06 俺達は父娘だ
一旦宿に戻って、エレナをベッドに寝かせた。心配だったが、置いて行くしかなかったんだよ。
俺はもう一度外に出て、旅に必要な物を揃えていった。エレナが欲しがった果実水と菓子もだ。
食料も色々買った。武器も買わなきゃな。あー、まだまだ必要な物が多過ぎる。
これだけ派手に金を使ったから、移動しないと本格的にマズい。
諸々済ませて宿に戻った時は、もう夕飯の時間だった。
エレナはよく眠っていたが、起こして食事をさせなければ。
「エレナ、起きろ」ムニュムニュ言いながら、やっと起きてきた。
「食事に行こう。ちゃんと食べないとダメだぞ」俺、父親っぽい?
二人で動くのだから、ちゃんと設定を考えて用心しないとな。
“俺”だって帝国の奴らにバレたら、即襲って来るだろう…。
◆◇◆◇◆◇
食堂の席に、女将が俺達の夕飯を持ってきてくれた。
今日もスープとパンと、エレナに果物を付けてくれている。
エレナが女将にニコッと愛想笑いをして、頭を少しだけ下げた。
女将が離れた隙に、エレナと話をしよう。
「後で話があるんだが、構わないか?」エレナはスープに入っている肉を俺の器に移しながら、少し不思議そうな顔をしている。
何で入れてんの?肉嫌いなの?あー、固くて噛み切れなかったのね。ハイハイ…
やっぱり俺って父親じゃん。よしよし。
エレナの器にパンを千切って入れてやる。
しばらく食事介助風を装って、攻防戦を繰り広げた。
俺は勝った。
エレナに、ほぐした肉の欠片を食わせる事に成功したのだった。
エレナは不貞腐れているが、ちゃんと食べないとね。好き嫌いは駄目だぞ。
昨日は綺麗に食ってたよね?あー、分かった。コイツ、空間収納に放り投げたな?そのまま置いておけば良かったのに。
「昨日の串焼肉どうした?」少し声を低くしてジロリと見てやる。
エレナのビクッと肩を揺らすところを見ると、当たりだな。
「昨日、全部食べたんじゃないのか?」ちょっと問い詰めようか。
エレナは首を小さく振って「ちゃべてましぇん、チュープ飲んだだけ…」俺ガックリ…。
「早く言ってくれよ。それじゃあ栄養が足りなさ過ぎる。女将に言ってミルク粥作ってもらおうか?」俺に何でも言ってくれよ。
「いいえ、コレちゃべましゅ」と、エレナは気合いを入れた。
がんばれ。うん。
◆◇◆◇◆◇
部屋に戻ってシャワーを浴びてから、これからの予定を話し合う。
「あのな、まず俺達は親子として一緒に行動しようと思う。どうだ?」
エレナは、少し眉間にシワを寄せて考えている。
「ユリウシュしゃん、おいくちゅでしゅか?」エレナが首を傾げて聞いてきた。
「俺?26歳だけど?もっと老けて見える?」まぁ、髪ボサボサ、体ボロボロ、ガリガリ、シワシワ…。
あれっ?ちょっとヤバいか?
「しょんなにお若いにょにいいにょでしゅか?ゴブ付きになっちゃらモテまちぇんよ?」
そっちかよっ!!
「それは気にしなくていい。俺達はやる事が決まっているだろ?色恋は邪魔なだけだ。それと、俺は帝国軍に見つかるとマズいんだ。だから、お前を娘として連れ歩くのは都合が良いんだよ」エレナを見ると、何度も頷きながら聞いている。
「だから、これからは父上とかお父様とか、人前ではそう呼ぶように」俺は人差し指をエレナの顔の前に突き出し、少し強めに言い放つ。
途端にイヤそうな顔をしているけど、ここは譲れないからな。
「ふー、分かりまちた…。はじゅかちいけどちかたにゃい」エレナが項垂れた。
「ちちうえ?おとーしゃま?うえっきもちわりゅい……」何かぶつぶつ独り言を言っているけど、大丈夫か?
俯いていた顔を上げてエレナは「おとーしゃんでいいでしゅか?」と聞いてきた。
ん~~、そうだなぁ。貴族じゃないんだから普通はそんなもんか?
昔の癖が抜けない俺からしたら、お父さんの方がくすぐったいのたが…。まいっか。
「お父さんでいいぞ」そう言って頭をポンポン撫でてやると、パシッと払い除けられる。
くくくっと笑いながらエレナを見ると、顔が赤くなっていた。照れる3歳児。可愛いなぁ〜。
◆◇◆◇◆◇
「それと、だいぶこの辺りで金を使ってしまった為、そろそろヤバい奴らに目を付けられそうなんだ。だから予定通り、明日この宿を出ようと思うんだがどうだ?」
エレナは頭をウンウンと動かした。
「じゃあ、一先ずこの宿を出よう。俺も体力が戻ってないし、お前もキツいだろ?違う宿を探そうな?冒険者にもなったから、依頼を受けて金を稼がないと」
「お金にゃら、あにょ袋にいちゅも入ってましゅよ?」エレナは当たり前のように告げる。
うん。多分そうだとは思ってたけど、そこに頼るのは駄目なんだよ。
「金も稼がず、ずっと食っちゃ寝してたら怪しまれるだろ?修業はどうした?」俺がニヤリと笑ってエレナを見やると、ハッとした顔をした。
本当に分かっているのか?
「人目に付かない所でやらないとならないし、俺は森の中で野宿も出来るけど、お前はどうなんだ?」
途端にエレナは泣きそうな顔になってしまった。「野宿はイヤでしゅ……」だよなぁ〜。
「なら、俺の言う事を聞けよ。しばらくは此処より粗末な宿にはなるが、稼げるようになればもっと良い所に泊まれるから。それまでは我慢だな」エレナはガックリ項垂れているが、父ちゃんがんばるから任せろっ!
「お前からは何かあるか?」
「わたちはユリウシュしゃんが依頼を受けていりゅ間、どうにゃりゅにょでしゅか?」
「ちゃんと一緒に連れて行くよ。宿に置いて行けないし、少しでも体を動かすことで体力も戻るしな。覚える事がいっばいあるぞ!覚悟しておけっ!」なるべく朗らかに宣言した。
俺、父親っぽい。フフン。
「あと、お父さん、な?」
エレナが恥ずかしそうに俯いたまま「おとーしゃん…」と言った。
そのうち俺の目を見て言ってくれるだろうよ。
◆◇◆◇◆◇
今いる国はマルタリカ王国。ダンジョンが沢山あることもあり、冒険者が多数活動している。
俺達には好都合だ。
ここロッカの街は、国境でもある事から、いろんな種族が出入りしている。
もちろん、帝国の兵士もね。
だからこそ、同じ場所に居続けるのは得策ではない。
冒険者は流れて行くものだ。
いずれ帝国を潰すにしても、今は無理だしな。
時間がいる。
俺にもエレナにも。
今一度、自分達のやるべき事を腹に決め、心に刻む。
絶対に赦さない…帝国も勇者も。
「もう寝ようか」エレナに声を掛けて昨日と同じくベッドに入った。
明日も晴れるといいな。おやすみ。




