北の都クレイタウン
レギオンとの激闘を終えた三人は、荒野で野宿をしていた。
夜が明け、地平線から昇る朝日が三人を包み込む。
焚き火の残り火を囲み、簡素な朝食を取りながら、しばしの沈黙が流れる。
その空気を破ったのは、バレクだった。
「嬢ちゃん、そういやよ……なんで石版を探す旅なんかしてるんだ?」
不意に投げかけられた問いに、ユーロックは一瞬だけ視線を伏せ、そして重たい口を開いた。
「……私の恩師が、レギオンに殺された」
静かな声だった。
「だが、復讐で旅をしているわけじゃない。恩師は、最期にこう言った」
――瀕死の状態で、荒い息を吐きながら。
それでも、彼は確かに言葉を遺した。
「いいか、ユーロック……レギオンを生み出している根源を倒せ……。これ以上、犠牲者が出ないように……!」
ユーロックは、淡々と続ける。
「私は、その言葉を果たすために旅をしている」
リークが首を傾げた。
「その根源って、具体的になんなのよ?」
「……神、らしい。私も神を信じているわけじゃないが、恩師が言うなら、そうなんだろう」
リークは慌てたように声を上げる。
「か、神!? 神って言ったって、本当に存在するの? そもそも、いたとして倒せるの?」
「一応、倒す方法はあるらしい」
ユーロックは空を仰ぎ、続けた。
「恩師が言うには、古書に書いてあったそうだ。無数のパラレルワールドを巡り、すべてのワールドウェポンの力を束ねることで、神をも穿つ武器が手に入る……らしい」
具体的な方法までは分からない。
だが――
「今、私にできることはこれしかない。この武器だからこそ、できることなんだ……」
リークは信じられない、といった表情で呟いた。
「そんな信憑性の薄い話……正直、信じるのは無理だね」
一拍置いて、リークは笑った。
「でもさ、ユーロック。あなたに乗った以上、できるところまで付き合ってあげる!」
「俺もだぜ、嬢ちゃん!」
バレクが豪快に笑う。
「細けぇことは知らねぇが、できる限り支援してやる!」
三人は、北へ向かって歩き出した。
やがて、荒野の先に無数の建物が見えてくる。
「あそこが、北の都クレイタウンか……」
「確か、クレイタウンってメープルパイが有名なのよね! 食べたいなぁ!」
北の都クレイタウン。
かつてはコアメタルを産出する鉱山地帯だった街だ。
メープルの植林場もあり、採掘者たちはメープルを使った料理を日常的に食していた。
しかし、採掘効率を上げるために人員を増やした結果、街は発展。人口の増加とともにコアメタルは枯渇し、今ではガンマンが溢れる、ごく普通の街へと変わっていた。
昔の名残として、元採掘場は鍾乳洞の観光スポットとなり、メープル料理は街の名物として残っている。
門をくぐると、賑やかな街並みが広がった。
「メープルパイ、食べに行こう?」
リークは目を輝かせ、ユーロックの腕を掴んでレストランの方を指さす。
「お、おい……遊びに来てるんじゃねぇんだぞ……」
めんどくさそうな表情を浮かべるユーロック。
「とりあえず宿を確保だな。そのあと石版の具体的な場所と、詳細な情報収集だ」
バレクは腕を組み、淡々と告げた。
程よい宿を見つけた三人はチェックインを済ませ、しばし旅の疲れを癒していた。
沈黙に耐えかねたように、リークが口を開く。
「ねえ……お互いのこと、よく知るためにさ。みんなの過去、語り合わない?」
「たしかに……お互いの過去を知ることで、何か手がかりになるかもしれねぇな」
バレクも頷いた。
リークは元気よく手を挙げる。
「じゃあ、私からね!」
彼女は、自分の過去を語り始めた。
東の街で定食屋を営む両親。
五つ年上の兄。
裕福ではなかったが、幸せだった日々。
ガンマンのゲリラ大会をきっかけに芽生えた憧れ。
兄の後押しで掴んだ、ガンマンへの道。
語り終えたリークは、満足そうな顔をしていた。
……お前が話したかっただけかよ。
ユーロックはジト目でリークを見る。
「次は俺だな!」
バレクは豪快に笑い、自身の過去を語る。
武器商人としての放浪。
アビリティウェポンを作る夢。
十年の歳月を経て手に入れた鍛冶屋。
「今も変わらねぇ。俺は、武器を作り続けてる」
誇らしげに語り終えたバレクに、リークが視線を向ける。
「じゃあ、次はユーロックね?」
「……」
「どうした、嬢ちゃん?」
ユーロックは、切なそうに呟いた。
「そんな面白いこたぁ……なんもねぇよ……」
だが――
しばらくして、観念したように口を開いた。
「……昔の私は、今とは違った」
⸻
ユーロックの過去
昔、ユーロックは明るい子供だった。
だが、生まれた家は貧しかった。
生活に追い詰められた両親は、彼女を金と引き換えに手放した。
辿り着いた先は、奴隷市場。
鉄格子の中、同じ牢屋に入れられていた少女と、ユーロックは仲良くなった。
名前も知らぬまま、暗闇の中で希望を分け合った。
――ある日。
爆発音と叫び声。
牢屋の壁が吹き飛び、光が差し込む。
そこに立っていたのは、黄色い対物ライフルを持つ男だった。
「もう大丈夫だ!」
男は牢屋を壊し、二人を外へ連れ出した。
だが、暴動の混乱の中で少女とははぐれ、
飛んできた瓦礫がユーロックを直撃する。
次に目を覚ました時、そこは木造の小さな家だった。
男は彼女に名前を与えた。
――ユーロック・バレット。
彼はワールドウェポンの所有者であり、
ユーロックの恩師だった。
共に旅を続け、石版を探す途中――
レギオンの襲撃により、恩師は命を落とした。
「石版を探せ……
レギオンを生み出す元凶を、倒せ……」
そうして、ワールドウェポンはユーロックに託された。
⸻
「……以上だ」
ユーロックは前を向いたまま言った。
リークも、バレクも言葉を失う。
「私は、復讐で動いているわけじゃない」
「恩師が、そう言ったから。それだけだ」
「……重てぇ人生だな」
バレクは拳を握る。
リークは小さく笑い、優しく言った。
「でも、あなたは一人じゃないわ」
やがて三人は街へ出て、情報収集を始めた。
ガヤガヤとした喧騒。
無数の足音と話し声。
……あそこなら、何か情報を持っているやつもいそうだな。
ユーロックは無言で歩き出す。
「ちょ、ちょっと! 急にどこ行くの?」
「ガハハ! 酒場か! 確かに情報が集まりやすいな!」
店内へ入り、ユーロックは近くの客の肩に手を置いた。
「ちょっといいか。北にある神殿を探している。白い大理石でできた神殿だ」
「ああ、あれか……荒野のど真ん中にある、場違いなやつだ」
「行き方を教えろ」
「ただで教えるわけにはいかねぇな。依頼を受けてくれたら教えてやる」
「依頼?」
「鍾乳洞だ。観光名所だが、最近妙なレギオンが彷徨いてて封鎖されてる。そいつをどうにかしてほしい」
「討伐ってことか……」
「そゆこと。よろしく~」
男はそう言って去った。
「とりあえず、現場に向かうか……」
「よーし! さっさと終わらせて情報ゲットだね!」
「はぁ……」
ため息をつきつつ、
お調子者のバレクと、ハイテンションなリークを連れて――
ユーロックは鍾乳洞へと向かうのだった。
鍾乳洞に潜む、妙なレギオンとは――。




