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106.【侵入者:猫達と危険なキグルミ】


ある日の夢は……


目の前に兎仮面が立っていた。

手にたくさんのバッグや袋を持っている。


「これを持って行きなよ」


兎仮面が話した……?


どの夢の時も兎仮面はいつも無言だった。

だから、声を聞いたのは今回が初めてだった。

兎仮面は無地の白いショルダーバッグをアタシの肩にかけてきた。


「もっと必要だから。もっと持っていかなきゃ……」


両手に持った大きな袋をアタシに差し出すように手を近づけてきた。

いつもと違う兎仮面。

なんだかアタシは怖くなって、思わず走って逃げてしまった。


逃げている途中、急にマラソン大会のような駅伝大会のような何かを応援しきゃいけない気がした。

そう思った途端に、目の前にいかにもマラソン選手みたいな格好をした男の人が現れた。

でも、なぜかその人は赤いロンパースを着た1歳ぐらいの女の子の赤ちゃんを連れていて、何も言わずにアタシに赤ちゃんを抱っこさせた。


「やっぱり子供は可愛いよねぇ。この子、俺の子じゃないけど」


笑いながら話す男の人の背後に人集りができていた。

アタシは気になって男の人に女の子を返すと、人集りの方へ行ってみた。

応援しに来た人達なのか、道の両端に並ぶように集まっていた。

アタシも混ざって何かを待っていたら、道の反対側に高校時代の友達が立っていた。

濃いめのギャルだった友達。


目の前にいる彼女は髪型とか服装が主婦っぽいというか、大人の女性な姿をしていて「あの子もそんな年齢になったんだな……」と思った。


大勢立っている人をボーっと眺めていたら、その中に警察官の格好をした人が数人ウロウロしているのに気がついた。

気がついた瞬間、104.【侵入者:人型ロボットと感染】の夢が浮かんだ。


またあんなことになったら怖い……。


そう思って、近くにあった横道に入ってみた。

道の右側は木や雑草が鬱蒼と生い茂っている。


前はこんなんじゃなかったのにな……。


そんなことを思いつつ、その道を知っているような知らないような変な感じがして立ち止まった。


雑草の中から何かが歩いているような物音が聴こえる。

雑草がある辺りは暗くてよく見えない。

静かにジーッと見ていると、警察官の格好をした男の人が歩いているのが見えた。

その男の人が進む先には、今にも倒れそうな木造の小さな家が建っていた。

『警察署』と書かれたネオン看板が扉の上でチカチカとピンク色に光っている。


家の周りにはパイプ椅子やベンチが置いてあって、警察官の格好をした男女数人が気怠そうに座っていた。

よく見ると、みんな高校生ぐらいの若い子に見える。

まるで警察官のコスプレをした学生みたいだった。


その光景を見て、「104.【侵入者:人型ロボットと感染】の夢で感染した警察官に占領されたのかもしれない……」と思った。

同時に「こっちの世界にもあんな場所ができたんだ。最近、物騒だったから よかった」と思う自分がいた。

なんというか、同時に二つの感情が出てきたような……。

不思議な感覚だった。


そのまままっすぐ歩いて行くと、道の先が池みたいになっていて進めなくなっていた。


池の先には枯れた雑草と木があって、その奥に道が見える。

アタシは奥へ進みたい。


「アタシがこの池の中に飛び込んだら、あの警察官達が驚いて何か違う変化が起こるかもしれない……」


「この池に飛び込んだら、いくら夢でも苦しくなったり最悪死ぬかもしれない。そんな時にあの警察官達に捕まったらどうしよう……」


アッチノ世界のアタシと現実の世界のアタシの感情なんだろうか。

また同時に違うことを思う自分がいた。

飛び込みたいと思ったアタシの感情が勝ったのか、どうするかじっくり考える暇もなく水の中に飛び込んでしまった。


冷たい水が顔に触れて頭や髪の毛を濡らしていく。

それを感じた瞬間、アタシは池から這い上がった。

同時に視界の端っこに二人の警察官に引き上げられている自分が見えたような気がした。

慌てて後ろを振り返ってみても警察官達はいなかった。

もちろん引き上げられている自分も。

でも、引き上げられている感覚がハッキリあった。

まるで自分が分裂したみたいだった。


飛び込んだ池は湖のように大きくなっていて、さっき歩いてきた道も無くなっていた。

足元には、さっき見た枯れている雑草があった。

だから、同じ場所のはず。

でも、枯れた木の奥にあった道は無くなっていて、赤い何かで覆われた建物が建っていた。

その何かは、半透明の赤い膜みたいだった。


建物の内側には、同じ赤い膜に覆われた小さいビニールハウスのような建物があって、外側と内側の膜の間が通路のようになっていた。

例えるなら、ブルーシートに覆われた建設途中の家と言ったらなんとなく伝わるだろうか。


挿絵(By みてみん)


