07 ギルドの宿舎に引越した
翌日、朝日が昇り俺達は宿を出た。
女将に「お世話になりました。娘の服もありがとうございました」そう言って出ようとしたら、呼び止められてしまった。
「良かったらまた泊まりに来てちょうだい。『草原の小兎亭』の名前を忘れないでね」そう言いながら紙袋を差し出された。
「コレは?」
「朝食用にサンドイッチ作ったから、持って行ってよ。サービスだよ」と手渡された。
「あの…、それはありがとうございます…」この女将は…ハハッ参った。
俺は改めて頭を下げた。腕に抱いていたエレナは目を見開いている。
他人の善意にはちゃんと答えないとね。
「いつかまた、金を貯めて泊まりに来ます」
ローブを被り直し、俺達は宿を後にした。
◆◇◆◇◆◇
まずはギルドに行って依頼を受けよう。
薬草採取とか、街中の雑用しか無いけど仕方ない。
森に行きたいし、魔物も狩りたい。魔石が取れれば一番良い。
一人でウンウン唸りながら、ギルドを目指した。
腕にいるエレナは街の中が珍しいのか、ずーっとキョロキョロしていて瞳が輝いている。
この子、肉付きが良くなったら相当可愛いくなるだろうから気を付けないと。
「エレナ、顔はなるべく隠せ。お前は目立つ。厄介な奴らに目を付けられるぞ」エレナは俺を見上げながら、渋々といったふうにローブのフードを目深に被った。
「お前気配察知できるか?」何ソレ?といった顔をするので教えてやる。
「魔力を薄く伸ばして、人の気配を感じるんだ。出来るようになると、広範囲を探れるようになる。慣れると、お前に対して敵意を持つ者が分かるようになるぞ」エレナは目を瞠って何度も頷いている。
これが出来るようになれば、一つ心配事が減るな。
「そう言えば、お前はどんな魔法が使えるんだ?」
エレナは「女神にょ所で基本的なこちょはおしょわりまちた。初級はじぇんぶちゅかえましゅ」と答えた。
えっ?全部?
「全部って何?」俺には分からんぞ。
「しゃあ〜、分かりましぇん。もう教えりゅこちょは無いって追い出しゃれまちた」クソ女神、どうしようもねぇ〜な。
「じゃあ、森に入った時にでも確かめよう。生活魔法は出来るか?」またエレナに何ソレ?みたいな顔をされた。
「自分に浄化掛けられるか?ランプに火を点けるとか」
「しゅいましぇん、ちらないでしゅ…」エレナの声がちっちゃくなっていく。
「大丈夫、俺が教えてやるよ。覚えて損は無いぞ。風呂入らずだし、火打ち石もいらないし。便利だぞ?」エレナの目がまた輝いた。
クソ女神め。教えるならまずソッチからだろうが。
◆◇◆◇◆◇
途中の公園で、女将に貰ったサンドイッチを食べた。
肉と野菜が挟んであった。
エレナは頑張って食べていたけど、一切れで止めていた。肉が固いみたいだな。
この子の食べられる物を探さないと。
マジックバッグに入っている菓子と果実水を出してやると、嬉しそうに手に取った。
ついでにギルドカードを出して見せてやる。
「俺の名前は『ガス』になったからな。間違えるなよ」俺の名前の部分と裏側も見せてやる。
「家族欄にエレナの名前があるだろう?ここに名前があると、他の街や国に出入り出来るんだ。誰かに父親の名前を聞かれたら、ガスって答えろよ」
エレナはコクコク頷いた。
「そろそろ行こうか」俺達はギルドに向かって足を進める。
今度は手を繋いで歩いてみた。
エレナの足元は覚束ないが、ヨチヨチ一生懸命に歩いている。
なんだか楽しそうだな。
顔を上げて、またキョロキョロ周りを見ながら歩いてるよ。
俺は周囲を警戒しながら歩いた。
◆◇◆◇◆◇
だいぶゆっくり歩いて来たから、ギルドの中はかなり空いていた。
エレナを抱っこして依頼を見ると、やっぱり薬草採取ぐらいしか無い。
常時出てる依頼だから、森に行ったついでに取ってくればいいか。
う〜ん。宿どうすっかなぁ〜。
ギルドの宿舎もあるんだけど、あまり使いたくないんだよなぁ〜。警備が甘いんだよなぁ〜。エレナもいるし、宿舎は安いけど他を探そうか…。
一人で悩んでいたら、エレナに服を引っ張られた。
「んっ?」と顔を向けると小さな声で“結界が張れるので心配いらない”と言われた。
えっ!!結界張れるの!?それに俺、声に出してた?ちょっと恥ずかしい…。
「ギルドの宿舎で良いのか?風呂付いてないし、トイレも共同だぞ?壁も薄いし、狭いし、冒険者ってのは荒っぽい奴ばっかりだから、お前が心配なんだよ?」エレナがキリッとした顔をして、親指をビシッと立てた。
何ソレ?えっ大丈夫って意味なの?あ、そう……
「じゃあ、受付して来るから待っててな」エレナを椅子に座らせて、受付嬢に話しかけた。
昨日と違う子だったから、カードを見せて部屋を借りる手続きをする。十日で金貨一枚。
俺、薬草採取がんばらないと。
部屋の鍵を貰ってエレナを見たら、やっぱり男共に絡まれていた。
その中でも、図体が熊みたいなデカさの大男が話し掛けている。「お嬢ちゃん一人?迷子か?親はどうした?」
おっと、抱き上げられそうになってるゾ。
自分でどうにかするかと思って見ていたが、驚いて固まっているような…
ヤレヤレ。頭を掻きながらエレナの回収に向かう。
「すまん、ウチの娘だ」俺が声をかけたら、エレナが一番びっくりしていた。
何で!?
「おう、そうか。こんなちっせーのが一人でいるからどうしたのかと思ってな。気を付けねーと、こんな可愛い子拐われちまうぞ?」大男が振り返り俺を見た。
「申し訳ない。これからは気を付けるよ」
◆◇◆◇◆◇
エレナを抱っこして、俺は素早く逃げようと思ったのに大男に捕まってしまった。
「俺はギルド長をしているマックスだ。よろしくな」と、手を出して来た。
うえっギルド長かよ。マズったなぁ〜。右手を出されているから、挨拶しなきゃ駄目だよな。
「どうも、ガスと言います。それと娘のエレナです」俺も手を出し握手をした。
ふ〜ん、と言いながら顎に手を当てて、ギルド長に上から下までジロジロ見られる。
ア、アヤシマレテル…?
「そっか、お前さんか。昇級試験受けるか?」えーっ、そこまでバレてんの?
「イヤイヤ、しばらく剣を振ってなかったので、勘を取り戻してからにします」苦笑いして後ずさった。
「うん、良い心掛けだ。無理せず着実にランクを上げていくんだぞ♡」何故か俺にウィンクされたんだけど…
「ハハハ…、ありがとうございます…」ここは逃げの一手だ!
そそくさとエレナを連れてギルドを出た。
ふぅ〜、危なかった。俺の額から冷や汗が流れ落ちた。




