03 娘の話はなかなか酷かった
「では続けます。黒木は酷い男でした。最初こそ優しかったのですが、段々本性を現し、私を殴るようになりました……」
うん、いるよねこう言う腐ったヤツ。
「黒木は私の周りの人達に嘘を吐き続け、私の名前でアチコチに借金を作り、私のせいにしました。借金取りが私の所まで来るようになり、私は追い詰められて逃げ場を失いました」娘は悔し気に俯く。
あ〜そうだろうなぁ。何処の世界だろうと同じなんだなぁ…
「最後に黒木に別れを告げた時、逆上したアイツに私はナイフでお腹を刺されました」
ナイフで…。痛かっただろうに…
ただ、頷いて聞いてやる。
「私はどこか諦めてしまい、死ぬことを受け入れてしまいました。とにかく楽になりたかった。黒木から逃げたかった。周りの人達から責められるのに耐えられなかった……」
過去を思い出したのだろう。娘は泣き出してしまった。
俺と一緒じゃないか。俺も逃げ続けて今はこのザマだ。
幼子が、涙を流しながらする話じゃないよなぁ。何だか可哀想になって、思わず頭をポンポン撫でてしまった。
だって見た目は3歳の女の子。しょうがないだろうが。
「ふふっ。すいません、お恥ずかしいところを」少し笑いながら、小さな手で涙を拭っていた。
「気にしなくていいよ。君はまだ3歳だろ?泣いて当たり前だ」
俺はお茶と菓子を勧めて一息つく。
幼子が菓子をポリポリ囓って、リスみたいだ。カワイイ。
カップを戻しながら大変だったな、と呟いたら聞こえていたようだった。
娘は顔を上げてニコリと笑った。
「もう昔の話です。ここから先が、大事な話になります」
娘が急に真面目な顔になった。
ふぅ〜〜、よしっ、と気合いを入れて聞くことにする。
◆◇◆◇◆◇
「この世界に黒木がいます。勇者召喚で喚ばれて応じたようです」
………ハァっ?勇者召喚!?嘘だろっ!
「私を殺したすぐ後に召喚されました。私は既に魂になっていたのでその召喚に巻き込まれ、途中で女神に拾われました。黒木は今、エルダーナ帝国で勇者をしています」
帝国が勇者召喚をしていただって!?
本当なのか……?
いやアレは禁忌とされて、勇者召喚の魔法陣は破棄になったハズ……?
俺は驚きの余り、動きが固まってしまう。
しかも、女神ってさっきも……
「本当です。ただ、召喚時肉体が保たなかったようで、今は別の姿になっているようです。私と同じように」
あぁそう…姿が違うんだ…… 俺、大混乱。
「アイツに前世の記憶があるのか、分かりません。もしあれば、厄介な事になるかもしれない」娘が眉間にシワを寄せる。
あぁそう…… 厄介な事……
「私のいた世界は、魔物も魔法もありませんでした。しかも、私の国はとても安全で清潔で、高度な文明がありました」
それは…スゴイデスネ…
「勇者のスキルは厄介です。前世の文明を、この世界で造り出してしまうかもしれない。そうなれば、この世界がメチャクチャになってしまう。それを危惧した女神が私を拾った。そして、黒木=勇者を討伐せよと………」
ふぅ〜、と娘は一息ついた。一気に話して疲れたようだ。
俺がお茶をついでやると、娘は一口飲んだ。
「なぁ、名前はエレナで良いのか?」
俺は声を掛ける事で、止まった思考を復活させた。
「この体の子の本名はアレクシアです。何処かで死にかけていたとか…」と娘が言う。
あぁ~… うん…… 死にかけ……
「でも、エレナとお呼び下さい」
娘が恥ずかし気に微笑んでるな。
なんだか嬉しそうだ。
「ゴホンッん~~、よし、エレナ。お前は人を殺したことがあるのか?」
エレナは黙って首をフルフル横に振る。
そうだろうな、と思いつつ俺は頭を手でガシガシ掻いた。
端から無理な話だよなぁ。人を殺す事を覚えろって事だろ?簡単じゃないぞ。
女神ってクソなのか?
帝国は昔からクソだけど。
◆◇◆◇◆◇
エレナの話は続いた。
かなり疲れたように見えたから、続きは明日にしようと俺は言ったのだが、彼女は時間が無いと言う。
どう言う意味だ?
「明日になると、私は3歳らしい言動に戻ってしまうようです。記憶も無くなるかも知れません。なので、あなたに全てを話し、覚えていて欲しいのです。誠に勝手ではありますが…」
そっか… 記憶が無くなるかも知れないと…
「私は黒木に復讐したい。罪を償わず、逃げたアイツを許せないのです。本当は女神の元で訓練を積み、黒木討伐に備えるハズでした。ですが、女神はそれを放棄した。約束を違えた」小さな手を握りしめて、上下に振り回してる。
なんだかエレナの後ろに黒いモヤが見える……
「なのに、私をあなたに預けて自分は高見の見物なんて……。この世界も碌なものじゃありませんね」エレナの目が鋭くなった。
罪を償わず逃げた俺も、責任逃れした女神も、勇者召喚した帝国も、クロキと同等のロクデナシだな。
「あなたの国が敗けたのも、戦争に加担した黒木のせいです。ガリウレス王国の王族を殺したのは、黒木だった。アイツが全てを壊したのです」
なんだって…?
「あなたの敵もまた、黒木なのです。だから私は、あなたの元に送られたのです」エレナは、俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。
俺は愕然として動けなくなってしまった…。
口を開けポカーンとしてしまう。
「なっ、何故戦争に加担する?王族を殺して、クロキは何がしたかったんだ……」
頭を抱えて、俺の心から湧き上がる怒りを何とか抑え込む。
「全て女神からの情報ですが、黒木は人を殺したかった。皇帝はガリウレスの王妃が欲しかった。ただその為だけに戦争を起こしたのです」と、エレナは淡々と話す。
何だよソレ……… 王妃が欲しかっただと!?そんな事の為に皆死んだのか……! ふざけんなっ!
「いいですか。クズは一生クズ。反省する事はありません。黒木と帝国は、また同じことをするでしょう。ただ、己の欲の為だけに人を殺し弄ぶ。人の尊厳など考えもしない。そう言うヤツらなのです」エレナは憤る。
…………なるほど。良く分かったよ。
俺達が有利な戦況だったのに、いきなり形勢が不利に変わったのは、クロキ=勇者の介入があったからか。
おかしいと思ったんだ…。撤退が間に合わず、王族が皆殺しにされたと伝令が来た時も、俺は…俺は……
いつの間にか握った手を開くと、爪が食い込んで血が出ていた。
俺は痛みに気が付かぬ程、手を強く握り締めていた。




