第6章 血の絆
第一節 奪われた者たち
黒牙団との激闘から三日後。
ホワイトホース関東支部の空気は、重苦しい沈黙に包まれていた。
総司令室では、総裁・司令長・主要幹部が揃い、緊急会議が始まる。
モニターには監視記録映像――
そこには、ブラックタイガーの特殊部隊に連れ去られる二人の姿が映っていた。
「被害者は技術班の一名、そして……」
司令官が言葉を詰まらせる。
「――もう一人は、司令長の、東堂ミサです。」
「……ミサを……奪われたのか。」
司令長の拳が机を砕くように震えた。
「奴らの狙いは、我々が開発していた戦闘機の制御コードだ。」
総裁は静かに息を吸い込み、レイを見据える。
「神崎レイ、君に任務を託す。
――東堂ミサの救出。そして、ブラックタイガー第七隊の動向の調査だ。」
レイの表情が一瞬で強張る。
「第七隊……? まさか、それって――」
「そうだ。隊長は、お前の姉、神崎アヤ。」
総裁の言葉に、室内の空気が止まった。
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第二節 姉の影
その夜。出撃準備を終えたレイは、格納庫の片隅で叔父に問いかけた。
「叔父さん、姉さんが敵になった理由……教えてください。」
叔父は黙ったまま煙草に火をつけ、しばらくして口を開いた。
「アヤは、両親が堕ちたあともホワイトホースに残された。
だが、真実を知ったんだ――“両親を封印したのはホワイトホース”だとな。」
「……封印?」
「あぁ。処刑でも、行方不明でもない。
鬼の力を抑え、永遠の眠りにつかせる術。それが“封印”だ。」
レイの胸に、痛みが広がる。
「姉さんは、そんな組織を許せなかった……?」
「正義を信じてた子ほど、壊れやすいもんだ。」
レイは風を纏いながら立ち上がった。
「だったら、俺が姉さんを取り戻す。」
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第三節 潜入
深夜。
ホワイトホースの輸送艦が、山奥の廃坑上空に到達する。
「ここが、ブラックタイガー第七隊の潜伏拠点だ。」
シュンが呟き、ナツキが頷く。
「行こう、ミサを助ける。」
3人は静かに降下。
暗闇の坑道を進む中、奇妙な“鬼気”が漂っていた。
空気が重く、まるで生き物の体内にいるような圧迫感。
「……嫌な感じだね。」
ナツキの声にレイが頷く。
「これは……姉さんの血気だ。」
その瞬間、赤い警報灯が点滅した。
「侵入者確認。ホワイトホース所属――神崎レイを確認!」
声とともに現れたのは、漆黒の衣を纏う女性。
長い黒髪、紅い瞳。
静かな笑みを浮かべるその顔は、レイの記憶と重なった。
「……姉さん。」
「久しぶりね、レイ。」
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第四節 血の真実
アヤは一歩ずつレイへと近づく。
「あなたも立派になったわね。
でも、ホワイトホースの犬として生きるなんて、情けない。」
「違う! 俺は誰の命令でもなく、自分の意志で戦ってる!」
アヤの瞳が鋭く光った。
「なら、真実を教えてあげる。
――父と母は、ホワイトホースに“封印”された。まだ生きているわ。」
レイの目が見開かれる。
「……何を言ってるんだ……?」
「あなたの中の“力”は、その証。
ホワイトホースは恐れたのよ。神崎の血が、鬼を変えると。」
アヤの指が鳴り、黒い鎖がレイたちを包む。
ミサが後方で拘束されながら叫ぶ。
「レイ君! ダメ! 罠よ!」
ナツキが水刃を放ち、鎖を切断。
シュンが炎で道を開ける。
「レイ、今だ!」
「姉さん、俺は必ず真実をこの目で見る!」
レイが風の力を解き放つと、坑道全体が吹き飛ぶ。
アヤはその光の中で静かに微笑んだ。
「それでいい。いつか――“境界”で会いましょう。」
そして姿を消した。
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第五節 帰還
崩れゆく坑道を抜け、レイたちは辛うじて脱出に成功する。
ミサを抱えたナツキの腕の中で、彼女はかすかに意識を取り戻した。
「ありがとう……でも、もう一人……一緒に捕まってた子が……」
「もう一人?」
ミサは弱々しく頷いた。
「ええ……あの子は、ブラックタイガーの本部に……送られたの。」
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第六節 本部にて
数時間後、ホワイトホース本部・医療棟。
ミサは父・司令長カズマと涙の再会を果たしていた。
「ミサ……無事でよかった……!」
「お父さん……怖かったけど、みんなが助けてくれたの……」
彼女の報告によって、ブラックタイガーが「人間の鬼化実験」を再開していることが判明する。
同時に、もう一人の被害者が“実験対象”として本部へ運ばれた可能性も。
会議室で総裁が立ち上がる。
「この情報は重大だ。今後の行動計画を――」
そう言いかけた瞬間だった。
「……レイ?」
ナツキの声に全員が振り向く。
レイが静かに席を立とうとしたが、視界が歪んだ。
耳鳴り、呼吸の乱れ、体を流れる異常な風の反応。
「ぐ……っ……!」
次の瞬間、
神崎レイはその場で崩れ落ちた。
「レイ!」
ナツキとシュンが駆け寄る中、
総裁は呆然と呟いた。
「まさか……“封印の反動”が、彼の中で……」
風が吹き抜け、
会議室の窓が静かに軋んだ。
――新たな“境界”が、レイの中で動き出していた。




