第18章・第三部 約束の夜風
影蛇派との激闘から数日後。
ゼロウィングの三人はロンドン支部を離れ、本部――関東・多摩にあるホワイトホース本拠地へと帰還した。
戦いの痕跡を背負いながらも、その表情には確かな自信と決意が宿っていた。
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到着早々、待っていたのは総裁と医療班だった。
その中に、ストレッチャーで運ばれる女性の姿。
ナツキの母――ミズハだった。
「母さん!」
「ナツキ……もう大丈夫よ。あなたたちがいてくれたから……」
ミズハは微笑みながらも、体には潜入時の傷が残っていた。
医療棟に運ばれ、専門班による治療が始まる。
総裁は安堵の表情を浮かべながら、レイたちに言葉をかけた。
「よくやってくれた、ゼロウィング。これでひとつ、影蛇派が消えた。
だが、まだ残り二つの派閥が動いている。
次は“朱牙”と“黒嶺”――いずれも、総裁直属の防衛部隊だ。」
その名を聞いた瞬間、室内の空気が一気に張り詰めた。
ブラックタイガーの最古派閥、そして最強と呼ばれる二つの部隊。
それを倒すことが、“本部決戦”への唯一の道。
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数時間後。
医療棟で治療を終えたミズハが目を覚まし、総裁と報告を交わす。
潜入中に得た情報は極めて重要だった。
「ブラックタイガーは、エネルギーの転送システムを完成させています。
各派閥はそれぞれ“供給点”を守っている。
それを断てば、本部の機能を一時的に止めることができます。」
レイは息を呑んだ。
硫黄島で見た装置、箱根で父が言っていた“エネルギー移動”――
すべてがひとつに繋がっていたのだ。
総裁は深く頷き、静かに命じた。
「よし……次はその供給点を潰す。
世界の平和は、もう一歩のところまで来ている。」
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夜。
訓練棟も静まり返った時間、レイは屋上に立っていた。
夜風が冷たく頬を撫で、遠く街の灯が瞬いている。
「……また眠れないの?」
背後から聞こえた声。振り返ると、ナツキがいた。
彼女は医療棟の帰りのようで、肩に薄い上着を羽織っていた。
「母さん、もう大丈夫って。しばらく静養すれば完治するってさ。」
「よかった……本当に。」
ふたりは並んでフェンスにもたれ、しばし無言のまま夜景を見つめた。
「ねぇ、レイ。
もしこの戦いが終わったら、どんな世界を見たい?」
「……そうだな。
鬼とか人とか、もう分けなくていい世界。
俺たちみたいな存在が、“普通”でいられる世界。」
「うん……私も、同じ。」
ナツキが微笑み、風に髪を揺らす。
月明かりが彼女の横顔を照らし、レイの胸が少しだけ熱くなった。
ふと、ナツキがレイの肩に頭を寄せる。
「怖いけど……あなたと一緒なら、乗り越えられる気がする。」
「俺も。……絶対に守るから。」
風が吹き抜ける。
その風の中で、二人の心は静かに重なり合っていた。
夜空には、一筋の流星が走った。
それはまるで、ふたりの誓いを祝福するように――




