第19章・第二部 紅牙の遺跡
鹿児島湾沖――
その海底には、戦時中に封印された“何か”が眠っていた。
朱牙派の動きがそこを中心に広がっていると知ったゼロウィングは、ついに出撃命令を受ける。
上空艦艇〈ソラノア〉から見下ろす海は、静まり返っていた。
だが、レーダー上には異常な血気反応が広がっている。
「……まるで、海そのものが生きているみたいだな。」
「レイ、油断しないで。ここは“朱牙の巣”よ。」
ナツキの言葉にレイは頷き、装備を確認する。
ミズハ教官の指導で改良されたスーツが、光を帯びて脈動した。
三人はそれぞれのスマートウォッチを同期させ、エネルギー波長を合わせる。
「ゼロウィング、潜行開始!」
艦艇から海中へと放たれたカプセルが、静かに深海へと沈む。
⸻
海底に広がるのは、古代の遺跡のような空間。
壁一面に刻まれた文字と、禍々しい紋様。
そして中央に立つ巨大な黒い結晶――血気の核。
「ここが……“紅牙の遺跡”か。」
シュンが呟くと同時に、足元から何かが蠢いた。
血のような液体が形を変え、鬼たちが姿を現す。
「歓迎が派手だな。」
「行くぞ!」
三人は一斉に武装を展開。
水中戦用のスラスターが光を放ち、鬼たちを切り裂いていく。
しかし、倒しても倒しても終わらない。
まるで“生まれ続けている”ようだった。
「血気が無限に湧いてる……核を止めないと!」
レイが叫び、ナツキとシュンが援護に回る。
結晶に近づこうとしたその時――
暗闇の奥から、紅の仮面をつけた男が現れた。
「よく来たな、ホワイトホースの若き者たち。」
「お前が……朱牙派のリーダーか!」
男は笑い、仮面を外す。
そこに現れた顔――それはかつてブラックタイガーの科学主任だった橘ソウマ。
「“人と鬼の融合”こそ、真の進化だ。
神崎ユキの研究は途中だったが、私が完成させた。」
レイの目が見開く。
「母さんを……お前が!」
「彼女はまだ生きている。だが、彼女の精神は“核”の一部だ。
この遺跡の心臓と同化している。壊せば……二度と会えぬ。」
ナツキが震える声で言う。
「そんな……!」
ソウマが両手を広げ、血気を操る。
周囲の海が赤く染まり、圧倒的な力が渦を巻いた。
「お前たちにできるか?
愛する者を犠牲にしてでも、世界を救うことが。」
レイは苦悩の中で叫んだ。
「……母さんは、そんな終わり方を望まない!」
三人のエネルギー波長が一斉に共鳴する。
スマートウォッチが反応し、三機の戦闘機が上空艦艇から射出された。
「ゼロウィング、合体シークエンス起動!」
三機の機体が融合し、巨大な光の翼を持つ機体〈フェンリル・ユニオン〉が誕生する。
レイが操縦桿を握り、ナツキとシュンがそれを支える。
「いくぞ――“紅牙”を断ち切る!」
光が海底を貫き、朱牙の血気を飲み込んでいく。
ソウマが悲鳴を上げ、結晶が砕け散った。
静寂――
そして、微かにレイの通信機から声が聞こえた。
『……レイ……よく、ここまで……』
「母さん……!」
その声はやがて途切れたが、レイの中に温もりだけが残った。
⸻
海上へと浮上した三人を迎えたのは、朝日の光だった。
朱牙派の拠点は完全に沈み、血気の波も消えていた。
「……終わった、のか。」
「ああ。でも、まだ残り一つ。」
ナツキが空を見上げる。
遠く、東の空に黒い雲が渦巻いていた。
それは――最後の派閥の予兆。




