剣の力
時を遅くされ、身動きができない二人のもとへ――少女がゆっくりと歩み寄ってくる。
「全然動けねぇ……」
身体が鉛のように重い。
それでもユエンは、わずかに動く指でダイヤルを回した。
【ロックバインド!】
地面を突き破り、隆起した岩が少女の足へ絡みつく。
それは瞬く間に脚部を覆い、がっしりと固定した。
しかし少女は動揺する様子もなく、剣に取り付けられた時計を見つめる。
――カチッ……カチッ……
無機質な音が、時を刻む。
やがて――カチンッ、と小さな金属音が鳴った。
その瞬間、時間の流れが元に戻り、二人の身体が一気に自由になる。
二人は勢い余って、よろめいた。
「動ける……?」
「ねぇ……ユーロック。彼女は能力を解除した素振りはなかった……」
「あぁ……おそらく能力には時間制限があるんだろうな……」
ユエンは眉を寄せ、思考を巡らせる。
――能力発動から解除まで、どのくらいだった……?
その間に、少女は剣で岩を砕き、再び構えを取った。
「また、能力が来るわ……!」
「あぁ……能力発動から解除までの時間を計る……」
次の瞬間、剣の刀身が赤く輝き、電子音が唸りを上げる。
【タイムスピード!】
少女の姿が掻き消える。
目にも止まらぬ速度で接近してきた。
ユエンは即座に槍を地面へ突き刺し、ダイヤルを回す。
【ボルケーノディフェンス!】
二人を囲うように、溶岩の壁が噴き上がる。
だが少女は、その壁へ高速の斬撃を叩き込んだ。
火花と溶岩の破片が飛び散る。
ユエンは槍を構えたまま、防御に徹し、能力解除の瞬間を待つ。
「まだ終わらないの……このままじゃ押し切られちゃう……」
溶岩が削れる音が、徐々に近づいてくる。
「まずい……来る……」
直後。
壁に穴が空き、溶岩を粉砕しながら少女が現れた。
――その瞬間、能力が切れる。
「はっ……! 解除された!」
二人はすかさず距離を取る。
ユエンは少女から目を離さず、呟いた。
「ユーロック……」
「あぁ……わかったぜ。能力発動から解除までの時間……」
「どのくらい……?」
「約一分ってところだな……多分、他の時間操作も同様に一分くらいだろう……」
その答えを聞きながら、ユエンの胸に新たな疑問が浮かぶ。
「ねぇ……なぜ彼女は時間停止をしなかったのかしら……?」
ユーロックは思考を巡らせる。
確かに――時間停止を連続して使えば、私たちはとっくに始末されていたはずだ。
それなのに、あいつは様々な能力を使い分けていた。
……何か引っかかる。
少女が再び距離を詰め、剣を振るう。
二人は回避しながら応戦する。
ユエンが槍で突きを放つが、あっさりと受け流された。
「くっ……全然当たらない……」
ユーロックは少女を観察し続ける。
――あいつは能力を一つずつ使っていた。
普通なら、手の内を晒さないため能力は絞るはずだ。
わざわざ見せる必要があったのか……?
いや――見せざるを得なかった?
一つずつ……順番に……
――そうか。
理解した瞬間、ユーロックが呟いた。
「なぁ、お前……一度使った時間能力は、もう使えないんだろ」
「えっ!」
ユエンが驚愕する。
少女はゆっくりと口を開いた。
「よくわかったわね……
私の時間操作は『止める』『飛ばす』『巻き戻す』『速くする』『遅くする』ことができる……」
少女は淡々と続ける。
「それぞれ発動時間は一分。順番も範囲も対象も自由に設定可能……
ただし、一つ能力を使うと残りの四つを使わない限り、同じ能力は使えない……」
ユーロックが問いかける。
「なぜ、教える……」
少女は感情のない声で答えた。
「知ったところで、あなた達は私に勝てない……」
その瞬間。
少女の姿が、消えた。
「何、いない……!」
「ユーロック、後ろ!」
ユーロックは即座にポータルを開き、瞬間移動で回避する。
重厚なライフルを構える。
ユエンも槍を構え、少女へ突進する。
少女は剣を地面へ突き立てた。
時計の針が回る音と電子音が鳴り響く。
【タイムスキップ!】
歯車が――ガコンッ――と重い音を立てる。
剣の時計は、能力解除までのカウントダウンを刻み始めた。
少女は時間軸から切り離された空間を歩く。
ユーロック達の動きは赤い軌跡を残し、ゆっくりと流れていた。
少女はそれを俯瞰しながら歩き、ユエンの背後へ回り込む。
電子音が鳴り――能力が解除される。
【タイムアウト!】
「ん!?」
「時間が飛んだ……!」
次の瞬間。
少女の刃がユエンの背中を切り裂いた。
鮮血が噴き出し、ユエンが倒れる。
「いつの間に……」
ユーロックが叫ぶ。
「ユエン……!」
ユーロックは眉を顰めた。
――まずい。ここは一旦引くか……
ユーロックは瀕死のユエンを抱え、ポータルで撤退した。
⸻
少女は無言で、その場を後にする。
しばらくして――暗殺組織のアジトへ帰還した。
扉を開けると、椅子に腰掛けた男が酒を飲んでいた。
「おかえり……トラウン。武器商人は始末した……?」
「はい……ですが部外者に顔を見られました……」
「珍しいね……トラウンは、いつも時間の中に隠れて暗殺するスタイルだから見られることはまずないと思うけどなぁ……」
「顔を見られたのは少女二人……どちらもワールドウェポンを持っていました……」
「ワールドウェポン? 本当かい……おかしいなぁ……」
ボスは首を傾げる。
――ワールドウェポンはトラウンの剣だけのはず……
だが彼女は嘘をつかない。
仮に所有者だとすれば、彼女が珍しくミスをしたのも納得がいく。
「なるほど……それで、その少女二人はどうしたのかな……?」
「始末する寸前まで追い込みましたが、逃がしてしまいました……」
「そうか……探し出して必ず始末しておいで……」
「了解です……」
トラウンはアジトを後にした。
⸻
部屋に残されたボスが、独り呟く。
「彼女を拾ったのは……いつぐらいになるか……」
⸻
――少女の過去。
奴隷市場から逃げ出し、狭い路地裏で座り込んでいた少女。
通りかかったボスは彼女をアジトへ連れ帰った。
しばらくして、ボスは彼女を武器庫へ案内する。
そこには数多のアビリティウェポンが並んでいた。
しかし――
少女の視線は、ある一点で止まる。
ガラスケースの中に収められた一本の剣。
少女は好奇心のまま手に取った。
剣が赤く輝く。
その光は指輪となり、少女の指にはまった。
それを見たボスは、驚きながらも笑みを浮かべていた。
その後、彼女は暗殺任務に就かされた。
だが当初は恐怖に怯え、任務を遂行できなかった。
――しかし。
ある時を境に。
彼女は、感情を捨てたかのように暗殺をこなすようになった。
⸻
そして今。
トラウンはユーロック達を探し出すため、夜の街を駆けていた。
トラウンによって戦闘不能に追い込まれたユエン。
果たして――ユーロック達は彼女に勝てるのだろうか。




