17 いよいよ下界へ
それからしばらくは、じーさんと二人で魔法の特訓をした。
この頃、じーさんから色んな話を聞いた。
「この世界は剣と魔法の世界なのですじゃ。森に行くと魔物がおりますぞ。人族以外の、獣人やエルフやドワーフ等もおりますのじゃ」
「えっ魔物?スライムとか?」
「そうですじゃ。本当は剣の扱いも女神様が……」なんかブツブツ始まっちゃったよ。
あの女神はまたしても全く現れなかったので、私は何故、あの若い男は女神にくっついているのか聞いてみた。
「あの男も見習いなのですよ。女神様の世話がしたいと自ら進んで仕えているのです」
「なんか、すっごい淫らな目つきで女神の事を見ていたよ?趣味悪いよね」私がそう言うと、じーさんは困ったように苦笑していた。
「私、あの若いのにも蹴られてたと思うんだけど?」
「お、覚えておいでですか?」じーさんが狼狽える。
「ずっと意識が有ったり無かったりしてたんだ。女神にも散々やられたけど、アイツにもやられたのは覚えているよ?」殴るは蹴るは…ね。
「そうでしたか…。本当に申し訳ない」と、じーさんが謝ってきた。
「じーさんが悪いわけじゃないでしょ?あの二人、絶対許さない」私はニンマリ笑って訓練を再開した。
◆◇◆◇◆◇
そして、私が火と水と風と土を出せるようになった頃、女神が来た。いつもの様に扇を握りしめている。
「もう行けるんじゃない?初級全部使えるでしょ?教える事はもう無いし」
……………………………はぁっ?!
「早くしないとあの勇者、スキルでマズい事をしそうなのよっ!何でも召喚の時に肉体が保たなくて、こっちの世界の男の体に入ったみたい。何でそんな事出来たのかしら?」
知るかよっ!
「その体になったせいか、魔法の適性が高くて望んだ魔法が作れるようになっちゃったみたいよ?」扇で私を指した。
望んだ魔法?まさか大量殺戮できるような魔法とか?
「そうね、アイツならやりそう。それに戦争に加担して、人を殺しまくったみたい。敵国の王族も皆殺し。楽しそうにね。」女神がニヤニヤ笑って、あっけらかんと言ってのけた。
「エルダーナの皇帝が、敵国の王妃を欲しがったのが戦争の理由だったのに、バカよね〜。連れて来ないで殺しちゃうなんて。アハハハハハ」女神が爆笑している。
「アンタ、空間収納と鑑定と結界と回復が使えるハズだから大丈夫よね?」また私を扇で指しやがる。
何が大丈夫なのよ!使い方聞いてねーし!
「あっ、大事な事忘れてた。この世界にもお米あるわよ。自分で探してみれば?」
私がいつもお腹を空かせて“おにぎり食べたい、炊きたてのご飯が食べたい”と思っていたのを知っていたのか。
くっそ〜〜〜!水と果物しか口にしてないのに!
「知らないわよぉ〜。アタシ食べ物いらないしぃ〜」
また私の心を読みやがって!
「アンタを預ける人も見つけておいたから。それと、空間収納に金貨入れといてやったわ。アタシってば優し〜い。じゃあ行ってらっしゃ〜い」と言って蹴り飛ばされて、私は意識を失った。
◆◇◆◇◆◇
陽の暖かさを感じて私は目を開けた。
神界には何も無かったから、今見える物が不思議でならない。
ボロボロの土の建物。すえた匂い。今まで以上に重い体。
気づいたら、私を覗き込む男の顔が目の前にあった。「あなたは…?」
「俺はユリウス。いきなり育てろと言われ、お前が空中から降りてきた」
「言われ?降りてきた?誰にですか?」
男はよく見ると、ガリガリに痩せていて髪はボサボサ。三十歳前後に見える。顔の形は整っていてイケメンだ。瞳は濃い碧。ドロの汚れでよく見えないけど、濃い金髪のようだ。
「誰かは分からない。いきなり頭の中で爆音がして、女の声で言われたんだ。お前を預けるから育てろと」
あんっのクソ女神!「ハァー、まったくあの女神ときたら!面倒になったからあなたに丸投げしたのね…… 約束が違うじゃないっ!」
私は動けない体を何とかしたくて、自分に回復を掛けてみた。少しだけ手が動くようになった。
このユリウスさんの体も酷そうだったので、そっと回復を掛けた。
一先ずこの人に協力してもらわねば、私は死んでしまう。
クソ女神の文句を言ってから、ユリウスさんに移動しようと伝えた。
◆◇◆◇◆◇
金貨を五枚渡し、服や食べ物の買い物をしてもらっている間も、自分とユリウスさんに回復を掛け続けた。
風呂付きの宿屋に行こうとも伝えた。
ユリウスさんは嫌な顔もせず、効率良く移動してあっと言う間に宿屋に着いた。
ずっと私を抱き上げたまま、少しも揺れないように動いてくれて、優しい人だなぁ〜なんて思っていた。
宿屋の女将?は物凄く感じが悪かった。どこもこんなものなのかな?
ユリウスさんが金貨を二枚渡したら、部屋の鍵を渡してきた。
金貨一枚いくらぐらいだろう…。
いつかユリウスさんに聞いてみよう。
二階の一番奥の部屋に入った。
ベッドと、机と椅子が一脚しかないよ?風呂は?あ、シャワーですか。無いよりマシ。
ユリウスさんは私を運んで疲れたようだ。
やはり回復だけでは体力は戻らないんだなぁ。
あれだけ痩せているんだから、長い間食事を碌に取っていないと思われた。
「名前は?」あれこれ考えていたら、唐突に聞かれた。
つい「それは後で。まずはシャワーを浴びて下さい。臭いがキツいです」とキツく言ってしまった。
私の悪いクセだ。会社の後輩も泣かせた事がある。気をつけよう。
ユリウスさんは新しい服を持って、シャワー室に入って行った。
◆◇◆◇◆◇
私の新しい服もある。今着ている服は、元々この体の子が生きている時に着ていたのだろう。すっごいボロボロ。サンダルだし。
あのクソ女神、自分はゴテゴテのドレスを着ていたのに、私に着替えを用意してくれなかった。ホントクズ。
私は重い体を動かし、何時振りか分からない食事を取ることにした。
パンと具の入ったスープ、串に刺して焼いた肉。
スープを一口飲んだ。野菜の甘みと塩の味。おいし〜。肉も入っていたが固くて噛み切れなかった。
パンを食べたかったが、胃が受け付けない。串焼肉は食べる気にすらならなかった。
この子も相当食事を取れていなかったようだ。多分餓死したのだろう。可哀想に。
あなたの体、大事に使わせてもらうね。生まれ変わって、お腹いっぱい食べられるようになると良いね。
そんな事を思いながらスープを飲んでいたら、ユリウスさんがシャワー室から出て来る音がした。
私は慌てて、残した食事を空間収納に入れた。
食べ物を口に入れたまま「すいません。先に食事を頂きました。私もシャワーを浴びてきます」とユリウスさんに伝え、着替えを持ってシャワー室へ向かう。
何度も回復を掛けたおかげか、体が動くようになった。
「一人で入れるか?洗ってやろうか?」ユリウスさんが親切心で言っているのは分かるけど、セクハラですよ?
会社の部長に肩を抱かれた事を思い出し、ついキッと睨んでしまった。
「一人で平気です。食事をして下さい」
もっと感情を抑えられるようにならなきゃ…。ふぅ~。




