12 オコメ狂騒曲
エレナが大きな声を出したものだから、アレン先生が飛んできてしまった。
「どーしたっ!!」
エレナが涙を流しながら、茶色のツブツブを手で触っていた。
「こらこら、何で泣いてんだ?どこか痛いのか?お前何した?」
アレン先生は目を釣り上げ、俺に凄んできた。
「いえ、あの…前からエレナが食べたいと言っていた物が中々見つからなくて、それが、そこの市場の人の協力で手に入れられたかもと思って、急いで見せに来まして…」
俺は焦ってしどろもどろになりながら、何とか説明をして分かってもらった。
ふぅ〜〜。殴られそうな勢いだった。昔の騎士団長みたいだったな。
アレン先生、絶対に元騎士だ。俺の中で確定する。
エレナを見ると、横になったままえっぐえっぐとしゃくりながら泣いていた。胸をトントン叩いて落ち着かせる。
「おとーしゃん、ありがちょ〜」と俺の目を見ながら言ってくれた。
俺は猛烈に感動した。
初めて“お父さん”と呼んでくれたよ。すっげー嬉しいぞ。俺の口元は弛みっぱなしだ。
エレナの頭を撫でながら「いいんだよ。早く良くなれ」と言ってやった。
アレン先生もそれを見て、納得してくれたみたいで戻って行った。
「コレはどうやって食べるんだ?売ってくれた人も食べ方が分からないらしくてな。逆に教えてくれって言われたんだよ」と、俺は聞いた。
エレナは泣きながらも説明してくれた。
何でも、この茶色を剥がさなくてはならないらしい。ガラス瓶に入れて棒でずっと突っつかなければならないとか。
そうすると白いツブツブになって“オコメ”と呼ぶ物になると。
後は炊くと言う作業があるらしいのだが、言葉での説明は難しいらしい。
「でも食べたいだろう?どうする?」と聞くと、それなら“オカユ”と言うものなら、俺でも出来るだろうとエレナは言う。
フムフム。とにかく茶色のツブツブから白色のツブツブに変えなくてはいけないんだな?“オカユ”にするのはそこまで大変じゃなさそうだし。ヨシッ、トーダさんに相談だ!
エレナに「また後で来るからな。大人しくしていろよ」と頭を撫でて出て行こうとしたら、袖を掴まれた。
「おとーしゃんもちゃんとちゃべてね」
心配そうに俺の顔を覗き込んだ。驚いた。何だか急に、エレナとの距離が縮まった気がする。
「ありがとう。ちゃんと食べるよ」
俺は心底嬉しかった。口元がニヨニヨしてしまう。
じゃあな、と言って医務室を出た。
トーダさんの店にとんぼ返りだ!
◆◇◆◇◆◇
「トーダさん!!当たりでした!コレがオコメでしたっ!!」
トーダさんは飛び込んで来た俺を見て驚いてはいたが、やはり目の奥が光った。
「そりゃ良かった!それで?どうやって食べるんだい?」
「そこでご相談が…。是非ともお力をお借りしたい」俺は真剣な眼差しで訴えた。
「何でも言ってよ。何をすればいいのかな?」トーダさんの顔は笑ってはいるが、相変わらず目が怖い。さすが商人。
エレナの説明をそのまま伝える。
「ふ〜ん?結構な手間だねぇ〜。時間が掛かり過ぎる。魔道具作った方が早そうだ」トーダさんがニカッと笑い一つパンッと手を叩いた。
「そうと決まればダクじーさんの所だ!」右腕を上げて走り出してしまった。
行動力あるなぁ〜、トーダさんって。仕入れも自分でしてるって言うし。
俺も慌てて後を追う。
お店、誰もいなくなっちゃうけど良いのかな?
俺は、これもエレナの為だ、と頭を振り払った。
◆◇◆◇◆◇
五軒程店を通り過ぎて裏路地に入ると、ボロボロの店が見えて来た。
営業しているようには見えないけど…?
看板には“ダクサムの店”って書いてあるだけ。何の店?
「ようっ!じーさん生きてるかい?」トーダさんが勢いよく扉を開けて、大声で店の中に入って行った。
薄暗い店の中は人気が無い。カウンターやら棚には埃がいっぱい。
何がなんだか理由が分からない物が並んでいるが、これ売り物なのか?
トーダさんが何度も声を掛け続けて、やっと奥から人が出て来た。
「やかましいわこのボケが!!ちゃんと聞こえておるわい…」とブツブツ言いながら出て来たその人は、ドワーフだった。
「このじーさん、商売っ気が無くてね。いっつも妙な物作って私の所に来るんだけど、ソレ何時使うの?って物ばかりでさぁ~」と、ニヤニヤ笑いながらトーダさんが説明をしてくれる。
「うっさいわ。それで何の用じゃ?ワシは忙しいんじゃ…」
「ウソつけ!どうせ飲んだくれてるだけだろう?そんなじーさんに相談があるんだよ」
この二人、仲が良いんだな。
俺は、トーダさんとダクサムさんの顔を交互に見ながら、会話を聞いていた。
トーダさんがこれまでの経緯を説明してくれる。
「と言う訳で、このガス君の力になって欲しいんだ。上手くいけば大量生産になるかも知れないよ?」
いきなり話がデカくなってて困ってしまった。
「イヤ、その、急に何でそんな話に?」俺は焦った。
「この間、じーさんが作った食器洗いの魔道具あるでしょ?アレを改良したらイケると思ったんだよね。どう?じーさん?」
どうやらトーダさんの頭の中では、もう算段がついているらしい。
ダクサムさんが目を瞑って考え込んでいる。
俺には何がなんだか分からないから、黙って待つしかない。
手に汗を掻く程、静まり返った店の中。
「要は棒で突くってことは、摩擦で削るんだろ?あの魔道具の水を風にして、あーしてこーして…」ダクサムさんが紙に何かを書き込み始めた。
俺にはさっぱり分からん。
「じゃあ頼んだよ。出来上がったら教えてね」そう言ってトーダさんが店から出て行ってしまい、俺も慌てて「よろしくお願いします」と頭を下げて追いかけた。
◆◇◆◇◆◇
トーダさんの店に戻り、エレナが言っていたやり方を試そうと言う話になり、ガラス瓶と太めの木の棒を揃えてくれた。
買ったオコメを全部入れて、ひたすら突っつく。
段々ムキになり、突っつくスピードが速くなる。
「そんなに力を入れたら、瓶が割れちゃうよ?」時々トーダさんが止めてくれた。
「下に粉が溜まりますね。この粉は捨てた方がいいかも」何度か瓶から粉を捨てる。
とにかく、白くなるまでがんばった。
腕が疲れる。
トーダさんも代わってくれたりしながら、夕方までの数時間がんばった。
「こんなもんでしょうか?」二人で顔を見合わせ、白くなったオコメを見た。
「うんうん。良いんじゃないかな?これなら娘さんも喜んでくれると思うよ」トーダさんの目が妖しく光った。
「それで?どうやって食べるの?」