赤い通路は奥へとL字に続いている。

後ろは湖。

戻れないのなら前に進むしかない。

ゆっくり歩き始めると、外側の膜の下から猫が出てきた。

よく見ると、姉の家にいるナス(猫の名前)だった。


ナスが何でこんな所にいるの?


ナスを抱きかかえて足元を見渡してみると、他にも猫があちらこちらにたくさんいた。

黒い猫がアタシの足元を走り抜けて行ったと思ったら、追いかけるようにナスがアタシの腕から飛び降りた。

凄く太っているから疲れたのか、ナスは建物の入り口の辺りですぐ横になってしまった。

気になってナスの側に行こうとしたら、何かが脚に触れた。

下を見ると、猫がアタシの脚にスリスリしている。

よく顔を見たら、我が家の猫のチップと姉の家のミルミルだった。

二匹とも空に旅立ってしまって、もういない。


夢だからか、ちょっと太ってる。

2匹とも可愛い……。


なんて思っていたら――

言葉ではなんとも表現できない、豚の鳴き声のような何かの大きな叫び声が聴こえた。

内側の膜の奥に声の主がいるのか、大きな黒い物体が動いているのがわかる。

凄く大きい。

動物だったなら、巨大な熊のような大きさだと思う。

それを見た瞬間、64.【侵入者:マキナさんと茶色い塊:夢が残す目印】の夢で遭遇した茶色い塊が浮かんだ。





あの茶色い塊だったら勝てない……。


そう思ったアタシは、慌ててチップとミルミルを両腕に抱きかかえた。

通路を曲がった奥には出口があるのか、眩しいぐらい光っている。

二匹を抱えたまま行こうとしたら、一番奥に光りに照らされた巨大な何かが立っていた。

茶色い塊だと思ったけど、よく見るとウサギの被り物をした巨大な何かだった。

兎仮面は男の人がウサギの仮面を被ったような姿だけど、通路の先にいる何かはキグルミみたいな姿。

ゾンビのようなウサギの被り物をしている。

でも、可愛らしさは全く無い。

茶色い塊もだけど、99.【侵入者:人喰い恐竜ブロック】の夢に出てきた恐竜みたいに関わったら危ない気がした。





見つからないようにアタシは少しだけ入口の方へ戻った。

まだナスが同じ場所で寝ている。


早くここから逃げなきゃ。

でも、ナスもいる。

どうやって連れて行ったら……。



抱き抱えている猫達を見ると、兎仮面が肩にかけてきたショルダーバッグが目に入った。

少し無理矢理だけど、アタシはチップとミルミルをショルダーバッグの中に入れてみた。

そのままナスも連れて行こうと振り向くと、内側の膜の側にキグルミがいるのか黒い影が見える。

今にも膜を捲って出てきそうだった。


ナスがいる方の道は湖。

進めるのは通路の先だけ。

出口の方を覗いてみると、最初に見た着ぐるみがいなくなっていた。

光の先がどうなっているのかわからない。

でも、進むしか道は無くて、アタシは走って外に出てみた。


外に出てみると、周りは田圃道みたいになっていた。

アッチノ世界にある小さい家や森林の近くに雰囲気が似ていると思った。


挿絵(By みてみん)


