18 クソ女神ふたたび
シャワー室はトイレと一部屋になっていた。前世と似た造りだね。
自分の姿が見たかったけど、鏡が上の方にあって見ることができない。別に今じゃなくてもいいか。
青い石と赤い石が並んで壁にくっついているけど、アレ何だろう?
そうだ!鑑定を使いましょう。フム。アレは魔石で魔力を流すことでお湯が出ると。
ん〜〜、両手をいっぱいに伸ばすが届かなぁ〜い。
私は服を脱いで魔石の前に立つ。両手を伸ばし、魔石に向かって魔力を飛ばしてみた。「えいっ」
私の魔法はショボいとクソ女神に言われていたから、少々力を込めてみた。
魔石に魔力がぶつかりお湯が出た。「やった!」と思ったのだが、水の勢いが強い。
弱めたいがよく分からない。
ユリウスさんを呼ぼうかと考えたのだが、一度断っているし何より恥ずかしい。
3歳児の身体でも恥ずかしいのよ。裸を見られるのは。
その時、扉が叩かれた。ユリウスさんが買い物に行って来ると言う。
この時が最初で最後のチャンスだった。
だが私は澄ました声で「ちゃんと戻って来て下さいね」と答えてしまった。
ユリウスさんは「ちゃんと戻るよ。お前も部屋から出るなよ」と言って行ってしまった。
私のバカッ!ちょっと聞けばいいのに。仕方ない。そのまま体と髪を洗った。
この子の体、痩せ過ぎだ。がんばって食べよう。ユリウスさんはきっと、私に食べさせないと言う選択はしないだろう。しないよね?
お願いします。
また魔力をぶつけてお湯を止め、服を新しいのに着替えた。粗末な麻のワンピースだが、最初の服に比べたら十分だ。
部屋にユリウスさんがいなかったので、まだ買い物をしているのだろう。
お金足りるのかな?戻るよね?
私は眠気に勝てず、ベッドに上がって横になったらそのまま眠ってしまった。
◆◇◆◇◆◇
〈ちょっとアンタ!ちゃんと下界に行けたんでしょうね!さっさとアイツ殺して来なさいよ!何グズグズしてんのよっ!この役立たず!下界に降りて一日経つと、3歳らしい振る舞いになっちゃうのよ!早く行きなさい!〉
ムカつくキンキン声が頭に響いて、余計に腹が立った。
(あ゙あ゙?私の事蹴り飛ばしやがって、このド派手ババァが。こんな体で行けるわけ無いでしょーが!そんな事も分かんないの?何でアンタみたいのが女神やってんのよっ!)
〈何ですってーー!この、生意気な小娘が!アタシへの恩を忘れたのかしら?今生きていられるのはアタシのおかげでしょうが!〉
(よく言うわ。私が生きていられるのはアンタじゃなくて、じーさんのおかげよっ!アンタ何もしなかったじゃない!何度も餓死しそうになったのを助けてくれたのは、あの見習いじーさんよっ!)
頭の中でクソ女神と口ゲンカをしていたら、じーさんの声が聞こえてきた。
〈もうお止めなされ!ワシが話をしますので!女神様は行く所があるのでしょう?〉
〈あらそう?コイツにちゃんと働くよう、よく言っておいてちょうだい。アタシを煩わせないでよねっ!〉
おや?女神は消えたみたい。ヤレヤレ。
〈エレナさん、体の調子はいかがですかな?〉
(じーさん、少しだけ魔法も使ってみたし、スープも飲んだ。眠気が凄いけど何とか大丈夫だよ。後、ちゃんと協力してくれそうな人の所に来れたみたい。色々ありがとうね。最後に挨拶できなかったのが心残りだったんだ)やっとお礼が言えて一安心。
〈いえいえ。力及ばず、エレナさんには辛い思いをさせました。でも、安心して下され。あの女神の数々の暴挙は目に余りました。なのでワシも動いてみましたぞ〉
動いた?何したのよ?
〈創造神様に密告いたしましたぞ。ワシは本来、創造神様に仕えておりましたのでな〉
うえっ、じーさんスゴいじゃない!
(へぇ~、じーさん本当はエラい人だったの?)
〈フフッ、見習いである事には変わりありませんのじゃ。ただ、あの女神を危惧した我が主がワシを送り込んだのです。全てが明るみに出た今、あの女神はもう終わりですぞ。なので、すぐ勇者討伐に出向かなくてもいいのですよ。まずは体を丈夫にして、人生を楽しんで下され〉
人生を楽しむかぁ〜。できるかな?
〈それと、創造神様からお二人に贈り物があるそうで、エレナさんの空間収納に入れておきましたから、後で見て下され。便利な物だし、あなた達専用ですぞ。ユリウスさんも喜ぶでしょう〉
(そうなんだ。どうもありがとう。またじーさんと話せる?)
〈それは…ワシにも分かりませんが。創造神様がお話したいそうなので、また眠っている時にでもお声を掛けられると思いますよ〉
(分かった。覚えておくね)
〈はい、それではそろそろ交信を切ります〉
(じーさん、ありがとう。またね)
〈エレナさんもお元気で〉
◆◇◆◇◆◇
プツンと音がしてじーさんとの交信を終える頃、ガタゴトと音がして目が覚めた。
ユリウスさんが帰って来ていた。
「すいません、眠ってしまいました。色々買って来て頂いたみたいですね」私は内心ホッとしていた。
ユリウスさんに起こしてしまったと、謝られた。
買って来た物の中に、私の靴があった。足首まである革靴だ。
これは一般的な物なのかな?明らかな中古品。服も中古品だもんね。新品の方が珍しいのかも。フムフム。
視界の隅に何かが見えた。
ユリウスさんの服が濡れて、ぶら下がっている。あれ?もしかして私の服も洗ってくれたのかな?
思わずユリウスさんをガン見した。
この人ってば気遣いがイケメン級。
なんですか。スパダリですか。私の中身が三十歳だって知っても同じ事してくれますか。
「そろそろ話はできるか?いい加減色々知りたいんだが?」ユリウスさんに話し掛けられて、私はハッとした。
そうだ。事の成り行きを話して協力してもらわなくちゃ。
この優良物件を逃してはならぬ!
◆◇◆◇◆◇
私は目を擦りながら体を起こし「はい、理由を話します」と言った。
ユリウスさんがお茶とクッキーを用意してくれた。
ちびちび固いクッキーを齧りながら、巻き込んでしまった事を謝った。
「気にしなくていい。俺はユリウス・ガーナー。元騎士団長だ。と言っても祖国はもう無いがな…」と俯きながら指で頬を掻き、苦笑いを浮かべた。
「祖国が亡くなったのですか…?それは戦争で?」私が聞き返すと、ユリウスさんが涙声で話してくれた。
その中で、あのクソ女神が言った“エルダーナ帝国”と言う国名を聞く事になるとは。
ユリウスさんは一人で逃げ延び、今生きている事が辛いと言う。なのに、私を預けられて喜んでいるとも言う。
その相反する気持ちはよく分かる。
自分に腹が立つよね。
ユリウスさんの固く握った手が、ガタガタ震えていた。
「なるほど。だから私は、あなたに預けられたのですね」
ユリウスさんはハッとするように、顔を上げて目が合った。
クソ女神よ。一つだけお礼を言うわ。
私をユリウスさんの所へ送ってくれてありがとう。
今度は私が話す番だ。




