ。これで上ってみて何も無かったら意味がないです」と念を押した。


期待と不安が入り混じる中、ドキドキしながら階段を上るとエレベーターが現れた。


「あった!」


テンションが上がってアタシも叫んでしまった。

現れたのは、覗き穴みたいな小さな窓がある銀色のエレベーターだった。


挿絵(By みてみん)


一つしかないボタンを押すと扉がゆっくりと開いた。

恐る恐る二人で中へ入ると、階数の書いていないボタンが並んでいて、とりあえず一番上のボタンを押してみた。

扉が閉まって、スムーズに上ってすぐに停まった。

でも、扉が開かない。

小さな窓から見えるのは、停電病院みたいな場所だった。


挿絵(By みてみん)


上に行くってことは、アタシ達がいた場所は本当に地下だったんだ……。


そんなことを考えていたら、真っ暗な廊下から誰かが歩いてくる足音が聴こえてきた。

こんな時に現れるのは絶対に良くはないモノ。

そう思ったアタシは急いでもう一つ下のボタンを押した。

今度は上なのか下なのかわからない感覚に襲われながら停まった。

また窓から見てみると、アッチノ世界の学校にある使ってはいけない階段が見える。

でもここも暗いから、いい場所ではない気がする。


挿絵(By みてみん)


このエレベーターはアッチノ世界の建物に繋がっているんだ。

もしかすると安全な場所もあるかもしれない……。


そんな気がして更に下のボタンを押してみると、次の階は宿泊施設にある巨大なお土産屋さんだった。


「ここなら……ここなら大丈夫!」


そうスーツの人に言って、意気揚々と出ようとした。

でも、また扉が開かない。


「もうこの世界から出られないんだ……」


崩れるようにスーツの人は座り込んでしまった。

困り果ててお互い無言でいたら、顔を伏せていたスーツの人が突然立ち上がった。


「さっきの階段と同じように下へ向かったら、上に出れられる場所で扉が開かないかな?」と言ってアタシの顔を見た。


どうなるかわからないけど、とにかく試してみた。

一番下の階のボタンを押してみると、エレベーターはどんどん下へ……下へ……停まらない。

現在の階数を表示する物も無いから、どのぐらい下りたのかもわからない。

ずーっと下りていく。


「どうしよ……どうしよ……」


スーツの人は汗だくになりながら、かなりアタフタしている。

ふと、一番下にある緊急停止のボタンらしき部分が目に留まった。


このボタンがあるってことは停止する?

停まらないなら停めてしまえばいいのか。


なんて思ったアタシはをそのボタンを押そうとした。

でも、ボタンを保護するプレートのような物が硬くて押せない。

スーツの人も挑戦してみたけど、やっぱり押せない。

この状況にイラッとしたのか、スーツの人が胸ポケットからボールペンを出した瞬間――

「ちくしょー!」と叫びながら停止ボタンのガラス目掛けてボールペンを思いっきり突き刺した。


ガラスは見事に割れた。

同時にボタンも押せたのか、激しく揺れながらいきなり停止。

扉がスーッと静かに開いた。

二人で恐る恐る外へ出てみると、そこは駅ビルのような場所だった。


挿絵(By みてみん)


地下鉄の建物なのか、地下から伸びる細いエスカレーターからOLっぽい人やスーツを着た人、そしてマネキン人形が次々と上ってきた。

そこには上りのエスカレーターだけしかなかった。

正面の道路には車が走っていて、その奥にはビルやお店が見える。


動くマネキン人形がいるってことは、マネキンショッピングセンターが近くにあるはずだとアタシは思った。



「これでやっと帰れる!

 ここからは一人でも大丈夫そうです。

 あなたがいなければ、あの地下から出られなかった。ありがとう」


スーツの人が泣きながら握手してきた。


「今は何にもお返しできないけど、これ受け取ってください」と名刺もくれた。


その場で名刺に書いてある名前もちゃんと見たのに、起きたら思い出せなかった。


「帰り道も気をつけて! 本当にありがとう」


スーツの人は手を振りながら外へ出て行った。

それを見送るようにアタシも外へ出ると、雨が降っていた。

振り返ると、マネキンショッピングセンターの建物が見える。

結局、あの精神病棟みたいな場所は未来ビルの中だったのか、それが地下だったのかもよくわからなかったけど……

やっぱりあの場所もここもアッチノ世界なんだと思った。






そんな夢でした。


44.【ゆらゆら:仮面道路】へ続く→

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