22 宿を出てギルドへ
ユリウスさんの話は続く。
「それと、だいぶこの辺りで金を使った為、そろそろヤバい奴らに目を付けられそうなんだ。だから予定通り、明日この宿を出ようと思うんだがどうだ?」
何と…買い物をすると、ヤバい奴らが寄って来るのか!
それならば移動した方が良さそうだ。
次の宿もお風呂あるかなぁ〜。
私は頭をウンウンと動かした。
「じゃあ、一先ずこの宿を出よう。俺も体力が戻ってないし、お前もキツいだろ?違う宿を探そうな?冒険者にもなったから、依頼を受けて金を稼がないと」
おや?金を稼ぐとな?「お金にゃら、あにょ袋にいちゅも入っていましゅよ?」
どのくらい入っているのか知らないけど、当分持つぐらいは入っているんじゃないのかなぁ。
「金も稼がず、ずっと食っちゃ寝してたら怪しまれるだろ?修業はどうした?」ユリウスさんにそう言われてハッとした。
そうだ。私も剣を覚えたいし、魔法も女神曰く、威力が弱いみたいだし。
「人目に付かない所でやらないとならないし、俺は森の中で野宿も出来るけど、お前はどうなんだ?」
森の中で野宿…。絶対無理だ。
「野宿はイヤでしゅ…」私は泣きそうになりながら答えた。
想像するだけで怖い。この世界には魔物がいるのだ。きっと今の私では、倒せないと思う。
ユリウスさんの足手まといでしか無い。
ヘコむ。
「なら、俺の言う事を聞けよ。しばらくは此処より粗末な宿になるが、稼げるようになればもっと良い所に泊まれるから。それまでは我慢だな」
お風呂無しかも…。私はガックリしてしまった。
「お前からは何かあるか?」ちゃんと私の意見も聞いてくれるユリウスさん。
「わたちはユリウシュしゃんが依頼を受けていりゅ間、どうなりゅのでしゅか?」
もしかして、一人で宿に置いて行かれるのでは…?邪魔なだけよね、3歳児なんて…。
「ちゃんと一緒に連れて行くよ。宿に置いて行けないし、少しでも体を動かすことで、体力も戻るしな。覚える事がいっぱいあるぞ!覚悟しておけっ!あと、お父さん、な?」ドヤ顔で言われた。
くっ。最後のセリフが無ければ完ペキだったのに!
「おとーしゃん…」
キャー、メッチャ恥ずかしー!私は顔を上げられなかった…
ユリウスさんは少し考え込んで、微笑みながら私に言った。「もう寝ようか」
当たり前のように二人でベッドに入る。
こらから毎日、こうやって一緒に眠るのかな。
ただ、3歳児の体なので何も考える間も無く、眠っちゃうんだけど。
◆◇◆◇◆◇
次の日、朝日が昇ると同時に私達は宿を出た。
ユリウスさんは私を抱き上げたまま、女将にお礼を告げた。
この宿は『草原の小兎亭』と言うそうだ。
そして女将は、朝食用にとサンドイッチを作って持たせてくれた。
初めの態度は何だったのか。旦那さんの愛のムチのおかげかな。
ユリウスさんがやたらと感動して見えたので、驚いてしまった。
“おもてなし”の日本人なら、客の為にアレやコレやするもんね?
私の感覚は、中々この世界に馴染むのは難しいかも知れないな。
私の顔を見てからユリウスさんは「いつかまた、金を貯めて泊まりに来ます」と宣言していた。
私も、ここならまた泊まりたいな。洋服貰ったし。
だけど、この貰った緑色のワンピース、生地が薄いのよね。上着がローブだけだし、かなり寒かったりする。
こっちの人は寒くないのかな?今、何月か知らないけど、私の感覚だと冬なんだよね〜。
私は“上着が欲しい”その一言が言えないまま、ユリウスさんの抱っこで街中に移動した。
◆◇◆◇◆◇
ユリウスさんはまた、考え事をしながら歩いていた。私は街の景観に見惚れていた。
石造りの家や、木造の家、石畳。たくさんの店にたくさんの人、たくさんの馬車。
本当に馬車が走っている。移動が大変そうだ。
頭に耳が生えて、尻尾を揺らしながら歩いている男女がチラッと見えた。
あれは獣人と言われる人達ね。じーさんが言ってたもんね。他の種族もこの街にいるのかな?エルフとかドワーフとか。いつか会えたら嬉しいなぁ〜。
「エレナ、顔はなるべく隠せ。お前は目立つ。厄介な奴らに目を付けられるぞ」ユリウスさんが小声で言う。
はて?厄介な奴ら?子供は珍しいのかな?
私は仕方無く、ローブのフードを深く被った。何も見えなくなってしまった。
ユリウスさんが「お前気配察知できるか?」と聞いてきた。
何ですかソレ?
「魔力を薄く伸ばして、人の気配を感じるんだ。出来るようになると、広範囲を探れるようになる。お前に対して敵意を持つ者が、分かるようになるぞ」
そう言われて、なるほどと思った。これは出来る様にならねば。
「そう言えば、お前はどんな魔法が使えるんだ?」
「女神にょ所で、基本的なこちょはおしょわりまちた。初級はじぇんぶちゅかえましゅ」教えてくれたのは主にじーさんだし、火と水と風と土で全部でしょ?
「全部って何?」ユリウスさんに不思議そうな顔で聞かれた。
「しゃあ〜、分かりまちぇん。もう教えりゅこちょは無いって、追い出しゃれまちた」
ユリウスさんの眉間にシワが寄った。
「じゃあ、森に入った時にでも確かめよう。生活魔法は出来るか?」
生活魔法?何すかソレ?
「自分に浄化掛けられるか?ランプに火を点けるとか」
「しゅいましぇん、ちらないでしゅ…」私、何も教えてもらって無かったのね。
あんっのクソ女神!!
「大丈夫、俺が教えてやるよ。覚えて損は無いぞ。風呂入らずだし、火打ち石もいらないし。便利だぞ?」
何と、ユリウスさんに教えて頂けると言う。さすがイケメン。ありかたや〜。
◆◇◆◇◆◇
公園があったので、そこで女将が持たせてくれたサンドイッチを食べる事になった。
中身は野菜と肉。肉。どうしてこうも固いのだ。一切れ食べて、私は顎が疲れてしまった。
ユリウスさんが買い置きしてくれていた、果実水とクッキーをマジックバッグから出してくれた。
甘い物に飢えていたから、物凄く嬉しかった。さすがイケメン(2回目)。
「俺の名前は『ガス』になったからな。間違えるなよ。家族欄にエレナの名前があるだろう?ここに名前があると、他の街や国に出入り出来るんだ。誰かに父親の名前を聞かれたら、ガスって答えろよ」
私はカードを見せられ、文字を見せられた。
読めねーよと思っていたら何と!文字がキラキラ光って読めるようになった。異世界マジック?
ユリウスさん、偽名にしたんだね。フムフム。間違えないよう気を付けよっと。
「そろそろ行こうか」と、ユリウスさんの手が差し出された。
私に歩けって事ですね?そう言えば、宿の部屋の中以外で歩いていなかったな。
よしっ!がんばって歩いてみましょう。
どうやらギルドに向かっているようで、冒険者らしき人達とよくすれ違うようになった。
ふふふ、イケメンと手を繋いで歩いているわ。もうそれだけで楽しくなる。さすがイケメン(3回目)。




