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41.【瞬き短編集】

ある日の夢はなんというか……

まるで短編映画みたいな夢というか。

いくつもの夢を同時に重ねるように見た不思議な夢だった。



最初に見た夢は普通に日常を過ごしている夢だった。

夢だと気づけないほど現実と何にも変わらない。

そんな夢の中で、更に眠って夢を見た。

夢の中の夢は、おとぎ話の世界みたいに自分の部屋の物が勝手に動き出す。

キャラメルの包み紙が鳥の羽のように〝パタパタ〟と羽ばたいて逃げようとしたり、洋服が絡み付いて襲ってきたりした。


夢の中でスーッと目が覚めて、一日が始まる。

そして一日が終わると、また夢の中で眠って同じ夢を見る――

そんな繰り返し。


夢の中で見ていた夢なのかわからないけど

次に始まった夢は、外国人の小さい女の子が二人出てきた。

二人は双子の姉妹なのか、そっくりな顔だった。

カラクリ屋敷のような大きなお屋敷の中で、犬と一緒に寄り添いながら本を読んでいる。



そんな二人の目の前に、今度は二十歳ぐらいのまた双子みたいな女の子達が現れた。

一人がふらっとどこかへ行くと、残った一人が女の子達に自分達のことを話しながら写真を見せる。


そのまま瞬きするように、いきなり違う夢に切り替わった。




次に始まった夢は、アッチノ世界の我が家のベランダにいた。


「私はケーキという物が苦手でね。でも唯一、美味いと思えたのがレモンのケーキなんだよ」


突然、背後から声がして振り返ると、和服を着たお爺さんがベランダであぐらをかいて座っていた。

よく見ると亡くなった昭和の名俳優さんだった。

大霊界……って言葉が浮かびそうなあの俳優さん。



「和菓子にもレモンの味がする物はないかと思って探していたらあったんだよ。そいつが私は好きでねぇ……」


『ダンゾウ』とか、そういう名前の和菓子屋かレモン味の大福が好きなんだと語る名俳優さん。

話を聞いていたら、物凄く暑くて夢の中で目が覚めた。

起き上がると、そこは子供の頃に使っていた部屋だった。

季節は夏なのか、汗だくになるほど部屋の中が暑い。


空気の入れ替えをしたくなって部屋の窓を開けたらーー

チンパンジーのようなサルが網戸にしがみ付いていた。

物凄い形相で金切り声をあげている。


またサルですか……。


思わず溜息が出た。

嫌だなぁーと思いつつ、狂ったように怒っているチンパンジーの様子を見ていたら、その奥の景色がおかしいことに気がついた。

よく見ると、あるはずの家も道路も何にも無い。

どこまでも真っ白な世界が広がっていた。


その光景にビックリしていると、どこからか変な音が聴こえる。

耳を澄ましながら、チンパンジーの隙間から白い世界を覗いていたら、左端の方から何かが現れた。

赤と白の可愛いロンパースを着た赤ちゃんがアンティークなカゴ付き三輪車に乗っていた。

小さなカゴには、ニホンザルみたいな小猿も座っている。


よく見ると赤ちゃんは手に長い紐を持っていて、網戸にしがみ付いているチンパンジーの首輪に繋がっていた。


お散歩……?

あんな赤ちゃんが?と思っていたら


「ちょっと! いつまでそうしてんのよ!」


まだ言葉も話せなさそうな赤ちゃんが突然叫んだ。

それも見た目に反した口調で……。


チンパンジーはバタバタと赤ちゃんの方へ戻ると、そのまま止まらずに走っていこうとした。

それを見た赤ちゃんが手に持っていた紐をグイっと引っ張る。

また見た目に反して腕力も凄いのか、チンパンジーは勢いよく赤ちゃんの後ろの方へ引き戻された。


「チンパンジーの分際で……アタシより先に行こうとするなんてどういうことよ!」


またとんでもない罵声をチンパンジーに浴びせると、ズルズルとチンパンジーを引きずりながら、物凄いスピードで三輪車を漕いで右端へ消えていった。


突然の出来事に驚きながら、ふと後ろが気になって振り返ると、さっきの大きなお屋敷の中に戻っていた。


前を見ると小さい方の双子の女の子が一人で立っていた。


「あのお姉さん達は?」と聞くと


「あの人達は大人になった私達。未来を見せたって何にも意味が無いのよって言ったら消えちゃった」と言って可愛く首を傾げた。


女の子は続けて

「あの大人気ない赤ちゃんとお猿さんにはキャンディの欠片をあげておいたから、もう大丈夫」と言いながら手に持っていた小さな缶の箱を〝カラカラ〟と鳴らして見せてくれた。


ブワっと風が吹いてお屋敷のカーテンが舞ったと思ったら、いつの間にか我が家のベランダに立っていた。

いつもベランダの窓際で寝ている愛猫チップとミッキーの背中が見えた。

トントン軽く窓を叩いたら、なぜかナスまでいる。

ナスは姉の家の猫。


「その内の一匹は偽もんだぁ」


また声がして振り返ると、同じ場所にまだ座っていた名俳優さん。

アタシは何も疑わずナスだと思った。

窓を開けて捕まえると、ナスの姿をした猫がグニャリと姿を崩してチップになった。

最初にいたチップは姿を変えながら、アタシの横を素早くすり抜けると名俳優さんの肩の上に乗った。

よく見ると、それは赤ちゃんの三輪車のカゴに乗っていた小猿だった。


「ハァーハッハッ!」と大声で笑う名俳優さん。


「何でずっとここに居るんですか?」


気になって聞いてみると、名俳優さんはどこかを見つめながら答えた。


「キミの大切な猫君が、あの木のようになりたいと前から憧れていたのは知っているかね?」


名俳優さんの見つめる先には、神社公園にある大木があった。

大切な猫とはなぜかチップのことだと思った。

神社の大木が見える出窓に座って外を眺めるのがチップの日課だったから。


「私は彼の夢を叶えてあげるために、その時を待っているんだよ」と名俳優さんは笑った。


『その時』とは、きっとチップが死後の世界に行ってしまう時なんだと思った。


「その時とは、いつ頃なんですか?」


アタシは恐る恐る聞いてみた。

でも、名俳優さんが言おうとした瞬間、目が覚めてしまった。


色んな夢を一気に見たせいか、何だか凄く疲れてしまった。

目が覚めた後は暫く放心状態だったけど、チップは凄い人とお友達なんだな……と少し安心した。






そんな夢でした。

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