第8章 硫黄島の亡霊 (前編)
第一節 出撃前夜
ホワイトホース関東本部の格納庫。
夜明け前の静寂を、整備員たちの足音と機械音が満たしていた。
滑走路に並ぶのは、新型戦闘機〈ヴァルキリー零式〉。
その前で、レイ・ナツキ・シュンの3人が出撃準備を整えていた。
司令長・東堂カズマが姿を現す。
「目的地は硫黄島。かつて鬼と人間の共存実験が行われた島だ。
戦後に研究施設が封鎖されたが、今、そこから鬼気反応が検出された。」
レン教官が補足するように口を開く。
「硫黄島には、旧ホワイトホース研究所の残骸がある。
当時、鬼化兵器や共存用の鬼遺伝子を研究していたらしい。
米軍基地も併設されているが、現在は無人。……だが今は違う。」
ナツキが小さく息を呑む。
「じゃあ、あの反応は――」
「ブラックタイガーが“何か”を掘り起こしてる可能性が高い。」
レンの声は低く、重かった。
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第二節 贈り物
レンはポケットから小さなケースを取り出した。
「出発前に、これを渡しておく。」
ケースの中には、銀と黒に輝く腕時計型のデバイスが3つ。
「新装備〈リンクギア・モデル01〉だ。
見た目はスマートウォッチだが、鬼気・生命反応・通信状況を共有できる。
3人のうち誰かが倒れても、互いの生命波を感知できるようにしてある。」
レイが腕に装着すると、金属が生き物のように手首に馴染んだ。
「まるで脈を打ってるみたいだ……」
「それもそのはず。素材は“鬼神経金属”。
……お前たち3人の波長にしか反応しない。」
シュンが苦笑する。
「相変わらず、すげぇもの作りますね。」
レンは笑わずに言った。
「すげぇだろ。でも、通信が途切れたら……それは“帰れねぇ”って意味だ。覚えとけ。」
3人は黙って頷いた。
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第三節 出撃命令
司令室のスクリーンに、硫黄島の衛星映像が映し出される。
総裁が歩み出て、3人を見据えた。
「任務内容――硫黄島における反応源の調査及び研究データの回収。
戦闘は極力避け、敵の目的を特定すること。
最優先は“帰還”だ。いいな?」
「了解。」
レイの声は力強く響いた。
総裁は静かに言葉を続ける。
「この任務は、単なる調査ではない。
硫黄島には、鬼と人の“始まり”が眠っている。
そして、その“境界”を知る者が――おそらく、まだ生きている。」
3人の表情が引き締まる。
「――行け。神崎レイ、ナツキ・シュン。
お前たちが、ホワイトホースの未来を照らす光だ。」
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第四節 旅立ち
格納庫のゲートが開き、朝焼けが差し込む。
ヴァルキリー零式のコックピットに乗り込み、3人は互いに目を合わせた。
「いよいよだな。」シュンが笑う。
「初任務から、いきなり南の島ってのも悪くないね。」ナツキが冗談めかす。
レイは静かに呟く。
「硫黄島……そこに何が眠っているのか、確かめよう。」
機体が浮上し、轟音とともに空へ。
ホワイトホース本部が遠ざかる中、
ゲンは格納庫の片隅で腕を組み、3人の背中を見送った。
「気をつけろ……レイ、お前の“境界”が試されるのは、これからだ。」
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第五節 不穏な報告
出撃から数分後。
司令室のモニターに別ラインの通信が割り込む。
「こちら監視班! 羽田空港から強烈な鬼気反応を検出!」
「レベルは……最大値です! レベルMAX!」
司令室が一斉にざわめく。
総裁が険しい顔で振り返る。
「反応源の特定は!?」
「まだ不明! ただし、反応波形が……“神崎レイ”と一致――!」
「なに……!?」
レンの目が見開かれる。
「まさか……封印が、連動しているのか……?」
総裁は静かに呟いた。
「硫黄島と羽田……二つの“境界”が同時に動き出した――。」
警報が鳴り響く中、
レイたちの戦闘機は、すでに雲の彼方へと消えていた。




