泥の戦士
なんだここは……。
見渡せば赤、赤、赤。
赤い色鮮やかな建物ばかり……派手だな……。
金の装飾が施されている真紅の建物が立ち並ぶ風景が広がっていた。
なんだあの奇妙な文字は?
看板……だよなぁ?
突如、ユーロックのブレスレットが黄色く光り出すと、周りの文字が読めるようになった。
「ramen? なんだそれ?」
何が何だかわからんぞ?
とりあえずあの建物に入ってみるか……。
「ん!?」
建物に入ろうとした時、あるものを見て困惑した。
ドアノブがない!?
これドアだよな?
どうやって開けるんだ?
ドアノブがある場所には凹みがある。
指を引っ掛けると横にスライドした。
何だこのドア、スライドするのか……。
内装はカウンターと、複数のテーブルとイスがあった。
「いらっしゃい」
店主らしき男の声が聞こえた。
ユーロックは座席に腰をかけて店主に問いかけた。
「あの看板に書いてあったramen?とはなんだ?」
「なんだ嬢ちゃん、ラーメンを知らないのか?」
「あぁ……」
「待ってろ今から作ってやる!」
店主は気さくな感じの男で、黒いシャツに赤い前垂れ、頭にはバンダナのような物を巻いていた。
「できたぜ! 冷めないうちに食いな!」
スプーンか?
陶器でできているなぁ……。
とりあえずスープを一口飲んで見るか……。
スープに息を吹きかけ冷ましながら啜った。
「美味い……」
「だろ? 俺の自信作なんだ……麺も食べてみろ! 美味いぞ!」
麺?
この紐状のやつか?
食えるのか?
レンゲで掬うも麺を取ることができないユーロックは、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「なぁ、スプーンで掬えないんだが……」
「スプーン? あぁ……レンゲのことか……」
「レンゲ? これレンゲって言うのか……」
「嬢ちゃん、ラーメンは箸で食うんだよ」
「箸? なんだそれは……」
「箸もレンゲもラーメンも知らないなんて変な嬢ちゃんだな……ほらこれだ箸は……」
「おい、おっさん! ふざけてるのか?
この二本の棒でどうやって食えばいいんだ……」
店主が困惑していると、ユーロックの隣の席の男が声をかけた。
「箸ってのはこうやって使って掴むんだ」
「こうか? 上手く掴めないな……」
しばらく箸に苦戦するも、コツを掴み使うことができた。
「やっと掴めた……」
隣の男はズルズルと音を立てて食べている。
「おい、うるさい! 汚いぞ!
音を立てずに食べられないのか!」
男はキョトンとした顔で呟いた。
「飯は音を立てて食うもんだろ?
作った相手を美味いと感謝を伝えるために音を立てるのがマナーだぞ?」
「なんだその文化……」
とりあえず言われた通りにするか……。
一口食べると、ユーロックは夢中になりながら食べた。
ん!?
このラーメンとかいうの、美味いぞ?
美味すぎる!
「美味かったご馳走さん……」
「そりゃ作ったかいがあるってもんよ!
にしても変わった容姿しているな嬢ちゃん……
鼻も高いし彫りが深い……こんな人間見たことねぇ……」
そういえば、この店主も隣の男も変わった顔をしているなぁ……。
「そのラーメン、幾らだ?」
「600だ!」
そんなに高くないんだな……。
財布から銅貨を出すと、カウンターに置いた。
「なんだこれ? 高価か?
見たことねぇなぁ……
これじゃあ無理だ嬢ちゃん……」
「まじか……」
確かにそうか。
別の世界に移動したということは、景色も文化も文字も違うよな……。
だからと言って払わない訳にはいかない。どうすれば……。
少し困惑しながら焦っているユーロックを見かねたのか、男がそっと立ち上がった。
「おっちゃん! そいつの分も俺が払う……」
「そうか……毎度あり!」
ユーロックと男は店を出た。
「すまないな……私の分まで払ってもらって」
「それは構わない。ただ一つ気になったことがある……
それ、よく見せてくれないか?」
そう言うと男は、ユーロックのブレスレットを指さした。
「あぁ、構わない」
「このひし形のクリスタルが埋め込まれているアクセサリー……
似たようなのを見たことある」
「ホントか! どこで?」
「俺は青龍の鉾という軍団に所属している者だ……」
「青龍の鉾?」
「あぁ……団長もひし形のクリスタルが埋め込まれているアクセサリーを付けていた……
まぁアクセサリーと言ってもイヤリングだがな! 色も違うし……」
「そうなのか……」
確か石版にも書いてあったな。
「世界の武器があらゆる世界に一つ存在する」と……。
だとすると、その団長とやらがその持ち主?
「なぁ、私をその団長とやらに合わせてくれないか?」
「んー?」
男はしばらく悩んでいると、急に何かを思いついたかのように呟いた。
「ならこうしよう……
俺と戦ったら案内するということでいいか?」
「いいが、なぜだ?」
「簡単な話だ!
どんな能力を持っているか分からない相手を連れていく訳にはいかない!
