第9章 硫黄島の亡霊(後編)
第一節 硫黄の島に降り立つ
海上に白い霧が広がる。
戦闘機〈ヴァルキリー零式〉が硫黄島上空に差し掛かると、
リンクギアが微かな警告音を発した。
――鬼気濃度、上昇中。
「すげぇ……まるで空気そのものが燃えてるみたいだ。」
シュンがヘルメット越しに呟く。
レイは計器を確認しながら答える。
「ここが“鬼と人の境界”だった場所……。
この空気の重さ、普通じゃない。」
ナツキの声が入る。
「下に反応がある。座標は、旧研究区の地下――行こう。」
3機は並んで降下し、廃墟と化した滑走路に着陸した。
かつて軍と研究者たちが出入りした格納庫跡。
今は錆びた鉄骨と、風に揺れる旗の残骸があるのみ。
しかし、地下へ続くエレベータ跡から、
微かに“黒い鬼気”が吹き上がっていた。
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第二節 封印の地下施設
3人は暗い通路をライトで照らしながら進む。
壁には、古びた英字と和文の研究記録が刻まれていた。
「Oni-Human Integration Project」
「被験体No.03 神崎リョウ」
その文字を見た瞬間、レイの足が止まった。
「……神崎……リョウ?」
ナツキが息を呑む。
「レイ、それ……まさか……」
「父さんの名前だ。」
通路の奥へ進むと、ガラス越しに眠る“巨大な影”が現れた。
それは人型だが、片腕が鋼鉄で覆われ、背中から黒い結晶が突き出ている。
――鬼と人間の融合体、“プロト・オニ”。
ナツキが小さく呟く。
「ブラックタイガーが最初に作った“鬼”……。」
シュンがリンクギアを確認する。
「反応レベル、MAX。……動いてる!」
直後、施設全体が赤く光り、
ガラスの棺がゆっくりと開いた。
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第三節 暴走
「避けろッ!」
レイの叫びと同時に、爆風が吹き抜けた。
“プロト・オニ”が目を覚ました。
瞳は真紅に染まり、金属の腕がうなりを上げる。
ナツキが水の型を展開。
「〈水流結界・泡界〉!」
空気中の水分が凝固し、障壁を作る。
シュンは火の型で応戦。
「〈紅蓮衝破〉ッ!」
炎の弾丸が鬼の肩を貫くが、すぐに再生する。
「駄目だ、普通の攻撃じゃ通らねぇ!」
レイは風の型を構え、
全身から鬼気を放出した。
「〈風迅・断界〉――ッ!」
鋭い風の刃が鬼を包み込み、
黒い結晶を砕くと同時に、鬼が崩れ落ちた。
静寂のあと、リンクギアが青く光を放った。
――生命反応、停止。
レイは息を整え、崩れた鬼の顔を見つめた。
どこか、懐かしい面影があった。
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第四節 真実の記録
奥の制御室で、古いホログラム映像が起動する。
白衣の女性が映り、淡々と語り始めた。
「記録日:昭和二十年七月。
鬼と人の融合実験は失敗。
被験体03・神崎リョウ、鬼化暴走。
研究は中止。
しかし、被験体の遺伝子は後世に受け継がれるだろう――。」
ナツキがレイを見る。
「“後世に受け継がれる”……それって……」
レイは唇を震わせた。
「俺だ……。父さんは、最初の“鬼と人の融合者”だったんだ……。」
沈黙。
3人の胸に、複雑な痛みが走った。
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第五節 地上の異変
その瞬間、リンクギアが激しく点滅した。
――緊急信号:羽田空港。反応レベルMAX。
シュンが叫ぶ。
「羽田!? 何が起きてるんだよ!」
総裁の声が通信に入る。
『こちら本部! 羽田空港上空に“未知の鬼反応”発生!
硫黄島の波長と完全一致――神崎レイの反応とシンクロしている!』
レイの視界が一瞬霞む。
頭の中に、誰かの声が響いた。
――「レイ……帰ってこい……」
「……姉さん……?」
彼の目に、一瞬だけ黒い鬼気が走る。
ナツキが駆け寄る。
「レイ、しっかりして!」
通信の向こうで、総裁が命じる。
『硫黄島の任務は中止だ! ただちに帰還せよ!
羽田で“境界”が開きつつある!』
レイは拳を握りしめ、
「……了解。」とだけ答えた。




