第10章 羽田の咆哮
第一節 赤き空
硫黄島から帰還する途中、
3人の乗る戦闘機〈ヴァルキリー零式〉の前方に、
赤黒い光柱が立ち昇るのが見えた。
「……あれは、まさか……」
レイの声が震える。
羽田空港――
日本最大の空港を中心に、
上空数百メートルの高さまで“鬼気の柱”が伸びていた。
リンクギアが激しく警告音を鳴らす。
――鬼気レベル:最大値。
――未知波形、神崎レイと完全同調。
シュンが驚愕の声を上げた。
「同調!? お前の波形と同じって、どういうことだよ!」
「……俺にも分からない。でも、あの柱――“俺を呼んでる”。」
レイの瞳に、かすかに黒い光が灯った。
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第二節 本部の混乱
ホワイトホース関東本部では、
司令長カズマと総裁、そして教官レンが緊急会議を開いていた。
「羽田空港一帯、完全封鎖済み。しかし……」
オペレーターの声が震える。
「鬼反応が急激に拡大。中心に“人型反応”が確認されています!」
「人型?」
レンが眉をひそめる。
モニターに映し出された映像――
そこには、黒い羽根を広げた女性の姿があった。
「……まさか……神崎アヤ……!」
総裁の声に一瞬の沈黙が走る。
カズマが低く問う。
「レイの姉、そしてブラックタイガーの幹部……いや、隊長だったな。」
総裁が頷く。
「ああ。アヤは今、“境界の鍵”を開こうとしている。」
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第三節 再会
羽田上空。
3機の戦闘機が旋回しながら降下する。
滑走路に着陸した瞬間、リンクギアが赤く染まった。
「……来たな、レイ。」
黒い羽根を持つ少女が、ゆっくりと空から降りてきた。
レイが一歩前に出る。
「……姉さん。」
アヤは微笑み、
「ようやくここまで来たね、レイ。」と静かに言った。
「なぜブラックタイガーなんかに……!」
レイの声が震える。
「“なんか”じゃない。
私たち神崎家は、最初から“境界”そのものを守る一族だった。
でもホワイトホースはそれを封じ、“力”を奪った。
今こそ、真の“鬼と人の平衡”を取り戻す時よ。」
ナツキが割って入る。
「平衡なんて嘘だ! あんたたちはただ壊したいだけ!」
アヤの瞳が冷たく光る。
「あなたも“鬼の子”でしょ。レイに近づく資格なんてないわ。」
その瞬間、レイの鬼気が爆発した。
「姉さんを侮辱するな、ナツキを傷つけるなッ!」
風の型〈疾風・刃嵐〉が発動。
アヤの周囲に風の刃が走る。
だが、アヤは片手でそれを払い、黒い鬼気で風を打ち消した。
「足りないわ、レイ。
あなたの中には、まだ“鬼”が眠ってる。」
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第四節 覚醒の兆し
戦闘の衝撃で空港の滑走路がひび割れる。
シュンが叫ぶ。
「ナツキ、今だ!」
「〈水連・氷刃結界〉!」
ナツキの結界がアヤを包む。
だがアヤは笑う。
「……氷で“炎”は止められないわ。」
次の瞬間、アヤの背中から黒炎が噴き出した。
炎が氷を飲み込み、空を焦がす。
「これが、真の“境界炎”――!」
爆風に吹き飛ばされながらも、レイは立ち上がった。
「姉さん、それが本当の“平衡”なのか!?
壊すことで、何が救われるっていうんだ!」
アヤの瞳に、一瞬だけ迷いが走った。
「……レイ、あなたはまだ“鍵”を知らない。」
彼女は黒炎に包まれ、空へと消えた。
残されたのは、焼け焦げた滑走路と、
ひとつの黒い結晶だけ。
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第五節 “鍵”の存在
ホワイトホース本部に戻った3人。
総裁は沈痛な表情で語った。
「神崎アヤが言っていた“鍵”――それはおそらく、“境界核”だ。
鬼と人間を完全に分離し、あるいは融合させる唯一の装置。
封印は、羽田と硫黄島――二点に分かれて存在している。」
レンが補足する。
「そして、アヤは“融合”を選ぼうとしてる。
すべての鬼と人間を一つにし、世界を“境界のない地球”に変えるつもりだ。」
ナツキが唇を噛む。
「そんなの……共存じゃない。ただの消滅だよ。」
レイは静かに拳を握った。
「姉さんを止める。たとえ、それが俺の運命でも。」
総裁が頷く。
「神崎レイ――次の作戦、コードネーム《黎明》を発動する。」