だから戦って力量と能力や発動条件を把握する必要がある……」
だよな……。
確かに何も知らない相手なのに、そう簡単にOKとはならないよな……。
「わかった……だが、ここだと戦えば建物に被害が出るぞ?」
「町の外に出る。着いてきてくれ……」
町の門を抜けた先には、どこまでも続く平原が広がっていた。視界を遮るものはなく、戦うには申し分ない場所だ。
「ここなら戦えるだろ?」
「そうだな……」
「武器を取れ……始めるぞ!」
男がそう言うと同時に、トンファーを手に取る。
ユーロックは静かに右手を下へと振った。
【次元界銃ディメンション・シューター!】
銃声と、ビートを刻むような電子音が重なり合う。
ブレスレットが黄色く輝き、光の粒子が収束するようにして――対物ライフルの形を成して出現した。
やはりな……
団長と同じだ。
アクセサリーから光を放ち、武器を顕現させるその方式。間違いない――彼女が持っているのは“あれ”だ。
相手は近接武器……初手で武器を撃って弾く
能力を使う前に叩く。それが最善手だ。
草の香りを含んだ風が、ゆるやかに吹き抜ける。
その中で、ユーロックは引き金を引いた。
――発砲。
「なに!?」
男の目前に、突如として泥の壁が出現する。
弾丸は壁に包み込まれ、勢いを殺されて消えた。
次の瞬間、男は走り出していた。
一気に距離を詰めるその速度は、想像以上。
トンファーと蹴りが雨のように降り注ぐ。
ユーロックは防ぐのが精一杯で、反撃に転じる隙がない。
は、速い……全然反撃ができねぇ……
後ろ回し蹴りが顎を捉え、視界が跳ねた。
地面に叩きつけられる。
「体術はそんなに強くないようだな?
その奇妙な武器は分からないが、さっきの攻撃から察するに何かしら小さなものを飛ばして攻撃する武器……中距離か遠距離に使う物と見た。近接には弱いみたいだな……」
「確かに私は近接戦闘は得意じゃない……
だけど、いくらでも倒す方法はあるんだ……」
ユーロックは地面に向けて発砲した。
空間が歪み、ポータルが開く。
そのまま落下――
次の瞬間、男の背後、空中から飛び出す。
――撃ち抜いた。
着地と同時に回転し、受け身を取る。
「瞬間移動すれば、倒せるぜ……」
――なんだ?
撃ち抜いたはずの男の身体が、崩れ落ちる。
泥になって、形を失った。
「惜しいな……」
背後から、声。
「なんで後ろにいる?
私は確かに仕留めた……」
「それは泥で作ったダミーだよ……」
まじかよ……
残弾は17発。
まだ余裕はある。
「あんたの持ってるの、ワールドウェポンだろ?
アビリティウェポンの俺は泥の能力しか使えないが……泥にはこういう使い方もあるんだぜ?」
男がトンファーを横に振る。
地面が蠢き、大量の泥が噴き上がった。
瞬く間に人の形を成し、数を増やしていく。
泥人形の軍隊。
「拳法奥義!【 无与伦比的兵马俑】!」
泥で出来た剣と槍を手に、軍団が一斉に襲いかかる。
この数……どうやって蹴散らす……
一か八か。
失敗するかもしれないし、成功するかもしれない。
どっちにしろ、このままじゃ体力が持たない。
ユーロックは武器を天に掲げ、引き金を引いた。
背後に――巨大なポータルが出現する。
「なんだ、これは……大量の水が、波のように……」
次の瞬間。
轟音と共に、濁流が押し寄せた。
泥人形の軍団ごと、男の姿も飲み込み、平原を洗い流していく。
……何とか上手くいったみたいだなぁ……
「はぁ……はぁ……」
ユーロックは膝をつき、荒い息を吐く。
「一体、さっきの水はなんだ!」
男が、わずかに動揺した様子で問いかけた。
「ポータルを海の中と繋げた……
とは言え、巨大なポータルを出す為には弾丸を複数消費して、そのエネルギーを一発に込める必要がある。
その時、体力も持っていかれるし、成功率も低い。だから頻繁には出せないがな……」
流石だな……
やはりワールドウェポン。
世界を変えられるほどの力――まさに神器。
「あとは、お前を戦闘不能にして終わりだな……」
その時。
男の口角が、ゆっくりと上がった。
「まさか……これで俺が終わりとでも……」
「ん!?」
地面が震える。
何かが、下から這い上がってくる感覚。
危機感に突き動かされ、ユーロックはとっさに跳躍し、後方へ下がった。
「拳法奥義!【 狂暴泥龙】!」
地面を突き破り、耳を劈く咆哮。
固く凝縮された泥で出来た龍が――二頭。
おい……まじか……
残弾、3発。
「これは……負ける……」
「ハーッ!」
ドン――!!
凄まじい衝撃音と砂埃。
二頭の龍が一直線に突っ込んだ。
「意識を失ったか。流石にワールドウェポンに勝つには、必殺技を二回使わないと勝てなかったか……
あとは彼女を青龍の鉾の本部に連れていくだけだな……」
ユーロックは、勝負に敗れた。
――青龍の鉾とは何なのか。
――そして、団長とは何者なのか。
男は彼女を担ぎ上げ、静かに歩き出した。




