街のガンマン
タクシーに揺られて三日目の朝――。
ようやく、ユーロック・バレットは目的の街へとたどり着いた。
「……ここが街か。立派な建物が多いな……」
誰に聞かせるでもない独り言が、乾いた空気に溶けていく。
砂と岩の荒野の真ん中に、突如として現れた煌びやかな都市。まるで砂漠に浮かぶ蜃気楼。
無数に建物が健在するその街は、まるで荒野の中のラスベガスといった趣だった。
外周にはサークル状の建物が並び、中央には異様なほど巨大なドームがそびえている。
目的はただひとつ――ここで開催される《ガンマン大会》への参加。
タクシーを降りたユーロックは、迷わず会場へと向かった。
遠くからでも目立つその建物は、巨大なドームが空に突き出すように構えている。
「ここが受付か……」
入り口で足を止めた瞬間、受付の女性が笑顔で声をかけてきた。
「こんにちは。大会へのご参加でしょうか?」
「あぁ……」
軽く頷くと、彼女は左手を差し伸べて案内する。
「では、あちらが控え室になっています。ご移動をお願いします」
控え室へ足を踏み入れると、すでに多くの出場者が集まっていた。
誰もが己のウェポンを整備し、入念に動作確認をしている。
――その中で、ひときわ異彩を放つ女がいた。
ベンチに寝そべり、何もせず堂々と眠る女。
周囲の緊張感とはまるで別世界にいるような雰囲気だ。
「おい、あんたも出場者なんだろ? こんなところで寝てるとは、随分と余裕だな……」
ユーロックの声に、女はゆっくりと瞼を開け、上体を起こした。
「おや? 黄色のシューターじゃない……」
……またそれか。
内心でうんざりしながら、ユーロックは目を細める。
「まぁ、あなたが大会に出場する理由も、欲しがってる情報も、もう知ってるけどね」
「お前、なぜそれを……私はまだ何も言ってないぞ」
「私は情報屋だからね。この耳には、すべて入ってくるのさ」
なるほど、厄介な相手だ。
「……なら話は早い。単刀直入に聞こう。石版の場所を教えてもらおうか」
「いいよ。でも、条件がある」
やっぱりな……タダで情報が手に入るわけがない。
「……で? 条件って?」
「大会が終わったら、あなたのワールドウェポンを、私の知り合いに調べさせてほしいの」
所有者が死なない限り奪えない仕様だ。触らせても問題はない。どうせ無駄な解析で終わる。
「……わかった」
「ふふ、どうせ今ここで場所を教えたら、あなたは大会に出ずに石版を目指すでしょ?
私は、あなたの《次元を司る力》をこの目で見たいの」
「……確かにな」
ふと壁の時計を見ると、針は大会開始の時刻を指していた。
「おっと、そろそろ始まりそうだね?」
直後、スピーカーから司会者の声が轟いた。
『これより――第110回《ハリケーン・タウン ガンマン大会》を開催いたします!!』
出場者たちが次々に立ち上がり、闘技場へ向かう。
そして、ついにユーロックの番がやってきた。
「……やっと出番か」
さっさと終わらせて、石版の場所を聞き出す……ダルいがやるしかない。
会場が歓声に包まれる中、司会の声が再び響く。
『お待たせしました! 次の対戦カードはこちら!
あらゆるガンマン大会を総ナメにしてきた無敗のガンマン――二つ名は“黄色のシューター”! ユーロック・バレット!
対するは、街の情報屋にして変幻自在の技巧派ガンマン! リーク・ウォルト!