すぐ目の前には小さな丸いテーブルとイスが二つ向かい合うように置いてあって、なぜか姉が座っていた。

――と思ったら、64.【侵入者:マキナさんと茶色い塊:夢が残す目印】の夢で一緒に戦ったお姉さんに変わった。


「Aちゃん! こっちこっち!」


とにかく落ち着きたくて、アタシは小走りでイスに座った。

テーブルの上にはコーヒーのような飲み物が置いてあった。


「最近、変なやつらが住み着いちゃったみたいでさ。パン屋なんか始めてこっちの住民と打ち解けようとしてるっぽいんだけど、なんか怪しいんだよね」


そう言いながらお姉さんはアタシの背後を見つめた。

後ろを見てみると、アタシが出てきた出口の横に勝手口のような扉があった。

そのまま見ていたら、田圃道の方から2匹の黒っぽい猫がスタスタと歩いてきた。

家に帰ってきたみたいに勝手口のような扉を前足でカリカリと引っ掻きはじめたと思ったら、ゆっくりと扉が開いて、中からキグルミみたいなやつが顔を出した。

頭や体はキグルミみたいな形と大きさだけど、肌は象みたいな質感っぽくて驚いた。

近くで見ると生々しくて怖さが増していく。


何かを遮断しているのか、透明のビニールのような物で出入口を塞いでいる。


その透明のビニールをキグルミみたいなやつがほんの少し捲ると、猫達が中へと入っていく。

2匹が入った瞬間、猫達の姿が人間の子供に変わってしまった。


「なんで……」


「ねっ。さっきから猫達がどんどん入っていって、今みたいに変わっちゃうの。あいつらアタシ達のことは客だと思っているのか近づいても無反応だから、あの中がどうなってるのか覗けるよ」


そう言われて、アタシは恐る恐る中を覗きに行ってみた。

出入口のすぐ側にいたキグルミが一瞬アタシの方を見たけど、すぐに子供達をどこかに連れて行ってしまった。


パン屋だからか、中は料理場のようになっていて、それぞれ違う被り物をした5〜6体ぐらいのキグルミが豚みたいな声で会話をしながら何か作業をしていた。

さっき横を通ってきた赤い膜っぽい物が調理場の周りに見える。


ふと、調理台の上に置いてある物が気になった。

よく見てみると、頭蓋骨のような形をしていて綺麗に並べられていた。

どれも真っ白で偽物みたいに見えるけど……。

アタシは一気に怖くなって、後退りながらテーブルへ戻った。


「あの骨って……まさかあの子達がパンの材料とかじゃないよね?」


前を見ると、お姉さんではなく姉に変わっていた。


「アタシもそれは考えたくないけど……。ねぇ、そのバッグの中って……」


ショルダーバッグの中に入っているチップとミルミルがモゾモゾと動いていた。

留め具が無いバッグだったから、フタをする部分が二匹の重みで斜めにズレて頭が見えていた。


「ここに来る途中でチップとミルミルがいたから慌ててバッグに入れてきたの。でも、まだナスも残ってるし、ミッキーとミニ(飼っている他の猫達)もいるかもしれない」


「そうなの? 今、あいつらがこっちを見てる……」


少しでも見えないようにアタシは右手でショルダーバッグのフタの部分を強く掴んだ。


「他の猫達はどうやって……」


頭を抱える姉を見ながら、なぜかもう一匹小さい猫も助けないといけない気がした。


「全部であと4匹。夜になったら、あいつらいなくならないかな? その間に……」

そう思うのと同時に

「夜になってもいるに決まってんじゃん。全滅するより、もう他の猫は諦めたほうがいい……」と、また違う感情が出てきた。

まるで自分が二人いるみたいだった。


「とりあえず違う場所に移動してから作戦を考えよう。扉が閉まったら行くよ」


そう言って姉はショルダーバッグを見つめた。


何分経ったかわからない。

バタンッと扉の閉まる音が聴こえた瞬間、姉もアタシも椅子から立ち上がった。

騒がず、走らず、普通に帰るかのように田圃道の方へ早歩きで進んだ。


「捕まっても、もしかしたら兎仮面が助けてくれるかもしれない……」


「いやいや。兎の仮面をつけているんだから、あいつらの仲間でしょ」


同時に違うことが浮かぶ感覚が気持ち悪くて仕方がない。

振り払うように頭を振って歩いていたら、巨大なバイクに乗ったキグルミとすれ違った。

ガスマスクみたいな被り物をしていた。


「配達までやってるんだ……」


そんなことを思いながら歩いている途中で目が覚めてしまった。


兎仮面は猫達を入れるために、もっとバッグや袋が必要だと言っていたのかもしれない。


あの時、袋を持って行っていたらナスも連れて行けたのに……と夢だけど凄く後悔した。

猫達も気になるし、またあいつらに遭遇したら怖い。




そんな嫌な夢でした。

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