第16章-2 霧蛇の影
第一節 誘拐現場の霧
ハイド・パークに到着したレイたちを迎えたのは、濃すぎるほどの霧だった。
視界は数メートル先までしか見えず、街灯の光さえもぼやけている。
ナツキ「……普通の霧じゃない。何か混ざってる。」
レイ「ああ、鬼気だ。幻影使いの仕業かもしれない。」
シュン「クソッ、音も何も聞こえねぇ……完全に囲まれてる感あるな。」
3人は耳に通信装置をつけ、ロンドン支部と連携をとる。
アーサーの低い声が響いた。
『こちらアーサー。君たちは霧の中心を探れ。熱源反応が二つ――恐らく誘拐された人間だ。
ただし、幻影使いがいる。気を抜くな。』
レイ「了解。行くぞ、二人とも。」
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第二節 幻影使い
霧の奥で、少女の悲鳴がかすかに響いた。
その直後、黒い影が滑るように現れる。
影の中心から現れたのは、白い仮面をつけた鬼――背に蛇のような紋が浮かんでいる。
幻影使い「……人間と鬼の混ざり物が、ここまで来るとは。」
レイ「お前が《影蛇》の幹部か。」
幻影使い「名は《フォッグ》。この霧こそ我が世界。貴様らの視界も、記憶も、全て曇らせる。」
フォッグが指を鳴らすと、霧が渦を巻き、分身のような影がいくつも現れた。
シュン「クローンだと!?」
ナツキ「違う、幻覚。でも攻撃を当てるまでは分からない……!」
レイは目を閉じ、風を感じ取る。
「……風は、嘘をつかない。」
血気術《風ノ型・散嵐》――
一瞬で広範囲に風圧を放ち、霧の中の“本体”だけを弾き飛ばす。
フォッグ「ほう……風の継承者か。噂通りだ。」
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第三節 幻影の牢獄
だがフォッグは再び指を鳴らすと、周囲の景色が一変した。
3人の視界がぐにゃりと歪み、次の瞬間、別々の場所に飛ばされる。
シュン「な、なんだこれ!?」
ナツキ「幻術空間……!?」
レイの前には、幼い頃の記憶が広がっていた。
母の笑顔、父の背中、そしてナツキと出会った中学の校舎。
フォッグの声が頭に響く。
「幻影とは、心の奥底にある“境界”だ。
貴様の心を壊せば、身体など簡単に支配できる。」
レイ「……俺の心は、そんなに柔くない。」
風が巻き起こり、幻を吹き飛ばす。
霧が晴れた瞬間、ナツキとシュンもそれぞれの幻を破って現れた。
ナツキ「やっと戻れた……!」
シュン「まったく、ロンドンの歓迎は手厳しいな!」
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第四節 ナツキの“血”
フォッグは一瞬、ナツキを見て動きを止めた。
「……その血の波動、まさか……“ミズハ”の娘か。」
ナツキ「え……?今なんて言った?」
フォッグは不気味に笑った。
「お前の母はかつて、このロンドン支部で我ら影蛇を裏切った女だ。
だが、裏切り者の血は必ず我が手で清算する。」
ナツキ「うそ……母さんが……影蛇に?」
レイ「ナツキ、惑わされるな!今は戦え!」
涙をこらえながら、ナツキが手を構えた。
血気術《水ノ型・乱流》――
水の刃が霧を切り裂き、フォッグの仮面を弾き飛ばした。
フォッグ「……なるほど。母よりも鋭い刃だ。」
彼は霧の中に姿を溶かし、撤退していった。
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第五節 残された痕跡
戦いが終わり、霧が完全に晴れる。
地面には、誘拐されていた少女たちが気絶して倒れていた。
幸い命に別状はなく、医療班がすぐに搬送する。
ナツキは震える手で、水に濡れた仮面の欠片を拾い上げた。
「母さんが……影蛇と関わってたなんて……。」
レイ「真実は、まだ半分しか見えてない。
でも、お前の母が何を守ろうとしたのか――それを確かめよう。」
アーサーからの通信が入る。
『よくやった。だが影蛇はまだ動いている。
次の拠点、ロンドン北端“キャムデン地区”で反応を確認。準備を整えろ。』
霧が完全に晴れた街の上で、
レイたちはそれぞれの決意を胸に、次なる戦場へと歩き出した。