果たして勝つのはどちらか――レディ、ファイト!!』
――観客の声が轟く中、ユーロックは静かに闘技場の中央へ進む。
手を振り上げた瞬間、ブレスレットが黄色く輝き、その光が形を変えて弾け飛ぶ。
手元に現れたのは、次元を越える銃。
【次元界銃ディメンションシューター!】
武器の声とともに、独特の出現音が場内に響いた。
リークがニヤつきながら呟く。
「へぇ……やっぱりアビリティウェポンとは全然違う、不思議な武器だねぇ」
ユーロックはだるそうに答える。
「そんなことはどうでもいい……さっさと終わらせて教えてもらうぞ」
その瞬間、リークが腰からグロックを抜き、ユーロックの足元に撃ち込んだ。
「なっ……!?」
足元が一瞬で湖のように変化し、体が沈み始める。
「やべぇ……泳げねぇ」
もがくユーロックを横目に、リークは自分自身を撃ち、地面の中へ飛び込んだ。
「あいつ……自分を撃って……まさか!?」
次の瞬間、水の塊のような人影が猛スピードで迫り、凄まじい打撃を何度も浴びせてきた。
「こ、こいつ……自分を水にしてやがる! 同化して見えねぇし、攻撃も当たらねぇ……」
このままじゃ水圧で叩きのめされて終わる。
――ユーロックの脳裏に、ひとつの策が浮かんだ。
「あんた、下に弾撃っても意味ないわよ……」
リークが水面越しに嘲笑を投げかける。
その間も、水圧混じりの打撃が容赦なくユーロックの体を叩きつけてくる。鈍い衝撃が全身に響く。
――だが、ユーロックは小さく口角を上げた。
「……そろそろだな」
「なんですって――?」
その刹那。
リークの真下から、稲妻のような閃光が一直線に突き抜けた。
耳をつんざく雷鳴が爆発するように轟き、次の瞬間――水が弾け飛ぶ。
バシュッ!! という破裂音と同時に、白い水蒸気が一気に広がり、視界が真っ白に染まる。
水分が一瞬で高温の蒸気に変わり、衝撃波が地面を震わせた。
爆風に押し上げられ、ユーロックとリークの体は空中へと舞い上がる。
耳の奥がキーンと鳴り、熱気が頬を撫でる中、ユーロックは空中で姿勢を制御し、膝を着いて着地した。
一方のリークは、地面に転がりながらもしばらく体を痺れさせ、困惑の表情を浮かべる。
「いったい……何が起きたの……?」
ユーロックは息を整え、淡々と答えた。
「さっき客席で聞こえたんだ。東の町は今、嵐だってな。
少し雷を拝借した。電気が水に触れりゃ一瞬で水蒸気になって衝撃波が起きる。
そうすりゃ、お前も私も弾け飛ぶ……それを利用して陸に上がらせてもらった」
リークはわずかに目を見開き、唇の端を引きつらせる。
「やるわね……能力だけじゃなく、頭もキレるのね」
「……これで終わりにするか?」
「まだ甘いわね……」
リークが低く呟いた瞬間、ユーロックの周囲に無数のガラス製ナイフが現れ、殺到してきた。
光を反射しながら迫る刃は、まるで透明な死神の群れだ。
――どっから出てきた、このナイフ……!?
反射的にユーロックはポータルを展開し、瞬時にその場から離脱。
だが、避けきれなかった一本が、鋭く足に突き刺さった。
赤い血が足元を伝い氷のような鋭い痛みとともに焼けるような暑さが足に広がる。
「……っ!」
痛ってぇなぁ…ぶっ倒してやりてぇところだがとりあえずこいつの倒す方法を考えねぇとな…
痛みに顔を歪めながら、短く息を吐く。
「なんだ……さっきのナイフは……?」
リークは口角を上げ、得意げに答えた。
「さっきの爆発で吹き飛ばされる時、ケイ酸ナトリウムを巻いたのよ。
水と混ざれば……あとは水蒸気の熱を利用するだけで、水ガラスは出来上がる」
なかなかやるわねぇ…あの攻撃を反射的に避けられるなんて流石だわ…
「……まんまと利用されたってわけか」
ユーロックは小さくため息を吐き、足に突き刺さったガラスのナイフを引き抜くと、無造作に地面へと放り捨てた。
残りの残弾数は8発か…これで決められるといいが……
「あら、その焦りを見るにワールドウェポンは普通の弾丸を使うことができないのかしら?」
鋭いやつだな……たしかに普通の弾丸は使えない。明日にならないと弾丸が復活しないのは不便なところだな……
その瞬間、リークがユーロックの足元を撃つ。ユーロックは咄嗟にポータルを横に開き、攻撃をかわす。しかし、リークは容赦なく再び足元を撃ち、地面を液状化させた。ユーロックは地面の変化を感じ取り、身を低くしながら、攻撃を回避しつつリークへと距離を詰めていく。
弾丸使いまくっちまったな……残弾数は1発か……
「逃げたってどうにもならないわよ……」
リークは嘲笑を浮かべながら低く呟いた。
その刹那、ユーロックはマフラーを勢いよく外し、リークの視界を一瞬で塞いだ。
「何? 見えない!」
慌ててマフラーを払いのけるリーク。しかし、視界の中にユーロックの姿はなかった。
「勝負あったな!」
無音のまま、ユーロックの銃口がリークのうなじを突き刺す。
「私の負けね……」
リークは苦笑いを浮かべ、両手をゆっくりと挙げた。
その時、会場に審判の声が轟いた。
「そこまで! 勝者ユーロック・バレット!」
フィールド中に歓声が響き渡る。
そして、勝負を終えた二人は静かに会場を後にし、街のレストランへと向かった……




