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18.【青い廃墟ビル】と【白い布に包まれた家】

前回の17.【XXロード : 天使と悪魔】で遭遇した殺人鬼から逃げるために、アタシは迷路街にある住宅の屋根を忍者のように跳んでいた。

その時に、ここは迷路街なんだと思わされる住宅を見掛けた。


それは【青い廃墟ビル】と【白い布に包まれた家】


二つともアタシが幼い時の夢に出てきた建物。

前にも違う夢で、この二つの建物のの前を通って眺めたことがある。

本当に昔の夢だから、うろ覚えも何も全く覚えていなかった。

それなのに、数軒離れた屋根から、並んだ二つを見つけた時、昔に見た夢の映像がまた頭に浮かんだ。


青い廃墟ビルは、商業ビル地帯の中にありそうな雑居ビル。

迷路街の住宅ばかり建っている場所に、なぜか存在している。



昔見た夢の始まりは、ビルの中に立っていた。


立っていた場所は入り口のすぐ近く。

入り口のガラス扉は粉々に割れて、辺りにガラスが散らばっていた。


挿絵(By みてみん)


誰にも使われていない廃墟ビルの中は、昼間でも薄暗くて不気味だった。

入り口のすぐ左側には、受け付けだと思われる小さなL字型のカウンター。

カウンターの中や外には、細長いロッカーが乱雑に並んでいた。

奥へ続いている廊下にも、異常な数のロッカーと砕けたコンクリートや書類のような紙くずなどがあちらこちらに落ちていた。


中の様子を照らし出すのは、入り口から入る外の明かりと、壁際のロッカーの隙間から漏れている窓からの光だけ。

正面の廊下には、山積みのロッカーと一緒にソファーや机なども無造作に積まれていた。


そんな廊下を少し進んだ時だった。

奥から奇妙な音が聴こえる。

積まれたソファーに近づいて奥を覗いてみると、廊下の突き当たりに扉が見えた。

その扉の前で、何かが小刻みに動いている。

よく見てみると、それは小さなシンバルを持ったサルのオモチャだった。

全身の毛は黄色く、赤いトンガリ帽子を被り、シンバルに合わせて大きな歯をカチカチと鳴らす。

今思えば、【黄色いサル】に出てきたサルに凄く似ていた気がする。


幼かったアタシは、好奇心のままにサルのいる奥を目指した。

ソファーを乗り越え、机の下を潜り……

ロッカーの間を突き進んでいくと、扉の前に辿り着いた。

でも、オモチャのサルはいなかった。

サルのいた場所に座っていたのは、両腕を上げた古いフランス人形。



近づいてフランス人形を見ていると――

さっきのサルのオモチャの音が、今度は扉の中から聴こえてくる。

アタシはフランス人形を横目に扉を開けようとした。

でも、鍵が掛かっているのか開かない。

諦めて戻ろうと一歩後ろに下がった瞬間、音も無くフランス人形がゆっくりと横に倒れた……と同時に扉の方から何か音がした。

フランス人形の両腕は扉を指差しているように見える。

そっと近づき扉を押してみると、すんなりと開いてしまった。


扉の内側には青みがかった薄暗い大部屋が一つ。

この部屋にもロッカーがたくさん置かれていたけれど、ロッカーよりも目を引いたモノがあった。

それは角張ったダクトのような、細長い鉄製の何か。

頭上ではなく、部屋の床いっぱいにクネクネと広がっていた。


まるで迷路のような部屋を見渡していると、またサルのオモチャの音が細長い物の中から聴こえる。

扉のすぐ横にあった穴から中に入れそうだった。


挿絵(By みてみん)


