39.【未来ビル:メガネ男子】
ある日の夢は大草原から始まった。
振り返ればカラクリ屋敷が見える。
そっちには行かずにただひたすら歩いていたら、見上げるほど高い真っ白な壁が現れた。
白いコンクリートのような壁は何かを囲うように円く立っている。
壁に沿って少し歩いていくと壁が途切れている所があった。
そこから中に入ってみると、壁の内側には窓ばかりある長方形の高層ビルが幾つも並んでいた。
みんな高さが微妙に違う。
見渡していたら突然、猛烈にお手洗いに行きたくなった。
ビルのどこかにあるかもしれない……。
そう思ってビルに近づくと出入り口らしき扉が全く見当たらない。
誰かいないか窓を叩いてみたけど、音が響かない。
白いビルの壁を触ってみると、モコモコの紙粘土みたいに軽そうな素材でできていた。
どうやって中に入るんだろ?
何か特別なことをしないと現れない扉でもあるのかな。
そう思った途端、単純なアタシの頭の中でこのビルは、【未来ビル】という名前になっていた。
振り返ると、壁と同じ素材で出来た地面が我が家の方までずっと続いていた。
夕日に染まった我が家と六丁目が見える。
綺麗だけど、トイレに行きたい……。
家だったらトイレあるよね?
そうじゃなきゃ困ると思ったアタシは、我が家のある方へ早歩きで向かった。
けれど、歩けど……歩けど……辿り着かない。
辿り着かないというよりも進んでいないような感覚。
こんなんじゃカラクリ屋敷の方が近いかもしれない。
振り返ってみると未来ビルが遥か後方にある……。
その更に先のカラクリ屋敷なんて豆粒みたいだった。
なんでよ。
戻ることも出来ないじゃん……もうー!
子供のようにモジモジしていたら――
「ねぇ、辿り着けないの?」
いきなり声がした。
さっき辺りを見渡した時は人なんていなかった。
ビックリして声のする方を見ると、数メートル横に男の人が立っていた。
靴も服も全身黒ずくめのメガネ男子だった。
顔を半分隠すように、黒いマフラーのような物をグルグルと巻いている。
「ちょっとお手洗いに行きたくて……でも、進むことも戻ることもできなくて」
恥じらいとか気にしている余裕もなくて、現状を話してしまった。
「それは困ったね。じゃあ、僕が一緒に行ってあげるよ」
メガネ男子はゆっくりと近づいてきた。
ナチュラルにアタシの手を取って、足音を響かせながら我が家の方へ進んでいく。
メガネ男子の左手中指には黒い石のついた指輪があった。
握る指先は何だか少し冷たい。
トイレが限界の時に冷たいのは響くね。と思いつつ、
黒い指輪って……もしかして黒羽根さん?とも思った。
メガネ男子の手を見つめながら考えているうちに、気がついたら目の前に我が家があった。
「ほら、辿り着いたよ。もう大丈夫だね」
アタシの顔を覗き込むメガネ男子。
メガネのレンズが夕日で光って顔がよく見えなかった。
でも、凄く安心してそのままスゥーッと目が覚めた。
もしかして黒羽根さんだったのかなぁ……とまた思い返す。
でも、似ているけど黒羽根さんより若い印象だった。
ボーっと考えていたら、激しくお手洗いに行きたくなって慌てて起きた。
もし夢の中で済ましていたら……
考えるだけで恐ろしくなる。
そんな夢でした。