04 娘は頑固だった
だいぶ陽が落ちた。俺は部屋のランプに火を点ける。夕飯食い損ねたな。
「なぁ、腹は減ってないか?何か食うか?」
エレナの顔を伺うと疲れた顔をしている。やはり体力が無いんだろう。
「いいえ。話す方が大切なのでお気になさらず」首を横に振り拒否をした。
娘はなかなか頑固のようだ。少しずつ性格が分かってきた。
俺はこの子に気を使ってやる必要があるな。部下達にもしていた事と同じように…
「あなたの都合も考えず、私を押し付けられてご迷惑だとは思います。ですが、是非お力をお借りしたいのです。どうかお願いします!」
小さな体を折りたたむように頭を下げられちゃあなぁ〜
意志が固そうだ。俺は頭をガシガシ掻きながら考える。
どうせ捨てようと思っていた命だ。罪滅ぼしに残りを使う事ぐらい、どおって事も無いだろうよ。
俺なりの、皆への“罪の償い”だ。
「よしっ、分かった。俺の全力を持ってお前を鍛えてやる!任せなっ!」
エレナの顔がパァーっと明るくなった。めちゃくちゃ可愛いな。
「ありがとうございます!私も早く色々覚えて、黒木討伐に備えます!」小さな手を目一杯握り締めて喜んでいる。
◆◇◆◇◆◇
「だが、まずは体力を付けないと。俺も随分剣を振ってないし、そもそも剣が無いしな。飯食ってよく眠って体力作りが先だ。だから今日はもう寝るぞ」
エレナはまだまだ話したそうだけど、今日はここまでだ。この調子だと、夜通し話をしそうだ。ヤレヤレ。
子供は寝ないとダメだよ。大きくなれないぞ。
「でも時間が…!まだ伝えないといけない事があるんです!話を聞いて下さい!」エレナは焦りのあまり大声を出した。
「あ〜、目標が決まっているなら大丈夫じゃね?俺も疲れたし、お前ももう限界だろ?目がショボショボしてるぞ?」
一緒にベッドで横になって掛け布団を掛けてやり、お腹の辺りをポンポンゆっくり叩いてやる。
いやっとかやめてっとかエレナが騒いでいるけど、いきなり静かになって瞼が閉じた。くくくっ、眠かったんじゃねーか。
明日もう一泊するから、移動に必要な物を色々買って……。そうだ冒険者登録しないと。国どころか、街に入るにも苦労してしまうし。
金も稼がないとな。この子の金を当てにする訳にはイカン。大人としてそこまで腐ってはならん。
◆◇◆◇◆◇
ベッドで横になりながら考え事をしてはダメだな。俺もすぐ眠りに落ちてしまった。
布団で眠るなんて何年ぶりだろう。
目が覚めたら、太陽がかなり上のほうにあって驚いた。
「エレナっ」慌てて横を見たらまだ眠っていた。ほっとしてエレナを起こさないよう、俺はベッドから抜け出して身体を伸ばした。
関節がバキバキ鳴った。だが、体が軽い。
生きる理由?言い訳?みたいなものを得たからか、心の中にあった黒い何かも無くなっている。
皆ごめん。俺がんばるからもう少し待っててくれな。
今のうちに昨日の串焼肉食っとこ。勿体ないし、モグモグ… モグモグ…
「んにゅ、おはようごじゃいましゅ、ユリュウシュしゃん…」んっ?エレナが起きたのか。
なんか言葉が拙くなってないか…?
「おはようエレナ。良く眠れたか?」俺は極めて冷静に聞いた。
「はい、ありがちょごじゃいましゅ。お腹がしゅきまちた…」あれー?コレってもしかして昨日言ってたヤツ?普通の3歳児になるって本当になっちまったのか?
