街の暗殺者
蒸気機関車の中に入ると、床には赤いカーペットが敷かれ、整然と座席が並んでいた。
「どこに座る…?」
「私は景色が見たいから窓際に座る…」
二人が座席に腰をかけると、汽笛の音が高らかに鳴り響いた。
やがて車輪の回転音とともに、蒸気機関車はゆっくりと走り出す。
「すごーい!速いね!」
「速いな…」
蒸気機関車は高い橋を走り、街並みを一望できた。
――いい眺めだ…。風も気持ちがいいな…。
しばらくすると、カートを引きながら廊下を歩く販売人が現れ、ユエンに声をかけた。
「お飲み物はいかがですか?」
――ちょうど喉が乾いてたし、いいかも…。
「それでは一本頂いてもいいですか?」
販売人はカートから瓶ボトルを取り出す。
パキン!と軽快な音を立てて栓を抜くと、ユエンに手渡した。
「こちらオレンジジュースになります。」
「ありがとうございます…」
「お隣の方もいかがですか?」
ユーロックは窓枠に肘をつき、外を眺めながら呟く。
「水…」
「ちょっと…ちゃんと相手を見て答えなさいよ…!失礼でしょ!」
販売人はカートから水を取り出すと、ユエンがそれを受け取り軽く会釈した。
「すみません、ありがとうございます…」
販売人は会釈をして去っていった。
ユエンは少し怒った様子でユーロックに水を渡す。
「はい、水よ…」
ユーロックは何も言わずボトルを手に取ると、外を眺めながら口をつけた。
「あなた、さっきの態度はないんじゃない…。前々から思ってたけど、無愛想になりやすいとしても、お礼の一つでも言ったらどうなの?」
ユーロックは景色を眺めたまま、上の空のように答えた。
「あぁ…」
ユエンは頭を押さえながら、深くため息をつく。
「はぁ…全く…」
しばらくすると――。
前の車両からざわついた声が聞こえてきた。
「きゃぁぁぁ!」
突然の悲鳴に、二人は同時に立ち上がり、声のする方へと向かう。
青ざめ、怯えた顔で尻もちをついている女性に、ユーロックが声をかけた。
「おい、何があった…」
女性は震えた声で呟く。
「隣に座っていた人が、突然私にもたれかかってきたから声をかけたら……死んでいたの…」
駆けつけた駅員が死体を確認し、呟いた。
「これは…他殺…?」
ユエンが後ろを振り返ると、奥の車両へ逃げる人影を見つけた。
「あなた、待ちなさい!」
フード付きのマントを羽織った人影は、懐から拳銃を取り出す。
「あれはアビリティウェポン!」
ユエンはすかさず武器を召喚した。
【属性司鉾エレメンタルストライカー!】
人影は銃を床へ発砲した。
次の瞬間、淡い煙が車内全体に広がる。
――何かまずい…。
危険を察したユエンは咄嗟に口を押さえたが、煙を吸い込んでしまう。
「一体何が…」
――あれ、突然眠気が…。
煙を吸った乗客たちは、その場で次々と眠りに落ちていった。
――今のうちに逃げるか…。
人影が逃げようとした、そのとき。
驚愕の声が漏れる。
「なんでお前眠ってないんだ…?」
目の前には、ユーロックが立っていた。
「その煙、怪しいと思ってつけてるマフラーで思いっきり口を抑えて正解だったな。」
ユーロックは嘲るように言い放つ。
「まさか眠らせる能力とはな…。まぁ武器を使えない場所で民間人を殺すやつだ…お前にちょうどいい卑怯な技だな…」
「黙れ…!」
――どうする…大事になってしまった…。あいつを始末して逃げるか…。
男はユーロックに向けて発砲した。
「喰らえ!」
ユーロックは弾丸の着弾地点を瞬時に見極める。
ポータルを展開し、弾丸を飲み込ませた。
男はその光景に驚愕する。
「な、何!?」
次の瞬間、ポータルが男の目の前に出現した。
弾丸はそのまま人影の足へと着弾する。
「グハッ…!」
ユーロックは嘲りながら呟いた。
「私の本業はガンマンだ…銃撃戦で勝てるとでも思ったのかよ…」
男は足を押さえ、苦しげに言葉を吐く。
「ガ、ガンマン?なんだそれは…!」
ユーロックはゆっくりと近づき、フードをめくる。
「どんな顔かと思ったら、しみったれたおっさんの顔とはな…」
「しみったれたとはなんだ!失礼なやつだな!」
ユーロックは男の額に銃口を押し付けた。
「まぁいい…。お前、見るからに怪しい。なんか知ってる情報吐け…」
男は睨み返す。
「くっ…」
そのとき、ユーロックは何か視線を感じ、外へ目を向けた。
視線の先――時計塔の天辺に、剣を持った人影が立っていた。
――なんだアイツ…。
次の瞬間、人影は一瞬で姿を消した。
――は?消えた…!
