13 オカユは正義
俺がエレナに聞いた通りの作り方を伝えると、トーダさんの奥さんがやってみると言ってくれた。
奥さんはミアさん。二人共細身だな。
出来上がったばかりのオコメをササッと洗い、鍋に入れて水を多めに。強火にかけて灰汁を取り、火を少し落としてゆっくりと。かき混ぜないで見守る。
ミアさんは感動していた。
「あなた、これ売れるわよ!主婦の勘よ!」
手を握り締め喜んでいた。まだ食べていないのに。
最後に塩をパラパラ。
皆で味見をした。
ほのかに甘く、少しの塩味と相まってとても美味しい。
「美味いなっ!大成功だ!凄いなお嬢ちゃん!!」トーダさんも感動している。
「はい、美味しいです」俺も笑顔で答える。
「すいません、娘に食べさせたいので少し貰っても?」
「うん、もちろん!食べさせて上げてよ」ミアさんが、お椀に出来たばかりのオカユを注いでくれた。
「今日はありがとうございました。このご恩は一生忘れません」俺はお椀を受け取り頭を下げながら、泣きそうになってしまった。
人の優しさが身に染みる。
「実は今……娘が入院してまして…。これで早く元気になると思います」もう一度頭を下げた。
つい、弱音を吐いてしまった。情けない。
トーダさんが「魔道具ができたら連絡するよ。ガス君どこに住んでるの?」と聞いてきた。
「それなら、冒険者ギルドでお願いします」
お互い手を出し合い握手した。
それでは、と店を後にする。
(昼飯食うの忘れた。それどころじゃなくってさ)心の中でエレナに言い訳をした。
◆◇◆◇◆◇
ギルドに着いて医務室に飛び込んだ。
アレン先生は不在だったから、そのまま奥の部屋へ。
エレナは眠っていたが、体を揺すって起こした。
「エレナ、コレ見てみ?」お椀を差し出しスプーンで掬って見せてやる。
目を擦りながらエレナが体を起こした。
「あー、こりぇ〜……」
「オカユで合ってるか?だいぶ冷めちゃったけど食べるか?」
焦っていたから、俺は思わずお椀を手に持ったまま帰って来てしまった。ローブの中には入れては来たんだけど…
エレナが温め直して欲しいと言うので、一度離れて共同キッチンへ。
オカユを鍋に移して温めている間に、俺も食事をする。
串焼肉を食べて、パンをスープに入れてバクバク食った。
腹の底がずっと冷えたような気分だったが、やっと温まった気がした。
「早く戻らないと…。エレナが待ってる」
温め直したオカユを椀に移した。ちょっと鍋の底が焦げた。
スプーンでこそげ落として食べてみた。苦味も旨かった。
◆◇◆◇◆◇
今度は冷めないよう、マジックバッグに入れた。
手早く片付け、医務室へ向かう。
すると、今度はアレン先生がいた。
「先生、娘が食べられそうな物を持って来たんです。食べさせても良いですか?」
「おうおう、構わんぞ。ワシも見ていて良いか?」
「どうぞどうぞ」
二人でエレナの待つ部屋に行くと、体を起こして待っていたようだった。
「駄目じゃないか、寝てなきゃ!」俺は厚手の上着をマジックバッグから出して、肩に掛けてやった。
また油断した。横になっているとばかり…
「うれちくてちゅい…ごめんなしゃい」上目遣いで見られたら、怒る気にもなれないな。
「ホラ、温めて来たぞ」椀とスプーンをマジックバッグから出し、一口掬ってふーっふーっと冷ましてやる。
「あ〜ん」と言いながら口元まで持って行くと、エレナの顔が真っ赤だった。
照れる3歳児。うん、可愛い。
俺はなるべく気付かない振りをして、そのままスプーン差し出した。
パクりと一口食べたエレナは「あ〜、おいちぃ〜」と両手を頬に当てて感慨深げだ。
「美味しいか?良かったな」俺も嬉しいよ。
次々と食べ進めるエレナを見て、アレン先生は驚きながらも黙って俺達のやり取りを見ていた。
後もう少しで完食できそうなところで、エレナはお腹がいっぱいだと言う。
「なぁ、ワシにも食べさせて貰えるか?」アレン先生が残り物でいいからと、椀とスプーンを奪っていった。
一口分ぐらいしか無かったが、アレン先生が唸った。
「コリャ美味いな。病人にも怪我人にも食べ易いぞ。コレ何だ?」
エレナと目を合わせてどうする?と聞いてみる。
エレナがウンウンと首を縦に振るので、アレン先生に教えてやる。
俺にちょっとした目論見があったんだ。
◆◇◆◇◆◇
「その料理は“オカユ”と言います。“オコメ”と言う穀物から作ります」
「オカユかぁ〜。そのオコメ?とやらはどうやって手に入れた?ワシは見た事が無いぞ?」
でしょうねぇ〜。
「滅多に手に入らないんですよ。これが最初で最後かも知れません…」俺は肩を落とし俯いて見せた。
案の定、アレン先生は慌てふためいた。
「おいっ、そう言う事は早く言ってくれよ!ワシ食っちゃったじゃないかっ!あ〜、ごめんよエレナちゃん…」
「イイエ〜、美味しい物は皆で食べた方がより美味しくなりますから。なぁエレナ?」
キョトンとした顔をしつつも、話を合わせようと思ったらしいエレナはコクコクと頷いていた。
「ここじゃあ何ですので…」とエレナを寝かせて部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇
アレン先生は頭を掻きながら付いて来た。
医務室で続きを話す。
「悪かったなー、貴重な物を…」
「気にしないで下さい。アレは実はトーダ商会にたまたま置いてあって…」と、これまでの経緯を話した。
「じゃあ、旧王都に行けば手に入るんだな?」
「迷宮にあるので、誰かが取りに入っていればそうですね?」だが、トーダさんしか取って来る人がいないと思うんだよなぁ〜。
チラチラとアレン先生を見やると、顎に手を当てて何かを考え込んでいる。
(これは釣れたか?)内心ほくそ笑みながら答えを待った。
「トーダさんね…。あの人自身も冒険者だから迷宮に行けるのは分かるが、一人で荷運びは楽じゃないよな。とすると、マックスを巻き込んで定期便の流れを造れば、絶えず入荷する事が出来るだろ?それから……」とずっとブツブツ言っていて終わりそうにない。
「あのー、先生?どうしました?」
「おう、すまん。こりゃワシだけじゃどうにもならんから、改めて日時を決めて集まろう。お前もいいか?」
あれ?思ったよりも大事になってる…?俺、そこまでの事は考えて無かったよ…?
「ええ、はい、良いデスケド……」
「じゃあ、連絡するな。お疲れさん」と肩をパシンッと叩かれて追い出されてしまった。
まぁ、いいか。
今日は一日疲れたし、もう寝よう。
トボトボ部屋に戻って眠ってしまった。
今日、剣振ってない…と思ったのは後の祭りだった。




