08 森に行ってみた
俺は武器屋を見つけて、採取用のナイフと長剣を買った。金貨一枚。
しばらくはこの剣でやるしかない。鋼で出来ているし、鉄よりも良い物だし。
昔使ってた、我が家の家宝のミスリルの細剣。あの戦争中に折れて、ヤケになって投げ捨てたんだよな。
今だったら馬鹿な事をしたって思うけど、あの頃はもう二度、剣を持つことは無いと思っていたからな…
父上や兄上に悪い事をしてしまったな…。ごめん… 本当に……
腕にいるエレナの存在を思い出し話しかける。
「ギルドの宿舎に十日程泊まれる。もし嫌になったらすぐ引き払うから言ってくれ。食事はギルドの中の酒場でも良いし、外に行っても良いぞ。好きな方を選べ」
エレナは少し考えながら“なるべく部屋で食べたい”と言う。
「分かった。外で買って部屋で食べような」多分、人前に出たくないんだろうな。
これから大丈夫だろうか。
俺がちゃんと守るよ。
エレナを安心させようと、背中をポンポン叩いた。
◆◇◆◇◆◇
「調理器具とかも買ったから、共同キッチンで料理作ってもいいぞ。俺、簡単な物しか作れないけどな」そっちの方がいいか。スープをよく煮込めばエレナも食べやすくなるし。
「わたち、りょうりしゅき」声が弾んだぞ?
「へぇ~そうなのか?調味料も揃えるか?他に必要な物はあるか?」エレナはキョロキョロ見渡しながら、何かを探しているようだ。
「何だ?何か欲しいのか?」エレナの目線を追ってみる。
「お米ちゃべちゃい…」と独り言のように言った。
「オコメ?なんだオコメって」エレナが不思議そうな顔で俺を見た。
「白いツブツブの穀物です。湿地帯に生育する物で、私の世界での主食でした。この世界にもあるってあの女神が言っていたのですが…」あー、エレナさん?スラスラ話していますが…。
「急にどうした?言葉が滑らかだぞ?」驚きのあまり立ち止まっちまったじゃねーか。
「ありぇ?なじぇでしょう…」もう戻った。まぁいいか。考えても仕方ない。
◆◇◆◇◆◇
街の西門から出てすぐ側の森に入った。冒険者らしき奴らの姿が見える。
もう少し森の奥の離れた場所に行こう。
エレナを降ろし、薬草を採る。
一つ一つエレナに教えていたら、“鑑定が使える”と言った。早く言ってよ…
「人に使う時は気を付けろよ。バレると面倒な事になる時があるぞ」俺の警告を、エレナはコクコク頷いて聞いていた。
陽がだいぶ昇ったし、野外活動に慣れる為にも、薪を拾って昼飯作るか。
◆◇◆◇◆◇
少し開けた場所まで移動して、石で簡易カマドを作る。
薪を集めるようエレナに告げて、俺は鍋やら食器やらをマジックバッグから出していく。
買っておいたスープを鍋に移してカマドに乗せて、後は火を点けて…と思ったらエレナが側にいなかった。
焦って見回しても姿が無い。
気配察知をしてみたら、20m程離れた所にいるようだった。何でそんな所に…
慌てて追いかけると、小枝で何かを突っついていた。
「エレナっ!何してる?側から離れるなよっ!」驚いて振り返ったエレナの足元には、スライムがいた。
「ごめんにゃしゃい…」俯いてローブを掴んじゃいるが、、チラチラとスライムを見ている。
「黙って離れるな。ここはまだ浅い所だから強い魔物はいないが、お前を簡単に拐える人間が沢山いるんだぞ!分かったかっ!」
「はい…、気をちゅけましゅ…」目に涙を浮かべて俺を伺い見てやがる。
部下を叱るような口調で言ってしまったが、これもエレナの為だ。うん。
「ハァ〜、それでどうしたんだ?」腰に手を当てて、上から覗き込むようにエレナを見た。
すると「初めてスライムを見たので…」とスラスラ答えた。
「本当に異世界に来たんだなぁと思ったら、感慨深くなりまして…」また言葉が戻ってるし。
今回は見逃してやるか。
エレナを抱き上げスライムから離れる。
「スライムは何でも溶かしてしまうから、あんまり側に近づくな。向こうからは攻撃して来ないが、こっちから仕掛けると酸が飛んで来るぞ」俺の注意を、エレナは目を見開いて口を大きく開けて、ちょっと感動しているように見えるんだけど…?
前の世界には魔物がいなかったって言ってたからな〜。珍しいのは分かったが、危機管理が足りん。
「いいか。俺の言う事を聞くように。森の中では黙って離れない。やりたい事がある時は口に出して、言葉で言うこと。今の俺では、離れたお前を守れる程の力は無いからな。分かったか?」エレナの目を見て懇々と諭す。
さすがに反省したらしい。俺の目を見ながら小さな声で「ごめんにゃしゃい」と言った。
頭をグシャグシャ撫でて、説教は終わり。
昼飯の準備に戻る。
◆◇◆◇◆◇
薪を二人で拾って、火を点けようか。
俺の人差し指に小さく灯る火を見て、エレナの目が輝く。
「指先に少しだけ魔力を集めて、火を思い浮かべるんだ。やってみな?」
エレナが小さな指を出して、ウンウン呻っている。それを横目で見ながらスープを煮込む。
「あっ」と小さな声が聞こえてきたから「もう成功したか?」と振り返ると、エレナの指先から2m程の火柱が轟々と立っていた。
「おいっ!消せ消せっ!」
エレナは光の消えた目で俺を見る。消し方が分からないのか…クソ女神め、教えておけよっ!
「魔力を止めろ」エレナの目を見て冷静に声を掛ける。
エレナの虚ろな顔に力が戻る。パシュッと音がして、火が消えた。
この子、思いっきり規格外。魔力制御覚えさせないと。
はぁ〜、と二人して溜息をついてしまった。
また怒られると思ったのだろう。エレナがビクビクしている。
「ちょっと大きかったけど、ちゃんと火が出たな。偉いぞ」頭をポンポン撫でてやる。俺は怒らず褒めてやる。
この子はきっと、褒めた方が良い気がする。俺なりの教育方針だな。
「魔力を出す量を調節しないとな。これから練習して覚えればいいさ。さぁ、飯にしよう」熱々のスープにパンを千切って入れてやる。かなり煮込んだから、肉も柔らかくなってるぞ。
いっばい食べろよ。
◆◇◆◇◆◇
昼食後、エレナはお昼寝に入ってしまった。
買った中古テントをマジックバッグから出して、早速使ってみる。所々穴が空いているけどしょうがない。
テントにエレナを寝かせて、毛布を掛けてやる。
さて、俺はどうしようか。剣の素振りでもしようかな。
腰に差した剣を抜き、両手で握る。久しぶりだなぁ…。
上段から振り下ろしたら、体がよろけてしまった。たったこれだけでよろけるなんて、情けない。
足を踏ん張りもう一度。ムキになって何度も振り下ろしていたら、息が切れた。
ハァー、ハァーと息を吐きながら、顔に流れる汗を、服の袖で拭う。
「こりゃ、走り込みもしないと不味いな」筋トレも毎日やらないと。
エレナに焦らないように言っておいて、俺の方がめちゃくちゃ焦っているじゃねーか。
ふぅ〜。昔の鍛錬思い出せ。あいつらと毎日やっていた事を。