入ってみたいけれど、中が真っ暗だったらどうする……。


そんな不安が頭をよぎる。

恐る恐る覗いてみると、途中途中に穴が開いているのか、中は思っていたほど真っ暗ではなかった。


これなら大丈夫。


そう思った途端にアタシの不安は薄れ、サルを見つけることが宝探しのように思えてワクワクしていたと思う。

中に入ってみると、身動きが取れないほど狭くはないけれど、四つん這いにならないと進み難い高さではあった。

少し湿っぽくて、床に触れる手の平や膝がベタベタとして嫌な感じがする。

それでもサルを探すのに頭がいっぱいだった。


少し進むと穴だと思っていた場所に到着。

切り抜かれた鉄板部分に、無理矢理縫い付けられたような太い網があった。

そこから部屋の光が入っていた。

その網は数メートルおきに見える。


継ぎ接ぎだらけのデコボコな世界で、手招きするように響き続ける音。

それと一緒に、細長い物の上を歩くような……

カンカン軽い音が聴こえてきた。

その音は、アタシを追いかけてくるかのように、後ろからゆっくりと迫って来る。

目の前を見ると、真っ直ぐと横に伸びた二つの分かれ道があった。

焦ったアタシは、近くの横道を曲がったけれど、先は網があって行き止まり。


網の外に部屋が見えて止まった瞬間、何かが覗くように顔を出した。

よく見ると、さっき扉の前にいたフランス人形だった。ダラリと両腕を出したかと思うと、小さな両手で網を握りしめた。

それだけでも怖いのに、フランス人形は握りしめた網を激しく揺さぶり始めた。

無表情で体を動かし、髪を振り乱すフランス人形。

ガシャンガシャンと部屋中に響き渡る音。

あの不気味さは、今でも忘れられない。


目の前の出来事に驚いたアタシは、天井に頭をぶつけながら後ずさった。

急いで向きを変えて真っ直ぐ進もうとしたら……

また上を歩くような音が聴こえてくる。

さっきは後ろから聴こえたのに、今度は前から。

まるで楽しそうにスキップしているみたいだった。


怖くなって、後ろ向きで来た道を戻ると――

ガシャンガシャンと網を揺さぶる音が間近からした。

横を見ると、途中途中にあった他の網の外にフランス人形がいた。

焦ったアタシは、前から来る足音を無視して通過!

勢い良く進んだ先にも、フランス人形が立っていた。


〝シャン……シャン……〟


〝カン……カン……〟


〝ガシャン!! ガシャン!!〟


アタシをからかっているかのように、あちらこちらから音がする。

アタシはパニックになって、フランス人形のいる網を負けないぐらい思いっきり蹴り続けた。


何回ぐらい蹴っただろうか……。

フランス人形がしがみ付く網は徐々に歪んで、バコン!と間抜けな音を立てて勢い良く吹っ飛んだ。

網の無くなった隙間から顔を出してみると、その先は外に繋がっていた。


挿絵(By みてみん)


とにかく外に出ようと、這い蹲るように上半身を乗り出した瞬間、目が覚めた。


起きてすぐに「フランス人形の怖い夢を見た」と母に話したら、フランス人形が欲しいと勘違いされて焦ったのを思い出します。



もう一つ。


白い布に包まれた家。


挿絵(By みてみん)


そこは簡単に言えば壁の無い家だった。

骨組みだけの家を大きな白い布で下から包み込んで、ゆるく縛ってあるような家。

布の中は木造の骨組みと床があって、普通の家と同じように家具などが各部屋に設置されていた。

階段もあったけれど二階部分は無くて、天井がとても高かった。


その家には優しそうなお爺さんとお婆さんが住んでいた。

二人ともニコニコ笑っていて、ソファーに座りながらお話をしてくれたけれど……

どんなお話だったかは思い出せない。


お話を聞いている間、家を包み込む白い布はバサバサと風に吹かれていた。

一度も静まることはなく、まるで風船のように膨らんだり萎んだりしながら揺れていて、布が膨れる度に隙間から外がチラチラと見える。

風の音も布の膨らむ様子も、強風に吹かれているぐらい激しく思えるのに、家の中は全く風を感じない。

夕方の時間帯なのだろうか。

白い布も家の中もキラキラしたオレンジ色に染まっていた。


どう夢が終わったのか思い出せないけれど、とても穏やかな夢だった。



青い廃墟ビルと白い布に包まれた家


どちらの夢も最初は建物の中にいたから、外観はわからなかった。

でも、別の夢で並ぶ二つの建物を眺めた時、前に見た夢と同じ建物だと確信した。


暗い曇り空の下。

赤いサビの目立つ青い壁のビルを見上げると、ヒビの入った窓があった。

その窓にへばり付くように、二体のフランス人形がこちらを見下ろしていた。


ここ入ったら、あの人形達のオモチャにされる……。


そう自分に言い聞かせながら目を逸らすと、その先に風に膨らむ白い布が見えた。

白い布で緩やかに包まれた家。

屋根の三角部分には大きな結び目があった。

布が膨らむと隙間から家の中が見えたけれど、あのお爺さんとお婆さんが家の中にいたのかは確認できなかった。

辺りは曇り空なのに、白い布に包まれた家のある空間だけはオレンジ色に輝いていた。

夕暮れの六丁目と似ていて不思議な雰囲気だった。


この時の夢は、そのまま違う場所に行って目覚めたような気がする。

この夢を見て、自分が見る夢と夢はどこか繋がっていて、アッチノ世界を強く意識するようになったと思う。


それにしても、子供の頃から追いかけられる夢ばっかり見ている。

これも不思議。


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