第20章・第三部 闇の覚醒
黒狼会との決戦を目前に控えたその夜――
ホワイトホース本部の医療棟に、再び緊急アラートが鳴り響いた。
「神崎レイが……倒れました!」
訓練エリアでの調整中、突然レイの身体が強烈な光を放ち、
そのまま意識を失ったという報告が入る。
ナツキとシュンが駆けつけた時、
医療ベッドの上のレイは、まるで別人のような気配を放っていた。
その腕に走る黒い紋様。
血管の奥で何かが蠢くように、闇の光が流れている。
「……レイ……?」
「……熱い……身体の中で……何かが……!」
ナツキの声に、レイはうめきながら答える。
その瞳が一瞬だけ赤く光った。
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医療室のカーテンを開けて入ってきたのは、
教官であり、元潜入班のミズハだった。
「……やはり、そういうことだったのね。」
彼女は医療班の資料を確認し、ナツキとシュンに説明を始めた。
「レイの血液サンプルを解析した結果――
体内に“闇の血気”が微量に混じっていることが分かったわ。」
「闇の血気?」
「普通の鬼には存在しない、“禁忌”の力よ。
ブラックタイガーの中枢でのみ扱われる特殊なエネルギー。」
ナツキが顔を強張らせる。
「でも、なんでレイがそんなものを……」
ミズハは少し目を伏せ、静かに答えた。
「――幼い頃、レイが母親と離れる前に、
母・神崎ユキが“護り”として少量の闇の力を注いだの。
本来は暴走を防ぐための“封印”だったはず……。」
「それが今……覚醒しようとしている。」
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医療機器の数値が乱れ、レイの呼吸が荒くなる。
血気が暴れ、体内で光と闇がせめぎ合っていた。
「だめ……! このままじゃレイが!」
「安定剤を! 血気を抑制して!」
ミズハが緊急対応を指示し、
ナツキがレイの手を強く握った。
「レイ、負けないで……!
あなたは闇なんかに飲まれない!」
しばらくして、光が弱まり、レイの表情が穏やかになる。
波打っていた数値も徐々に安定した。
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しばらくして、ミズハが静かに言った。
「……今は一時的に落ち着いているけど、
まだ完全には抑えきれていないわ。
闇の力は、彼の血の奥深くに刻まれている。」
「休ませて。回復を待つしかない。」
ナツキは黙ってうなずき、レイの額の汗を拭いた。
シュンも腕を組み、歯を食いしばる。
「……闇の力か。皮肉だな。
その力が、敵と同じものだなんて。」
ミズハは優しく言葉を添えた。
「それでも――レイは“光”を選んだ子よ。
闇を持って生まれても、どこへ向かうかは自分次第。」
⸻
深夜。
医療棟の窓から月光が差し込み、
レイの手の甲に刻まれた黒い紋様が、静かに消えていった。
眠るレイの胸の奥では、
封印された“闇の力”が、再び静寂の中へ沈んでいった。
しかし――
そのわずかな光の裏で、
遠く西東京の空に、新たな血気の波が立ち上がっていた。




