09 娘は規格外過ぎた
剣の型をゆっくり確かめながら体を動かす。それだけなのに息が上がる。
(焦るな…焦るな…)
自分に言い聞かせながら剣を振っていると、俺の後ろの方で木々の揺れる音がした。
《ガサガサ、ガサガサ》
誰かが来たのかと身構えると、木の間から顔を出したのは一匹のゴブリンだった。
どうやら群れからはぐれたようだ。
俺の存在に気づくと、「グギャギャギャ!」と鳴き声を上げながら、突進してきてしまった。
昔の俺なら気にもしないぐらいの小物だが、今の俺はどうだろう…。
テントにはエレナがいるし、逃げる選択肢は無いな。
俺はヨシッと気合いを入れて、剣を今一度握り直す。
ススッと間合いを詰めて、そのまま喉元をブスリと突き刺した。
自分で思っていた以上に体が動いた。
剣を引き抜き、声も出さずに倒れていくゴブリンを見る。
剣先に着いた血を振り払い、鞘に納めた。チン、と音が鳴り、初めて息を吐く。
緊張した。
たかがゴブリン相手に、物凄く緊張してしまった。
手が少し震えている。(うわぁ〜、ゴブリン如きに緊張したー!恥ずかしぃー!)
イヤ、落ちつけ俺。何でも無い顔をしろっ!
自分で自分を叱咤して、誰も見ていない事を確認して取り繕う。
コイツどうしようかな?取れる素材なんて魔石だけだし。顎に手を当てて考えた。
エレナにちょっと見せてから燃やすか。
うん。そうしよう。
そろそろエレナを起こして帰ろうか。
◆◇◆◇◆◇
鍋に水を入れお茶を沸かし、一息つく。
もう夕暮れが近かった。
「エレナ、そろそろ帰るぞ」ムニャムニャ言いながら起きてきた。
お茶を渡して、菓子を食べさせる。
モグモグ食べているエレナに「アレ見てみ?」と指を指すと、エレナが固まった。
「なんでしゅか… アレ…」顔色が悪くなってしまった。
「アレ、ゴブリンデス」ごめん。気持ち悪かったよね。脅かすつもりは毛頭無く…と思っていたら「ひょ〜〜!本物ですか!?すご〜〜い!!」エレナの目が瞠る。
アラ〜?ふぅ~助かった。喜んで頂けたようで。また言葉が… まいっか。
エレナは手を叩きながら、側に寄ってマジマジとゴブリンを見ている。
エレナさん、興奮し過ぎですよ。
「ゴブリンは魔石ぐらいしか取れないから、見てろよ」俺がナイフで胸を突き、肉を開いて魔石を取り出す。水で血を洗い流し、手の平に乗せてよく見せてやる。
エレナの瞳がキラキラしている。
魔石は小指の爪ぐらいの大きさしか無いから、価値が無いんだよな。
小さな手に魔石を乗せてやると、ニコニコと嬉しそうだ。
「やるよ。金にはならないけど」エレナはウンウンと頭を振りつつ、手にある魔石をジーっと見ていた。
大事そうにそっとポーチに仕舞った。
「ありがちょごじゃいましゅ」とエレナが丁寧に頭を下げた。
「どういたしまして」俺も左手を胸に当て、片膝をつき頭を下げた。
二人で顔を見合わせて、ふふふと笑い合う。なんかいいな、こういうの。
「じゃあ片付けて帰ろうか。エレナ、このゴブリン燃やしてくれるか?」俺を見上げながら、目が全開に開いた。
「火球出せるか?燃やすか土に埋めないと、他の魔物が寄って来るんだよ」俺はエレナの目を見て気軽に頼んでいた。
「分かりまちた。やってみましゅ」
少しゴブリンから離れて、フンッと気合いを入れたエレナは、両手を前に出し“火球”と小さな声で呟いた。
俺はエレナの後ろに立って見ていた。
すると………
濃密な魔力が溢れ出し、直径1mぐらいの火球が勢いよくゴブリンにぶつかり、ドゴンッと音がして爆ぜた。
ゴブリンは粉々になり、風圧が木々を揺らし、俺達は二人とも吹っ飛ばされた。
後ろにゴロゴロ転がりながら、俺はエレナをどうにか捕まえた。
「エレナっ?大丈夫か!?」エレナは目を回したらしく、放心状態だった。
慌てて周りを見て安堵する。森は燃えていなかった。俺達にも怪我は無い。汚れただけだ。
「ハァ〜…、エレナさん、やり過ぎです」つい、ジッとエレナを見つめてしまった。
まだ目を回しているのか何も反応が無い。
そのまま抱き上げて、もう一度周りを見渡す。
遠くで人の声がするような…?マズい、こっちに誰か来そうだな。
俺は荷物を素早く片付けて、その場を離れた。反省は後だ。
小走りに走って森を抜け、何気ない顔をして街に戻った。
◆◇◆◇◆◇
ギルドに戻って薬草を換金して、部屋に行く。
「森で何かありませんでしたか?」ふいに受付嬢から聞かれて、「いや〜、知らないよ?」と答えてしまった。
知りませんよ?ホントに…土埃だらけでも、自分達は知りません。
宿舎は三階建てで、俺達の部屋は三階の一番奥だった。(めんどくせ〜。嫌がらせかよ…)
子供を抱えて三階まで登らせるなんて、あの受付分かっててやったのか?
ちょっと文句でも言ってこようかと思ったけど、エレナの顔を見て一先ず止めておく事にした。
エレナが俺の腕の中で、プルプル小刻みに震えながら泣いていたからだ。
誰にも見つからないようにと焦っていたせいもあり、エレナを気遣うことなく戻って来てしまった。
気配察知しながら帰って来れば良かったんだろうけど、何年も魔法を使わないでいたもんで、すっかり忘れていたんだよな。生活魔法も使わなかったもんな〜。
父親失格だなぁ〜。新米なもんで、すんません…。エレナに偉そうに言う資格が無いね…
俺は、背中をトントン叩いてあやしながら「どうした?怖かったか?急いでいたから悪かったなぁー」
「ちがいましゅ、グスッ、ちゅいましぇん、グスッ、ヒック、あんにゃに、威力がありゅと、おもわなくちぇ…ヒック、ごめんなちゃ〜い、うわぁ~~~ん!!」俺の服を掴みながらエレナが大号泣だ。
「まぁまぁ、慣れるまで気を付けるしかないよ。大丈夫、大丈夫」
しばらく泣き続けるエレナをあやしながら部屋を浄化で綺麗にし、ベッドに座って背中をひたすらトントン叩いていたら、泣き疲れて眠ってしまった。
夕飯を食べさせたかったが、今日は諦めてこのまま寝かせておこう。
俺も久しぶりに剣を振ったから、明日は筋肉痛だろうなぁ…。
俺も、このまま寝てしまおう。
自分とエレナに浄化を掛けて、寝衣に着替えた。
エレナのローブと服を脱がせて寝衣に着替えさせたんだけど、後で怒るかな?
ベッドが狭いけど、エレナの隣に入り込む。毛布もう一枚出して掛けておこう。
俺も疲れたよ… おやすみ。




