15 私…死んだよね?
ここからエレナ視点になります
※暴力表現有り
「うるせーなっ!お前は黙って金だけ出してりゃいいんだよっ!俺に逆らってんじゃねーよ!」
そう言われて私、神崎恵麗奈は恋人だった黒木武利に脇腹を刺されて死んだ。
愛していたかと問われれば、愛していたわけでは無いと思う。
一人でずっと生きて行くつもりだったが、もう三十歳だったし、私もどこか焦ったのかも知れない。
付き合い始めてすぐ、黒木が私の名前を勝手に使い闇金から金を借りていた。
私は闇金に追いかけ回され、取立てが会社にまで来るようになった。
もちろん、私の借金では無い。
周りの人達は、初めは庇ってくれたけど段々私から離れて行った。
私にも責任があったとは思う。黒木の人柄を見抜けなかったし、分かった時点で全てを捨ててでも逃げれば良かった。
だけど…やっぱり、今までの生活を捨てるのに躊躇してしまった。
皆が私を責め立てた。
私が黒木に別れを切り出すと、毎回殴られた。顔以外は痣だらけで、長袖とボトムス以外は着れなくなった。
私は全てが嫌になっていた。
だからあの日…、サバイバルナイフをチラつかせて、私に迫って来る黒木を避けなかった。
ドスンッと言う衝撃と共に、全身に走る感電に似た痛み。立っていられなくて、腰から崩折れた。
これで黒木から逃げられる……。
妙な安心感があり、私はふふふと口から血を吐きながら笑いが漏れる。
自分でサバイバルナイフを引き抜き、体に抱え込んだ。どうしてそうしたのか、自分でも分からない。ただ後に、それは正解だったと気付く。
黒木は「ざまぁねーな」と笑っていた。
私が死ぬまでの数秒の間に、黒木の体が光ったように見えた。
黒木は何か言っていたようだ。だが私には、もう何も聞こえなかった。
そして私の意識は、暗闇に落ちて途絶えた。
◆◇◆◇◆◇
「ちょっとぉ〜、いつまで寝てんのよぉ〜。早く起きなさいよねっ!」
ガツンッと私の体に衝撃が走った。だが痛みは無い。足で蹴られた事だけは分かった。
体を起こそうにも動かないし、目も開かない。なぜだか異様に体が重いのだ。(私は死んだハズでは…?あの傷で死ななかったのかな…まさかね)
キンキン声で怒鳴る女の声が気に障るが、今はそれどころでは無い。
「〜〜〜。〜〜〜、〜〜〜〜!」 しわがれた男の声が聞こえた。
何を言っているのか聞き取れないが、寝ている私の横で庇うような仕草をしているようだ。
(この人達誰よ。私の事は放っといてよ)私の意識はそこで途切れた。
どのくらい経ったのか、またあのキンキン声で意識を戻した。
(病院なのかな?だとしたらずい分態度の悪い看護師だな…)またも私の体に衝撃が走った。しわがれ声の人が何かを言っている。
「アタシがわざわざ来てやったのに、何で目覚めないのよっ!使えない子ねっ!このグズっ!お前なんか拾うんじゃなかったわっ!」ドスドスと蹴られる。
「それは〜〜、〜〜〜でしょうが…」
(うるさいなぁ、どうでもいいよ、もう。何言ってんのか分かんないし、それより喉が渇いたなぁ〜…)そこでまた意識が途絶えた。
ある時、口の中に甘酸っぱい液体が入ってきた。喉が渇いていた私はゴクゴク飲んだ。
すると、体が温かくなってきた。
「これは神桃と言う実を搾ったのだよ。ゆっくり飲みなされ」いつものしわがれ声の男だった。
「お前そんな事勝手にやって、後で女神様に叱られたって知らねーからな!」
「責任ならワシが取ります。こんな幼子にあんな無体な事をしているのに、あなたは何も思わないのですかっ!」
「うるせー!クソジジイ!俺に指図すんなっ!俺は女神様の側にいるだけで満足なんだよ!こんな死に損ない、知ったことかっ!」
若い男の声を初めて聞いて驚いたが、その若い男がじーさんと私を足蹴りにしている。
「ちょっと!止めなさいよっ!」私の声がやけに高く、そして目が開いた事に驚愕した。
「私、生きてるの?それにここどこよ?」目に入る景色はただの空間にしか見えない。何も無いのだ。
初めて目にしたしわがれ声の男は、お年寄りだった。
じーさんは、私が声を出した事に喜んでいた。「お目覚めですかな?良かった、間に合いましたな」とても安堵した表情を見せる。
若い男は鼻息を荒くしたまま、どこかに消えて行った。
「ここはあなたのいた世界とは、違う世界の神界です。」
「はい?何言っちゃってんの?私死んだでしょ?死んだよね?」
「そうですね。あなたは死んで魂になり、この世界に来てしまいました。詳しい話は女神様からお聞き下され」じーさんは私に土下座をしていた。
「えっ?何で土下座?女神?何の冗談よ!声はやけに高いし、体は動かないし、何なのよ!」私は大声を上げて泣き出してしまう。大人なのに恥ずかしいと思ったが、次から次へと涙が溢れて止まらないのだ。
「お〜よしよし。泣かないで下され」そう言ってじーさんが胸をトントン叩いた。
私の意識はまた途切れた。
◆◇◆◇◆◇
それからのじーさんは、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
本来、女神がやらなければいけなかったらしいが、全くと言っていい程あの女は私の前に現れなくなっていた。
ようやく目を開け続けられるようになった頃、あの女が私の元に来た。
その姿を初めて見た時は、本当に驚いた。
着飾った格好が余りにも滑稽過ぎた。
顔はド派手なメイク。ぼってりした唇に真っ赤な口紅をたっぷり塗り付けている。人間でも食べましたか?ってぐらいだ。
服は中世のお姫様とかが着そうな、レースをふんだんに使って胸元がパックリ開いたドレス。
お胸が豊かとは言い難く…。
アクセサリーもこれでもかっ!と言う程着けていて、逆に重そうだなぁと思ってしまった。その手で誰か殴ったら自分が怪我するよ?
その孔雀の羽っぽい扇は何?手に持ったら邪魔じゃない?デカ過ぎでしょ。
アンタの美意識どうなってんの?
「何ですってぇーー!!」ただ心の中で感想を述べていただけなんだけど、あの女が持ってた扇で私をビシバシ殴って来た。
痛くは無いけどムカついた。動けない私をただ殴りつけるなんて、絶対仕返ししてやる…。
◆◇◆◇◆◇
「お止め下され!こんな幼子に何て事を!やっと安定して来た所なんですぞ!」
「アンタがちゃんと世話をしなかったからでしょ!アタシが悪いんじゃないわよっ!」今度はじーさんを扇で殴り始めた。
何なんだこの女は…。
「いい加減にしてよ。どうなっているのか、誰か説明してよ!」
そんなやり取りをしている私達を見て、あの若い男はニヤニヤしているだけだった。
「フンッ、これぐらいで勘弁してやるわ。それよりもやっと起きたのね。まぁいいわ。あなたにはやってもらう事があって、アタシが拾ってやったのよ。ありがたく思いなさい」
何なのこの女。何でこんなに高飛車な態度なのよ!
「はぁ〜。それで?ここはどこですか?あなたは?」
私が聞くと、女が面倒くさそうに答えた。




