上流階級の街
歯車の世界を後にしたユーロック一行は、新たな世界へと辿り着いた。
「また、新しい場所に出てきたな…」
「今度はどんな世界なのかしら…」
トラウンは周囲を見渡し、目を丸くする。
「ここどこ…!歯車も蒸気もない…!一体何なのここは…!」
三人の視界に広がっていたのは、白く高級感あふれる建物が立ち並ぶ街だった。
街にいる連中は皆、高級な服装をしている……貴族なのか…?
街を歩く者は、まるで全員が貴族のような出で立ちだ。
三人が街を進むと、周囲から冷ややかな視線が突き刺さるのを感じた。
「ねぇ、なんか私たちを見てない…?」
「そりゃ、服装が珍しいから見てるんじゃねぇか…」
「いや、そんな風じゃない感じがする…もっとなんか軽蔑しているような…」
「考えすぎよ…私の事があまりにもかっこよすぎて目で追ってしまうのよ…」
すると二人は口を揃えて呟く。
「それはない…」
「なんですって…!」
トラウンが大声を上げる。
「まぁ、とりあえず情報収集からだな…」
ユエンは不安そうな表情を浮かべながらも小さく頷く。
「そうね…」
やっぱり何か嫌な予感がする…私の思い違いかしら…
そんなことを考えていると、トラウンが通りがかった貴族に指をさして声をかけた。
「ねぇ…そこのあなた…!ここはどんな世界か教えなさい…!」
貴族は眉を顰め、低く呟く。
「なぜ平民がこの街にいる…」
「平民…?なんの事よ…」
「お前のことだ…我々貴族に姿勢を低くせず、分も弁えず話しかけ、剰え指を指すなど無礼者が…」
その言葉に、トラウンは苛立ちを露わにする。
「何よ…あんた…何様のつもりよ…!」
ユーロックがすぐさま近づき、トラウンの腕を引いた。
「おい…揉め事を起こすな…行くぞ…」
「え、ちょっ…まだ話しは…」
「黙ってろ…こっちに来い…」
三人はその場を離れ、路地裏へと移動する。
「さっき私たちのことを平民って言ってたな…」
「もしかしてこの街って貴族しかいないのかしら…」
「なんなのよ…あんな偉そうに…」
「貴族だからな…」
「人を平民平民って鬱陶しいわ…」
「貴族だからね…」
ユーロックは小さく呟く。
「あの感じだと情報収集は厳しいな…とりあえず、まずは金銭集めだ…」
「それはそうだけど、そう簡単に見つかるかしら……」
トラウンは淡々と口にする。
「ないなら、貴族に職を提供してもらえばいいじゃない…」
その言葉に、ユーロックとユエンは驚いた表情で彼女を見る。
「な、何よ…」
「いや、お前もまともなことを言うんだなと…」
「人をなんだと思ってるのよ…」
「バカ…」
「アホの子…?」
トラウンはジト目で二人を睨みつける。
「あんたたち…」
ユーロックは肩をすくめた。
「早速、あそこにいる貴族にでも話しかけてみるか…」
三人は路地から出て、貴族へと近づこうとする。
――その瞬間。
角から歩いてきた貴族とぶつかり、ユーロックは尻もちをついた。
「痛ってぇ…」
見上げると、そこには小太りで坊主頭、ちょび髭を蓄えた男が立っていた。
「なぜ、こんなところに平民がいる…」
ユエンは咄嗟に頭を下げる。
「すみません…ぶつかってしまって…」
男は三人を見下すように眺める。
「全く平民ごときがワシの道を塞ぎおって…」
すると突然、トラウンが腰に手を当て、男に指を突きつけて言い放った。
「小太りのおっさん…私たちを雇いなさい…」
「無礼者がワシに指を指すんじゃ…いや、ちょっと待てよ…」
男は怒りかけるが、何か閃いたように髭を撫でながら思考を巡らせる。
やがて、怪しい笑みを浮かべた。
「ブヒヒッ…いいだろう…ワシの元で雇ってやろう…」
意外とすんなりいったな…
まぁ、これで金の確保はできたしいいか…
その時、道の向こうから馬の鳴き声が響く。
ヒヒーン…!
「なんだ…」
三人が反応すると、男は得意げに言った。
「ワシの馬車に乗りなさい…」
トラウンは腕を組み、満足げに呟く。
「馬車を用意するなんて気前がいいじゃない…気に入ったわ…」
「とりあえず乗るか…」
「え、えぇ…」
三人は馬車に乗り、男の屋敷へと向かった。
――数時間後。
「着いたぞ…降りなさい…」
馬車を降りると、三人の視線の先には豪華な白い豪邸が広がっていた。
「噴水があるわね…綺麗…」
ユエンは目を輝かせる。
トラウンは白い大理石の石像に触れ、興味津々な様子で呟いた。
「この石像かっこいいわねぇ…どこかスイッチを押したら動いたりするのかしら…」
「さぁ、屋敷の中に入りたまえ…」
「おう…」
「わかりました…」
二人が中へ入ろうとする中、トラウンは石像をいじり続けていた。
「あれ、この槍抜けないわね…ぐぬぬっ…」
石像が持つ槍を引き抜こうとするトラウンを見て、ユーロックは遠くから叫ぶ。
「余計なことするな…さっさと来い…!」
「待って、もう少しで抜けそうなのよ…!」
その時。
「あともう少し…あ…」
ボキッ…ボトン…
石像の槍を持つ腕が折れ、地面に落ちた。
トラウンの顔がみるみる青ざめる。
「あばばばば…」
どうしよう…どうしよう…
次の瞬間、トラウンは何かを閃き、右手を大きく横に振った。
【時空斬剣タイムスラッシャー!】
剣を召喚し、落ちた腕に剣先を当てる。
【タイムリバース!】
落ちた腕は宙に浮き、折れた断面にぴたりとくっついた。
割れ目は消え、元通りに戻る。
トラウンは剣をしまい、何事もなかったかのように下手な口笛を吹く。
「ヒュー…ヒュー…」
その一部始終を見ていたユーロックは、ジト目でトラウンを見つめる。
何やってんだ…あいつ…
それからしばらくして、三人は屋敷の中へ入った。
男はゆっくりと口を開く。
「これから君たちに働いてもらうに当たって正装に着替えてもらう…例のものを…」
召使いに命じる。
「かしこまりました…」
そして、召使いは服を三人に手渡し、廊下の奥を指さした。
「あちらの更衣室にてお着替えくださいませ…」
三人は引きつった表情を浮かべる。
「おい、これ着るのか…」
「これは…」
しばらくして、着替え終えた三人が横並びになる。
男は満足そうに頷いた。
「ブヒヒッ…やはり似合うと思ったが想像以上じゃわい…」
三人は不満げな表情を浮かべる。
「はぁー…」
ユーロックはため息をつく。
「この格好はちょっと…」
「なんで私たちがメイドにならなきゃいけないのよ…!」
トラウンが大声を上げる。
「なんかこのスカート丈短くない…」
ユエンは恥ずかしそうに裾を押さえた。
男は当然のように言い放つ。
「見てわかる通り、これからメイドとしてワシの身の回りの世話をしてもらう…」
「はぁー…やるしかねぇか…」
こうしてユーロックたちは不満を抱えつつも、この世界で活動するために我慢を決めた。
かくして三人は――貴族のメイドとして働くことになるのであった。