――まぁいい…とりあえず…こいつを…。
「んッ!?」
視線を戻すと、男の姿は消えていた。
「居なくなってる…全く気づかなかった…。一体なんだったんだ…」
すると、頭を押さえながらユエンが立ち上がる。
「んー…あれ、私寝てた…。は!さっきの敵は!?」
「さっき逃げられた…」
「そう…」
しばらくすると、周囲の乗客も目を覚まし、二人は目的地へと辿り着いた。
後に分かったことだが、車内で殺された人物は、有名な武器物流会社の社長だったらしい。
「噂について聞きに行きましょ…」
「そうだな…」
レストランや大通りなど、人が多い場所で聞き込みを行ったが、有力な情報は得られなかった。
「これだけ聞いても、さっきの街で聞いたのと変わらないわ…」
「路地裏とかはどうだ…?」
「なんでそんな人が少なそうな所に行くの?」
「逆に人が少ないからいいんだ…」
「どうして…?」
「話している感じ、一般人はワールドウェポンのことをあまり知らない…。多分だが、裏の社会の人間なら分かるかもしれない…」
「なるほど…」
二人は路地裏へ向かった。
そこにはホームレスや、ガラの悪い人間たちがたむろしていた。
「なんかここ怖いわね…」
「狼狽えるな…舐められるぞ…」
「だ、だって…」
ユーロックは近くの男に声をかける。
「おい、少し話したいことがある。」
男は如何にも怪しい風貌をしていた。
「なんだ?薬が欲しいのか…今回いい品が入ってなぁ…」
「いや、薬はいらん…」
男は手を外側に弾くように振った。
「あーそうかい、じゃああっちに行きな…」
「情報が欲しい…ワールドウェポンについて…」
「ワールドウェポン?それは知らねぇが、ここで情報収集するのはおすすめしないぜ…」
「なんでだ…」
男は小声で言った。
「知らないのか?この街には暗殺者の組織が存在するんだ…」
「暗殺者…?」
「依頼があると誰だろうと殺すヤバいやつらだ…。中にはその組織を探ろうとして始末されたヤツもいるらしいぜ…」
「そうか…この街のことはだいたい知れた…」
ユーロックはポケットから通貨を取り出した。
「とりあえず…これは情報料だ…。邪魔したな…」
「おう…またな無愛想な嬢ちゃん…!」
男は手を振りながら通貨を見つめ、ニヤついた。
――これ、30もあるぞ…美味い飯が食えそうだ…。
二人は路地裏を抜け、昼食を取るためレストランへと向かった。
――その頃。
剣を持った人影が、男を引きずるようにして部屋へ連れてきた。
乱暴に放り投げる。
「連れてきました…」
男は人影を睨みつける。
「お前、痛えじゃねぇか!」
部屋のソファに座っていた男が静かに言った。
「ご苦労…」
そして、連れてこられた男に視線を向ける。
「さて、君は顔を見られたんだって?」
「ボス、何故それを…!?」
「彼女から聞いたんだよ…。君が顔を見られたから、能力を使って逃がしたって…」
男は少女へ怒鳴る。
「お前、なんで言った!」
ボスは薄く笑う。
「我々の情報を言わなかったのは偉いと思うが…君の顔が割れてしまった以上、生かすわけにはいかない…」
ボスは煙草を吸い、少女へ視線を向けた。
「始末しろ…」
少女は冷酷な表情で剣を振り上げる。
「ま、待て!待ってくれ!やめて、やめろー!
うぁぁぁ!」
断末魔とともに剣は男の首を切り落とした。
少女が血振りをすると、剣は赤く光り、指輪へと吸い込まれていく。
暗殺者の組織が存在することを知ったユーロック達。
この街の闇の片鱗に触れた彼女らに、待ち受けているものとは――。