「あのー、エレナ?俺の事覚えてる?昨日の話とか」「ハイ、覚えてましゅ。記憶はありましゅ。ちゃべりかただけが変わりまちた…」
アハハっと笑ったら、エレナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
頭をグシャグシャ撫でてやりながら「可愛いなぁ〜」と呟いたら、手をぱしっと払い除けられた。
ぷくく、恥ずかしいらしい。ますます可愛いじゃないか。
◆◇◆◇◆◇
「顔を洗って出掛けるぞ。悪いがまた金出してもらえるか?色々買う物があるんだよ」俺のおねだりに、エレナが空間に手を突っ込み麻袋を出す。
やっぱり気の所為じゃなかったのか。『空間収納』が使えるんだなぁ。羨ましい。
「めんどーにゃので持っててくだしゃい」まだ眠いんだな。言葉がカミカミだぞ。
有り難く受け取って、十枚程金貨を俺のポケットにしまう。残りを返そうとしたらエレナに手で止められた。
エレナはまた空間に腕を突っ込むと、肩掛け鞄を引っ張り出した。
「コレちゃち上げましゅ。ちょーじょーちんからのぷれじぇんとでしゅ。アホ女神からの迷惑料だしょうでつ」相当眠いんだな。
全然くちが回ってないよ。ククク…
俺は笑いを堪える。
「創造神からのプレゼント?迷惑料?また話がデカくなってるな」「しょれマジックバッグでしゅ。魔力をちょちょぐと自分のしゅきな型に変えりゃれるしょーでつ」と言って俺に渡してくれた。
「ええっ!そりゃありがたいな。滅多に手に入らないんだぞ!」俺は受け取り鞄を眺めた。
今は肩掛け状態か。ん〜、しばらくはこのままで良いか。何時でも変えられるなら。
イヤー、良い物貰った!すっごく嬉しい!
早速金貨の袋を鞄に入れる。おぉ〜、重さを感じ無いぞ!
あの時コレがあったらなぁ〜。皆をもっと守れたかもしれないな…。イカンイカン。今はそんな事考えても仕方ない。
エレナがまた空間に手を突っ込み、今度は可愛らしい白い肩掛けポーチを出した。ピンクのお花の絵が付いてるな。似合ってるぞ。
「それは?」腕を通して鞄を肩に掛けるエレナに聞いてみた。
「コレはわたち専用でつ。こんにゃにかわいくしにゃくても。まっちゃく」3歳児が眉間にシワを寄せて、溜息を付いて文句言ってるよ。
笑いを堪えて口に手を当てる。肩が揺れてしまうな。ガマンしろっ俺!
◆◇◆◇◆◇
エレナが徐に、ポーチから懐中時計を取り出した。
俺の手の平ぐらいの大きさだ。銀で出来ているのか?
蔦に鳥が掴まっている装飾がある。蓋の真ん中には紫の魔石が付いてるな。
「綺麗な時計だな。それも貰ったのか?」
エレナが首を振りながら、項垂れるように言った。
「コレ、ミチュリルでつ。こんにゃ高価にゃ物にちて…。もうっ!いい加減にちてっ!」お〜、エレナが怒った。ミスリルかぁ〜。
怒っても可愛いなぁ〜。すっかり父親の気持ちになってるよ、俺。
「良い物貰って良かったじゃないか。大事にしろよ」頭を撫でてやると、エレナにキッと睨み付けられた。
「ちがいましゅ。コレは黒木の情報をちゅたえてくれる魔道具でしゅ」
蓋を開けると裏に鏡が付いていて、そこにクロキが何処に居るだとか、何をしているかとかの情報が出るそうだ。あとは普通の時計なんだって。
ただ、これだけの装飾だから余り人前で使わない方が良いかもしれない。
「ほら、もう出掛けるぞ。今日はたくさん歩くからな」
俺はエレナにローブを着せて、新しい靴を履かせた。少し喜んで見える。買ってきて良かった。
エレナは何度も靴の爪先をトントンと鳴らして、履き心地を確認している。
少し草臥れているけどな。俺が何時か新品を買ってやるぜ!




