第13章 箱根ノ境界
第一節 黒雲の箱根
箱根山。
その山頂には、黒い雲が渦を巻き、稲光が絶え間なく走っていた。
〈鳴神・風刃〉が降下し、レイたちトリオは山の地下施設入口に到達する。
地面には古代文字が刻まれ、鬼の血で封印が描かれていた。
シュンが息を呑む。
「……これが、ブラックタイガーの本拠地……。」
ナツキが周囲を見渡し、
「境界核のエネルギー反応、すぐ下ね。」
レイが頷き、
「行こう。終わらせるために。」
三人が降下エレベーターに乗り込み、
暗闇の中へとゆっくり沈んでいく。
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第二節 母の声
深部へと進んだその時――
突如、照明が落ち、柔らかな光がレイの前に現れた。
「……レイ。」
聞き覚えのない、けれど胸の奥に染みついた声。
光の中から姿を現したのは、一人の女性だった。
長い銀の髪に、穏やかな瞳。
どこかナツキに似た優しさを持つその人は――
「……お母さん……?」
ナツキとシュンが息をのむ中、レイが呟いた。
女性は静かに微笑み、
「久しぶりね、レイ。
あなたを手放したこと、ずっと心に残っていた。」
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第三節 手放した理由
母――神崎ユキは、ゆっくりと語り始めた。
「あなたを手放したのは、ブラックタイガーの血を継いでいたから。
あの時、私は組織から逃げることを決意した。
けれど、私の血を追う者がいた。
だから、あなたを“鬼族の安全圏”――義兄のもとに預けたの。」
レイの手が震える。
「じゃあ……姉さんは?」
ユキの表情が一瞬曇る。
「アヤは、私を守るために残ったの。
そして……彼女だけが、総裁の血を濃く継いでいた。」
ナツキが静かに口を開く。
「でも……どうして私の名前を?」
ユキはその問いに、微笑で答えた。
「ナツキ……あなたも、久しぶりね。」
ナツキが驚いた表情を浮かべる。
「え……私を、知ってるんですか?」
アヤは頷いた。
「あなたとレイは、同じ病院で生まれたの。
お母さん同士も、仲が良かったのよ。」
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第四節 交差する運命
ユキの言葉に、ナツキは目を見開いた。
「じゃあ……レイとは……」
ユキが優しく言葉を継ぐ。
「血は繋がっていないわ。でも、あなたたちは同じ日に生まれた“境界の子”たち。
あの日、世界の境界が一瞬だけ揺らいだ。
その時に、あなたたち二人が産声を上げたの。」
レイは息を呑んだ。
「……俺たちは、“同じ時に”生まれた……。」
アヤが微笑む。
「だからこそ、あなたたちは出会う運命にあった。
人と鬼、光と影、風と水――互いを導くために。」
ナツキは静かに涙を拭い、
「私たちが出会ったのは……偶然じゃなかったんだね。」
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第五節 母の願い
ユキがレイの肩にそっと手を置く。
「レイ……あなたに、もう一つ伝えたいことがある。」
「ブラックタイガーの総裁――それは、あなたの父。
彼が今、“境界核”を完全起動させようとしている。」
ナツキとシュンが同時に驚く。
ユキの瞳が少し揺れた。
「でも、あの人も最初は人間と鬼の共存を望んでいた。
ただ、力を恐れ、世界を守ろうとして――狂ったの。」
レイはゆっくりと拳を握った。
「……なら、俺が止める。
父さんが壊そうとする境界を、俺が守る。」
ユキは静かに頷き、
「その時、アヤが立ちはだかるかもしれない。
でも……彼女もまた、あなたを救いたいと願っている。」
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第六節 再び進む道
ユキの身体が光に包まれ、薄れていく。
「レイ、ナツキ……どうか生きて。
境界の子として、誰よりも優しく、強く――。」
光が消えると同時に、
施設の奥で轟音が鳴り響いた。
シュンが警報音を確認する。
「境界核が動き出した! ブラックタイガーの本部中枢が稼働開始!」
レイは母の消えた場所を見つめ、
「……ありがとう、母さん。必ず終わらせる。」
ナツキがうなずき、
「行こう、レイ。真実の先へ。」
三人は走り出す。
境界核へ――父と姉が待つ、世界の中心へ。




