第14章 境界核
第一節 地下の玉座
境界核――
箱根山の地底深く、灼熱のような鬼気が渦を巻く場所。
レイたちトリオは、警戒を高めながら階層最下部へ降りていった。
そこには、広大な空間と巨大な球体が鎮座していた。
球体の中心で、静かに立つひとつの人影。
その背中からは黒い霧のような力が溢れている。
「……来たか、レイ。」
振り向いたその顔――
かつて写真でしか見たことのなかった“父”。
ブラックタイガー総裁・神崎リョウ。
レイは一歩踏み出し、
「父さん……どうして、こんなことを。」
リョウは薄く笑い、
「“こんなこと”か……それを決めるのは誰だ?」
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第二節 闇に堕ちた理由
リョウはゆっくりと語り始めた。
「かつて私はホワイトホースの一員だった。
共存を信じ、人と鬼の未来を築こうとした。
だが――“人間”がそれを許さなかった。」
彼の周囲に黒い記憶の残像が浮かぶ。
鬼を恐れ、排除しようとする人々。
裏切られ、仲間を失う光景。
「私は見た。人は恐怖のために、理解を拒む生き物だと。
だから決めた――“境界”を壊し、鬼と人を一つにする、と。」
ナツキが声を荒げる。
「それは共存じゃない! 支配よ!」
リョウは目を細め、
「支配でも、融合でも構わん。
どちらにせよ、この歪んだ世界を正すには“力”がいる。」
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第三節 箱根の目的
レイが問う。
「……じゃあ、箱根で何をしている? 境界核を動かして何になるんだ!」
リョウが手を掲げると、天井から光が降り注いだ。
その光の先、空間には巨大なエネルギーの流れが映し出される。
「境界核の力を“移動”している。
目的地は――硫黄島だ。」
シュンが驚く。
「硫黄島!? この前の亡霊事件の場所じゃねぇか!」
リョウは頷く。
「そうだ。あそこには、古代から眠る“第二の境界核”がある。
人と鬼、両方の力を混ぜるための、真の炉心だ。」
ナツキが唇を噛む。
「まさか、二つの核を――!」
「融合させる。
それが完成すれば、世界の境界は完全に消え、
鬼も人も“ひとつの種”になる。」
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第四節 誘い
リョウはゆっくりとレイに歩み寄る。
「レイ……お前も見ただろう。
鬼の血が、力を与えることを。
だが、その力は決して悪ではない。」
レイの前で立ち止まり、静かに手を差し伸べる。
「我と共に来い。
お前が持つ“境界の風”は、この計画に不可欠だ。
我と共に歩めば、母も、ユナも救われる。」
ナツキが一歩踏み出し、
「やめて! その手を取ったら、もう戻れない!」
リョウの瞳が冷たく光る。
「ナツキ……お前も“境界の子”だ。
本能は気づいているはずだ。どちらの世界にも居場所はないと。」
レイの心が揺れた。
だが、彼の脳裏に浮かぶのは――母の言葉。
「その血で、守ってほしい。」
レイは拳を握りしめ、リョウの手を振り払った。
「俺は……父さんの道を選ばない。
俺は俺の境界を守る!」
リョウの表情が、一瞬だけ寂しげに歪む。
「……そうか。やはり血よりも意志を選ぶか。」
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第五節 消えゆく影
轟音が響き、境界核の光が強くなる。
リョウが手を上げると、床下から転移陣が発動した。
「ちょうどいい。転送は完了だ。
エネルギーは硫黄島へ移動した。」
ナツキが叫ぶ。
「やめて! このままじゃ――!」
リョウは微笑み、背を向けた。
「レイ……次は硫黄島で会おう。
その時までに、自分の“正義”を見つけておけ。」
光が爆ぜ、リョウと共に暗黒の渦が消える。
残されたのは、崩れ落ちる施設と、静寂。
レイが歯を食いしばる。
「父さん……次こそ、終わらせる。」
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第六節 本部への帰還
本部に戻った三人を、レン教官と総裁・ケンが出迎えた。
「無事でよかった……だが、顔を見る限り、ただの戦いじゃなかったようだな。」
レイはうなずき、
「父と会いました。――そして、彼らは硫黄島に向かっています。」
司令長が息を詰める。
「硫黄島……まさか、再びあの島が。」
総裁・ケンが前を向き、
「これで明確になった。
ブラックタイガーの最終目標は“第二の境界核”。
次の戦場は――硫黄島だ。」
ナツキが拳を握る。
「……絶対に止めよう。もう誰も、失わせない。」
レイは静かに頷いた。
「父を止める。今度こそ、自分の意思で。」
格納庫の天井が開き、
遠く南の空――硫黄島の方角に稲光が走った。




